今夜は月がきれいよ

まずは煙草を一本
書き始める前のルーティーン
落ちてゆく灰と片方だけ残ったピアスが同化されて
思い出はいつもモノクロ
鼻の頭にニキビができた
生理前だからかな
可愛いの飼ってるねと
喫茶店のお姉さんは笑う
過ぎ行く日々の変化を
肉体は如実に教えてくれる
ついつい心に偏りがちな私を
現実に引き戻す月の力
いつまでファンデーションを塗らずに済むだろうな
年齢を重ねれば私だって隠したいとこだらけになるだろう
40手前ですっぴんでも充分可愛いよと
言ってくれるのはまだ旦那さんだけじゃないけど
ひとりまたひとりと
減ってゆくんだろう
女は朽ちてゆくもの
それは仕方のないこと
巷に溢れる化粧品を見渡せば
どれほどの女がそれに抗おうとしてるのかわかるけど
疲れ果てたように老け込むのは私だってごめんだ
豚のように太るのだって勘弁願いたい
先日買ったバラがくたびれてきたとき
これもらっていいと旦那さんに聞かれたので譲った
ドライフラワーにしてインテリアにするつもりらしい
大切に壁に掛けてある姿を見て
私もこうされたいなあと思った
若い女になびくほど
バカじゃないことは信頼してる
でもずっと愛される自信があるかと問われれば
言葉に詰まる
だってまだ付き合いたての若い頃
君は顔だけが取り柄だねえなんて冗談言うから
冗談だってわかってても
たいした女じゃないのは自覚してるし
これから私だって老けていく
それでも愛してくれるかなんて
考えたら不安になるじゃない
しつこくなるのは嫌だから
毎日は聞かないけど
ねえ愛してる?ってどうしようもなく確認したくなるの
いつまで返ってくるかしら
死が二人を別つまでと
神父様はおっしゃったけど
理想はいつでも現実に負ける
薬指握りしめて祈るの
今夜は月がきれいよ
あなたが帰ってきたら一緒に眺めましょう
鼻のニキビを笑ってね
どんな些細なことにだって
気づいてくれるだけで嬉しいのよ

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