見出し画像

家のない眼 最終話

かなり飲んでいた親族たち、奥から電話の音がする。お手伝いさんがとる、そして走ってくる。
「充さん、いやしさんからです、緊急で用意するものがあるということで電話に出てください。」
お手伝いさんのFさんは、70代の未亡人、恰幅がよく、よく笑う。その人が物凄く真剣に言うので充は重い頭を動かして長い廊下を急いだ。
「はい、代わりました。充です。いやしちゃん?どうしたの?」
「充さん、迎えに行って今高速のサービスエリアにいるんだけど、祈祷師の子孫のひと、詳しくはついたら話すけど、充さんに家に帰ってリツ子ちゃんが触っていたぬいぐるみを持ってきてほしいって。」
充はまだ酒が残る頭で考えるが、確かにリビングにあるがそれがどうしたのだろう。
「あのさあ、本当に悪いんだけど、実は二日酔いで、とてもすぐには取りには行けないよ。」
そしたら電話の奥で、
「きえい!」
という声が聞こえた、若い女の子の声だ。
それを聞いたら、充は二日酔いから解放されていた。
「これで大丈夫だって。あと二時間位でつくからそれまでに持ってきててね。じゃあ。」
充はびっくりした、いきなり酔いがさめた。電話の奥には凄い力を持った人が気合いを入れてくれたのだ。
充はFさんに礼を言って、車で家に戻り、少し休憩するためにコーヒーを飲んで、二三本タバコを吸ってから本家に、ぬいぐるみをもって戻った。

一族全員が目覚めていた。大広間にはロングの髪の美少女と太の孫のいやしがいた。いやしは地元の大学生で歳は21歳、背の高い美人である。いやしの両親は例の夢で寝込んでいる。
「充、このお嬢さんが祈祷師の子孫、仲藤しずるさんだ。実は彼女は眼が見えないのだ。」
しずるは閉じていた瞼を開いた、眼が白い、完全な盲人だ。
「皆さん、あたしが来るのに飲んでいたから気合を入れさせてもらいました。もっとも、猛さんは食欲が目覚めてしまったようで。」
充はよく見ると、猛が袋菓子をほおばっているのに気づいた、夢中である。

太がごほん、と咳をする。皆黙った。
「では、しずるさん、確認をお願いします。ひょっとしたら・・・。」
まるで見えているかのようにしずるは充のもとへ歩いてきて、ぬいぐるみを手に取って抱きしめた。臭いと感覚を確かめている。ほんの三分ほどだ。
「確認しました、呪いはとかれてます。多分後で調べればわかることでしょうが、充さんのパートナー、洋子さんは呪いをかけた男の子供の子孫です。
洋子さんが充さんに魅かれたのは、遺伝的に普通なことです。つまりお二人の子供、リツ子ちゃんが家に入った時点で呪いは永久に解かれました。ぬいぐるみの残留思念を調べましたが、呪いの主、神蔵俊三は今は空の上で最愛の人の魂と再会してます。その魂は澄んでいて、もう何の邪念もありません。家入太さん、あたしを呼んでくださり、ありがとうございます。あたしの祖父は沖縄返還の時に真っ先に本島に帰り、そこで過ごしていましたが病に倒れてから、ずっと家入家のことを気にかけてました。あたしは20年ぶりに力の強い人間らしいのです。その代わり光はありませんが。」
それを聞いて、充はほっとしたというか、安心しすぎて全身の力が抜けた。
太は、
「いやあ、充よ、お前は我が一族への暗黒を自力で運命を変えてくれたのだな。全く聞くまでは確信が持てなかったが、これで一安心じゃ。」
他のものもほっとしている。
そこに、しずるが、
「実は私はこの土地に着いてからすぐに事実に気付いたのですが、一つあたしの方からお願いがあって、ここにいます。」
しずるは顔を赤らめて、
「実は充さんは稀に見るヒーラーの力を持ってます。さっきちょっと指先がふれましたが充さんは世界に三人といない能力者です。そこでお願いがあります。充さんに・・・。」
充は首を傾げた。
「あたしの処女をもらってください。それであたしの眼は治ります。どうかお願いします。」
いきなりのしずるの発言にその場にいたものはびっくり、特に一緒に車に乗ってきたいやしはとってもびっくりしている。
充は訳が分からなかった、ヒーラーだって?そんな自覚はない。でも、少し考えてみる、幼稚園の頃、目の前で同級生がジャングルジムから落ちた時に、充がふれた瞬間にその子の吹き出た血が消えたり、
中学の時に、同級生が理科の実験ですぐそばで爆発を起こした時も自分がふっと息を吹きかけたら負ってたはずの火傷が消えたことがあった。
「しかし、しずるさん、君中学生くらいだろ。段々自覚はしてきたけど無理だよ。僕は洋子を愛している。リツ子も大事だし。」
充は流石に呪いの件は感謝してるが無理なお願いだと思った。大体淫行罪だ。
「そこは、あたしが洋子さんに見えるように暗示をかけます。きちんと中出ししてもらえばあたしは光を初めて見ることができる。お願いします。」
しずるは頭を畳にこすりつけるようにお願いしてきた。
太含め、皆困った。
そこで意を決して次男の義男が、
「充君。仲藤家への恩返しだ。幻惑でまやかされるんだから、してあげなさい。これは永遠の秘密だ。実はうちの孫の友達も盲人でね。助けられるなら助けてほしい。IPS細胞が発達するのを待ってたらいつになるかわからない。
兄さん、そうでしょ?」
太は、少し考えてから、
「充、しずるさんの願いをかなえてあげてほしい。家入家当主としてのお願いではなく、治せることをしてほしいと願う老人のお願いじゃ。」
充は立ち上がり、考え込む。
そして、
「わかりました。でも僕はロリコンじゃないから本当に洋子に見えるようにしてほしい。それと、妊娠はしないだろうね?じゃないと・・・。」
しずるは頭をあげた。
「それは、あたしの力で寸止めします。では、今夜にでも。」
そこにいやしが、
「これ、おかしいわよ。14歳の子供とするなんて。みんな、どうかしてるわ。」
いやしは実はレズだった。彼女はロリコンでレズ、つまり充への嫉妬である。
太が、
「いやし!お前の考えていることは分かるぞ。お前はもう自宅へ帰りなさい。しずるさんを連れてきてくれたお礼はあとで何でも叶えてあげるから今はその性癖を隠して自宅へ帰りなさい。みんな知ってるんだよ。親族は。」
いやしは顔が赤くなった。自分のことは知られていたとは思わなかった。

その日の夜、充は洋子に見えるしずるを抱いた。しずるが持ってきた漢方で元気すぎて朝まで六発中出しした。
次の日の朝、服を着たしずるが、
「見える!これが世界なの。嬉しい・・・。」
鏡で自分の姿を初めて見て、自分が美人なのを知った。しずるはまだ眠る充を起こさないようにして、去っていった。

2024年、パリオリンピックまであともう少し、充は洋子、リツ子と一緒に地元で暮らしている。洋子はカメラマンへの道を諦めて充のもとへと来た。大学時代に司書の資格を取っていたから地元の図書館に就職した。太のコネで。給料は安いが晴れて結婚届を出して、三人の家族となった喜びで洋子は毎日笑顔だった。リツ子は10歳、ませてきた。
充は髭をのばし始めて似合わないと言われてすぐにやめた。
充はヒーラーの能力を生かして、たまに連絡を受けると仕事をしに行く。通常の金庫番の仕事も継続している。国内の人間だけだ。
しずるの事だけは隠して、呪いがとけたことは洋子とリツ子にも話した。リツ子は地元の私立の小学校生活を楽しんでいる。

新開満は警備員の仕事が気にってしまい、主任に若くしてなった。
充は岡本唯を治すために病院に行き、密かに手を握ってやった。彼はその三日後に目を覚まし、火傷の後もほとんど消えた。二年前の事である。

水戸孝はサラリーマンゆえに転勤していった。独身だから気が楽だ。
八幡望は大工として景気のいい地元の仕事をガンガンこなしていた。
公務員の大谷保は同僚と結婚した。式には唯を含めて高校の時の仲間は皆呼んだ。充も洋子とともに出席した。

太は享年84歳でこの世を去った。ヒーラーとしての充の力で眠るように亡くなった。充は三日間泣いた。
葬儀には地元の市議会議員、地元選出の国会議員も来た。
アフターコロナではなかったが太のパイプはそれだけ強かったのだ。
太の娘のあすなが夫の寮と共に、後を継いだ。

世界はいつも暗闇、でも時々光が差す。その光を忌み嫌うか、チャンスととらえて生き抜くか、人それぞれです。
世界はいつも美しい。

パリオリンピック前の民放の特番を家族で見ていた充は少しびっくりした。
この二年で売れた、ノン隠し事アイドル、アイアンクロラのリーダーがあの、しずるだった。すっかり美人の大人になっているが面影はある。

MCが、
「そう言えばこの令和の世の中、アイアンクロラのすずさんは実はお子さんがいるというらしいのですが本当ですか?ネット上で噂になってますよ。」
それを聞いて、充は、まさか!と思った。
「まさか、あたし、まだ17歳ですよ。いたとしてもそれは愛している人との間の子供、愛をもって育てます。ね?」
充はその眼が自分に向けられているような気がした。そんな気が、しただけだ。 END

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?