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レベッカの「せんぱい・・・」騒動をトンデモ考察してみる

全然詳しくないくせに、分かったようなことを言ってみるが、ここ四半世紀に起きた、日本人の音楽意識の大きな変化といえば、「裏拍を取れるようになったこと」だと思う。

昭和の歌謡番組の映像を見るとよく分かるが、当時の観客は、ほぼ表拍で手拍子を打っている。
現在でも、『NHKのど自慢』の観客などに見られる現象だ。


新沼謙治の『嫁に来ないか』を例にとってみる。(この曲を選んだことに深い意味はない)

昔の観客が「よーめ  こない 」の太字部分を拾って手拍子するところを、
今の若い世代なら「よーめ にー ない かー」という風に拾うと思う。

さらに言えば、昔が「1,2,3,4」というリズムの取り方なら、
今は「123、23、323、23」と刻む取り方をするのではないか。

同じ曲でも、今と昔では、リズムの取り方が全然違うのだ。


日本人はもともと、裏拍が取れない、裏拍になじみの薄い民族だといわれる。
盆踊りや童謡・唱歌を思い浮かべるとわかりやすいが、日本人は思いっきり表拍の民族である。

つんく♂が『リズム天国』を作ったのは、その辺が理由だった気がする。
「日本人のリズム感を鍛えたい。8ビート、16ビートが取れるようになってほしい」という思いがあったとか。

『リズム天国』の発売は2006年。
それ以前には久保田利伸とかも居たわけだし、裏ノリにまったくなじみが無いわけではなかったはずだ。市民一般レベルまでに浸透するには至らなかったのだろうか。

私は現在30代半ばであるが、裏ノリが根付いたのがいつ頃だったのか、明確には覚えていない。気づいたら、という感じだった。

現代は、表拍・裏拍どころではない、複雑なリズムパターンの曲も多い。
一般リスナーがそれについていけているということは、日本人は、ここ10~20年のうちに、知らず知らずのうちに裏ノリ教育されているということだ。


前置きが長くなった。ようやく、タイトルの話。

REBECCAの『MOON』は、「センパイ・・・」と呼びかける幽霊の声が入っているとして有名。

サブスク配信にあったので、「デジタルでも幽霊の声は入っているのかな?」と興味本位で聞いてみたのだが、2番の「家を飛び出して戻らなくなった」という歌詞の後にあるというその声は、何度聞いても発見できなかった。

強いて言うなら、「壊してしまうのは」という歌詞の直前に、「say bye~♪」みたいな女声コーラス(というかNOKKOの声)が聞こえる程度。


――調べてみて拍子抜けしたのだが、「幽霊の声」とされているのはその部分だった。
いやいや。どう考えてもコーラスじゃないか。

一説によると、当該箇所のコーラスがなんらかの理由でボツになって、編集で消すはずが、ミスがあって消しきれず、中途半端な音量で残ってしまった…というのが、「幽霊の声」騒動の真相らしい。
事情を知ってしまうと、実にあっけない。

それにしても、「幽霊の声」の噂がここまで広まったのはなぜだろう。

私は、大きく分けて3つの理由があったのではないかと推測する。

1.前述の通り、中途半端な音量だったこと。

もっとはっきりくっきりしたものだったら、コーラスだと分かったはず。


2.世相的に、心霊ブームの真っ只中だったこと。

『MOON』の発売は1993年。
当時、心霊写真や呪いのレコードなどを取り上げた「心霊ブーム」が巻き起こっていた。
『笑っていいとも!』でも、「心霊レコード」の検証コーナーが設けられていたとか。
この『MOON』も、雑誌などで広く取り上げられたという。


3.当時の日本人が「裏拍が取れなかった」こと。

これが今回の本題。

あれが「幽霊の声」として広まったのは、「日本人裏拍取れない問題」も絡んでいたのではないか。

当該箇所をよく聞いてみると、軽いハミングのようなコーラスが、バックトラックの隙間を縫うように、「ンパ、ンパ」とリズムを取っているように聞こえる。

それまでドラムに合わせて「1,2,3,4」と表のリズムを取っていたところに、裏で取る「(ン)say、bye~♪」という声が入ったので、唐突な感じを受けてしまい、リスナーはコーラスと認識できなかったのではないか。

つまり、「コーラスの裏拍を聞き取れなかった」から、“認識できない、理解できない=不気味な声”として感じられたのではないか?というのが、私の推測である。

さらに言えばギターの「タタタタ、タタタタ・・・・」という端正なリフや、Bメロ以降強調されるドラムの「タン!タン!タン!タン!」という表拍が、ますますミスリードを誘っている気がする。

というわけで、「『MOON』に幽霊の声」の噂は、日本人が裏拍の取れる民族だったら、ここまで広まらなかったんじゃなかろうか?と、私は思ったりするのである。


他にも、「幽霊の声が入っている」という都市伝説のある、岩崎宏美の『万華鏡』。
あれも黒人ノリのソウルフルな「ウァ~~♪」というフェイクが、耳馴染みがない当時の人たちには、不気味なうめき声にしか聞こえなかった、というのが実のところらしい。

音楽をつくる技術・聞く技術はものすごく進歩しているし、現代のリスナーは耳が肥えていて、黒人ノリにも裏拍にも耐性がついている。

いろんな意味で、「幽霊の声」騒動って、現代では起こりにくい現象ではないかな、と思う。


ちなみに、かぐや姫の「私にも聞かせて・・・」の真相は、――未だ不明。
あれは、裏拍も黒人ノリも関係ないですからねぇ。

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