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忘れもの(1)



授業があるというのに肝心な教科書もノートも筆記用具もすべて持って来なかった。
どうしよう、、、これでは生徒に示しがつかない、、、どうするか、どうにかなるか?と、考えていたら、課題の返却もまだだったことを思い出した。返却どころではない。添削もしていない。しかも2週分。これでは格好がつかない。なんとか教科書だけでも・・・と考えていたら、友人がいたことを思い出した。そうだ、彼女のクラスも国語であの小冊子を使っている筈。それだけでもいい。今日の授業はあの小冊子の内容にしぼろう。
こうしてわたしは、友人のいる教室を探し始めた。


講堂の中をあちこちを急ぎ足で駆けまわり、ようやく友人を発見。かなり大きなクラスらしい。他の人たちと談笑している友人に声をかけ、例の小冊子を貸して欲しいと頼んだ。「いーよ、これでしょ!これ、結構おもしろいよね」そう言って手渡されたものは、、、、うちのクラスのとは違っていた。そっか、、、こっちの題材にしたのか、、、、がっくし。何も持たずに来たというわたしの話を聞いた友人は、全然問題ないという顔で、「mならなんとかなるって!大丈夫!生徒に話させればいーじゃん」

そう簡単には、、と思うが、時間は迫っているしもう後の手はない。仕方がないので自分の教室にトボトボと向かった。生徒たちの騒いでいる声が遠くから聞こえてきて、あああああ、なんか絶対にバレるし、馬鹿にされて授業どころじゃないだろー、、、と思う。
なんで講師になったんだろ?向いていないのに。自分を過信し過ぎたのだ。

後悔の嵐の中、ちっぽけな頭の中では授業の組み立てを必死で考えている。




01/13/2021

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