美輪明宏『おしゃれ大図鑑』から世界が広がった
私にとって、芸術や文学への興味の門扉を開けてくれた本が、10代の頃に読んだ、美輪明宏の著書『おしゃれ大図鑑』(集英社)だった。
あまりに繰り返し読んだせいで本体がヨレヨレになってしまい、引越しのときに手放してしまったのだが、この本が教えてくれた事は、今も私の意識に多大な影響をもたらしている。
「おしゃれ」と冠されてはいるが、この本に取り上げられている内容はファッションに限らず、かなり幅広い。
冒頭には、中原淳一の美麗なカラーイラスト。
ファッションやインテリア、更には香りへの心の配り方。
内藤ルネが示した「カワイイ」の真髄。
夏目漱石や川端康成、谷崎、三島、芥川など、文豪たちの紡いだ美文。
寺山修司のマルチな活躍については、まるまる一章が割かれている。
音楽、美術、映画や演劇、言葉遣い。
さらにはイチローに代表される「現代のイイ男」論から、エディット・ピアフが人生をかけて体現した「愛」に至るまで。
美輪さん自身の経験や美意識のフィルターを通し、あらゆる「美」を、ほぼカラーページで紹介している。
私はこの本を手にした10代当時、ページをめくるごとに出てくる人物や固有名詞を、しらみつぶしにネットで検索したものだ。
紹介された書籍を探しに、書店や古本屋めぐりもした。
中原淳一の『あなたがもっと美しくなるために』も買い求めた。カラフルな表紙デザインがお洒落で、本棚にあるだけで嬉しくなった。
それまで、さくらももこのエッセイと太宰くらいしかなかった私の書棚に、川端康成と谷崎潤一郎、さらに三島由紀夫が加わった。
寺山の『田園に死す』との出会いもこの本からだし、人生で初めて詩集や歌集というものを買ったのもこの本がきっかけだった。
昭和レトロの可愛い小物が好きになったのも、内藤ルネを知ったおかげだった。
それに、今でも無意識のうちに、黒一色のコーディネートを避け、どこかしら色のあるものを身につけているのも、多分この本で美輪さんが「色の持つ力」について触れていたのが頭に残っているからだ。
『おしゃれ大図鑑』は、今の私をかたち作った本のひとつである。
もともと女性ファッション誌の連載をまとめた本であるし、ピンクのストライプが可愛い表紙からしても、女性向きの本である事は確かだが、ちょっと文学や芸術、サブカルチャー寄りに興味のある人なら、性別問わず楽しく読めると思う。
手元に置いて何度でも読みたい本。
私も書店で見かけたら、また買い直すつもりだ。
今後、ハードカバーの豪華新装版など発売されたら良いなぁ、と密かに願っている。
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