クロスノエシス5thワンマン「salvation」~身体というフロンティア、アスリートとしての表現へのこだわり~

クロスノエシス 5th ワンマンライブ 「salvation」を見てきたのでその感想です。

アイドルは歌とダンス…ではなく今やSNSと配信などを通して疑似的な1対1の関係性を構築する方がより強い時代だ。

また、現代という時代はなんでも数値に置き換えられれる時代だ。
SNSではファボフォローリツイートなどのエンゲージメントが事細かく計測され、Youtuberはチャンネル登録の依頼を必ず叫ぶ。
ネットのインフルエンサーはフォロワー数など数字にこだわることにやっきになり、誰しも数字に固執する世界となっている。

そして、オールドメディアはネット発のシンガーをYoutubeや定額制音楽ストリーミングサービスでの再生回数という数字でのみ紹介するなど、数字というわかりやすさの魔力の前には誰も立ち向かうことができない。

今日のライブでは、このように全てが数値化される時代に、歌とダンスのスキルという言語化が難しい領域で挑んだというのが僕の感想だ。

なぜ、言語化が難しいかというと、世界中あらゆる言語で書かれた全てのアイドルのライブ感想記事には大抵、「彼女たちの歌もダンスも素晴らしく」と枕詞のような一文があり、極端な話、この1行だけでは、未熟なアイドルたちが頑張ってそこそこ歌とダンスのスキルが向上しているのか、ばっきばきの韓流アイドル並の桁違いのパフォーマンスを見せたのか、全く区別がつかないのだ。

そしてそれを行おうとして、実際にそれに成功したのがクロスノエシスの今回のライブだったように思う。


クロスノエシスのライブの特徴は激しいライティングとVJ、そこに激しいダンス、実験的な手法(意味深で考察のしがいがありそうなセットリストVJ、曲順など)を取り入れるなどが上げられる。

去年の5月に行われた0ツアーでは、視覚を意味するVISIONという曲で舞台のどん帳が閉じてゆき、その向こうで踊るという演出が行われた(youtube公開版ではこのシーンは未収録)
おととしの12月に行われた4thワンマンライブ「blank」では公式発表のセトリと実際のライブで曲順が変わっていたり、公式セトリの曲順に抜けがあるなど、意味深な演出が行われていた。

が、今回行われたライブでは、前半こそVJによる幾何学的な模様を駆使したライブやワープホールのような映像が流れていたが、中盤以降では使われず、ライティングすら抑え気味にして、徹底的に自分たちのライブパフォーマンスだけを見せ続ける時間となっていた。

凡百のアイドルライブレポに書かれる「歌もダンスも素晴らしく..」という一文ではとても表現しきれないが、その一方でそれしか言いようがないライブであった。

しかし、ここであえて違う表現を求めるならそれはきっと「アスリート」という言葉が一番しっくりくるように思える。
自分たちの表現を徹底的に突き詰めること。これが彼女たちのストイックで求道者のような姿勢を示すのに適切な言葉ではないかと思う。
以前の配信で、細かいところのチューニングが行われていると話していたが、正直どこがどうなのかは僕には分からなかった。

それでも"神は細部に宿る"という言葉が示すように、細かく行き届いたライブパフォーマンスは確かに全体を作り上げ、回転という動作一つを取ってみても、緩急の付け方が素晴らしく、一例を挙げると、arkでは(恐らく意図的に)速度を落としつつもバランスが崩れない綺麗な回転が行われていた。
恐らくそこで表現されるのは宇宙という時間軸の雄大さだ。(arkという曲は人類の遺産を乗せた宇宙船がさまよう話)

翼よりでは、まるで公転と自転のように、回りながら回るなど高度な技が披露されていた。

特に好きなのは幻光でのメンバーが回転しながらフォーメーションチェンジしていくところだ。

とにかく回転という要素一つを取っても素晴らしさを語るのに枚挙にいとまがないのだが、ライブ後のMCではパフォーマンス特化したこと、まだまだこの表現を突き詰めていくことなどが語られた。

特に一番印象に残ったのがRISAさんの「ステージに失礼がないようなライブをしていきたい」という言葉だ。
あまりに良い台詞過ぎるのでアイドルの教科書があるなら最初に載せたいぐらいだ。



人間の身体には限界がある、そう思っていた。だから、アイドルは成長やメンバーの卒業や脱退と言った"物語性"の導入といったメタ情報を大量に貼り付けて勝負するし、純粋に強い曲(曲に負けているアイドルというものは多数観測されている)で勝負したり、配信などを毎日するなど頑張っているアピールし、ある種の同情を誘うと言った手法が取られる。

しかし、練度を高めた人の身体はまだ、人を感動させる余地がある。

身体は最後のフロンティア(未開拓地)である。これは舞踏家の最上和子さんの台詞で、少し前に読んだ雑誌に書かれていた一説で、どういう文脈で使われた言葉なのか正直覚えていない。

そのため、恐らく最上和子さんの意図からは外れてしまうかもしれないが、身体にはまだ、ダンスと歌のパフォーマンスで人を圧倒させうる潜在能力がある、そういう意味を込めて改めて言いたい、「身体は最後のフロンティアである」と
身体に向き合い、ライブスキルを磨くことこそが優れたライブを生み出し、表現者として多くの人を情動させることができる。

今回、クロスノエシスは、その身体というフロンティアを開拓し、アイドルという世界を拡張する方法を一つ示したと思う。

それが今回の達成であり、そして僕が「クロスノエシス」をますます好きになった理由だ。


おまけ
自分は数ヶ月前までSNSマーケティングに関する本を読みふけっていた。
特に仕事とは無関係で、本当に趣味で読んだだけだ。

そこで書かれていることはびっくりするぐらい「クロスノエシス」のメンバーができていないことで、SNSマーケティングがこれではだめだ!!!と思わされていた。

しかし、今回ライブを見たことで、彼女たちは自分たちの強みを分かっていてそこを伸ばすことに注力したことを知り、正直マーケティング的なことに違和感を感じていた自分が恥ずかしくなった。

だいたいのビジネス本でも(確かzero to one )企業は強みを伸ばせ!と言っているのだから彼女たちがやっていたことはビジネス的にもただしかったことのように思える。

しかし、マーケティングや拡散が必要な時代であることもまた大きな事実だ。現代人は 4F(Friend/follower/family/fan)の言葉を信じるという。

実際に僕が金は出すからクロノスのライブを見て欲しいツイートをしたところ、論文執筆で忙しいはずのオタク(friend)が合間を縫ってきてくれた。

多分、彼は僕のFriendとして、クロスノエシスが良いライブをしてくれると信じてきてくれたのだと思う。
メンバーの発言よりも友人の発言の方が信用できる。それはそうだと思う。

クロスノエシスというアイドルは自己アピールが得意なグループではないと思う。それはある意味はアイドルとして重要な部分が欠けていると言わざるを得ない。

しかし、拡散が大切な今オタクはもっと拡散をするべきではないかと思う。

好きなことを好きだと良かったと、楽しかったとツイートするだけでもきっと価値はある。しかし、それだけではまったく足りないと感じる。

だから僕は2023年はもう少しクロスノエシスに関する発信をしていこうと思うのであった。(自分の首を絞める発言)