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ルーニィ・ズ・ペアレンツ第一話「はろーわーるど」

デデン!この小説はサイバーパンクおバカ活劇!ちょっと抜けた人物達と、時々のバイオレンス!そして奇妙な繋がりを主にした物語です。ルーニィ・ズ・ペアレンツ第一話「はろーわーるど」!ささ、どうぞ通勤時でもごろ寝時でも!楽な姿勢になりながらお楽しみ下さい!


1


BRATATATA!連射される銃弾が、黒装束の若い男の足を掠める。暗い夜のネオンライト「マイニチ」「アカヨロシ」「メチル」看板が賑やかさを演出しているが、それと打って変わって人通りが少ない静かな街だ。発砲音だけが虚しく鳴り響く。

「ハァーッ…ハァーッ…」

男の荒い呼吸、大気汚染された薄汚い風が吹く。そして男は狭い路地を瞬時に見つけ身を隠した。驚いた奇形ネズミが巣に素早く戻る。

「クソッ!上手くやったろ!?今回も!何でこうなった!」

男の背後に者が立つ。死神だ。ゾクリと男は身を震わせ、首を後ろに向けて叫んだ。

「嫌だ!死にたくな」

背中をトンと押される。それだけだった。喧騒は去り、死神も去った。死神は夜を体現するような、暗い暗い紫色をしていた。

2


白衣のうらなりな男がキョロキョロと夜の街を探る。そして狭い路地を見つけると、目を輝かせにたりと笑った。人型のジャンクだ!踊るように路地へと入る。奇形ネズミがチウチウと鳴いていた。

「お、いいブツがあるじゃあ無いか。見る所、殺し仕事に失敗したか。ままあることだな。マザーの抱擁に包まれてあれ、と」

彼はしゃがれた声でそう唱え、大げさにMの字を右手の人差し指と中指を立てて胸の前で書く。それをやり終わるとぞんざいに左手首に着けた端末で連絡を取った。

「ハイ、ミヤコ。さっそくジャンク発見だ。これは高く売れるぞ。良かったな」

宝物を発見した子供のように連絡相手に伝える。端末から聞こえる声は、やや幼い女性、そしてこの街には似つかわしくない明るい声だった。

『ドク、アリガト!発見代と運搬代は差し引いておいてね!』

何時もの調子でドクと呼ばれた相手に答える。彼は顔をしかめたが、ため息をつく。

「オィ?運搬までアタシにやらせンのかい?まあ、いい。了解な」

うらなりな姿とは裏腹に、片手で人型のジャンクを片手で持ち上げ武装トラックへと載せる。そして鼻歌交じりでまた宝探しを再開した。

3


まるで麻酔をしてない歯の治療のような痛みで、男は目覚めた。

「ン、ア、アガガガガガガガ!」

目を白黒させる男に対し、油まみれの作業着とサイバーグラスをつけた少女が怪訝な表情をしてドクに呼びかけた。

「アレ?生きてた!ドク!どーなってんの!」

彼はボロいチェアに腰掛けつつコーヒーに3杯角砂糖を入れながら、振り向きもせず平坦に答えた。

「知らないよ。そこまで確認してないからネ」

痛みを堪えながら現状を把握しようとする男、ジャンクの山でガチャガチャとした室内、辛うじて雨風を凌げるトタン貼りの屋根、ドクと呼ばれている男の部屋だけ綺麗に整頓されている箇所があるが…おお、マザーよ。ここが死人の世界か?

「がッ、何処だここは!天国ってのかこんな貧相な場所だったのか!?」

男の発言に怒って少女は必要以上に工具に力を込める。

「家をバカにしないでよ!バカ!」

ドクはクツクツと笑いながら男の方を見て、コーヒーを混ぜたスプーンで頭をくるくる回す仕草をした。

「ここが天国に見えるとは電子ドラッグでもやってるのかい?ここはミヤコ社長のサイバネ工房だよ」

「イデデデデッ!すまねえ!せめて痛覚は切らせてくれ!」

自分が命を拾われ、修理されているのだとようやく自覚した男は許しを請い、一旦手を止めてもらう。男は痛覚を遮断しひと心地つく。指でOKマークを少女に出し、修理を再開してもらう。

「しょーがないなあ、許したげる!でも、借金また増えちゃったなあ」

明るくそう答えたが、肩を落としつつ口をとんがらせる。やはりミヤコにとっての誤算は男が生きていることだったのだ。

「ハハ、そんなときもあるサ」

適当にドクは答え、コーヒーを一気に飲み干した。


4


「発見代、運搬代、コイツの修理費諸々で500万老な。今回は不幸って事で、ちょいと肩代わりして安くしといたヨ。優しいだろ?」

右手で左手の端末から表示される金額を指差し、ミヤコに提示する。

「それでも高いよ!しょうがないけどさあ」

頭をポリポリと書いて、自分のサイバーグラスを操作し借金を追加する。思わずため息をつく。

「残り10億飛んで500万の借金かぁ、地道にやるしか無いよね!」

彼女は自分に言い聞かせるように頷き、溌剌とそう言った。最後のメンテナンスを男に施して笑顔とグーサインを出す。

「良し、修理完了!動いてみて!」
「お、おう」

男は産まれたての子鹿のように立ち上がり、ツキ、ケリ、空手のカタをする。動く、他の技術者がメンテナンスしたものより遥かに。

「生きてる、生きてるのか俺は!ホントに!」

思わず歓喜の声と両腕を上げ、雄叫びも上げる男。それを見て嬉しそうなミヤコと相反して面倒くさそうなドク。

「騒々しい男だヨ…一応バイタルチェックしてみるんだネ、ミヤコの技術はモノホンだから完璧だとは思うけれど。ついてンだろ?機能がサ」
「あ、あぁ…マジだ、オールグリーン…」

男は自分の後頭部を撫でて感嘆と安堵の息を漏らした。

「へへっ伊達におばあちゃんから会社継いでないよ!」

彼女は一連の様子を見てふんすと自慢げに鼻をこする。スキップをしながら工具を丁寧にしまおうとした。

その時!

CRAAAAAASH!!!工具置き場に漆黒のトラックがいきなり顔を覗かせる!機械が破壊されバチバチと鳴る音!トタンの屋根も弾け飛び青空天井となった。

「な、なんだァ!」

突然の衝撃に耐え、トラックを見て目を白黒させる男。井の中に黒の金のエムブレム!ヤクザだ!

「オヤ、今日もおいでなすったか」

ふぁ、と欠伸をした後に二杯目のコーヒーを淹れ、電子端末を弄りだす。彼女達にとってはこれが日常茶飯事なのだ!

5


細身の丸メガネをかけた怪しい中華風の男、筋骨隆々のぴっちりとしたスーツを来たスキンヘッドの男がヤクザトラックから降り、乱雑にドアを閉めツカツカとミヤコの前に立ち止まる。

「お嬢ちゃ〜ん!今日こそはこの土地、譲っちゃーくれねえかなぁ?でっけービル建てる為にはアンタんとこのお店が邪魔でさァ!周りはもう立ち退いてんのよ!サッサと首を縦に振れや!エェッ!」

両ポケットに手を突っ込みミヤコに目線を合わせ、くわえタバコの煙を彼女の顔に吹きかけながら威圧的に凄む中華風の男!

「絶対に、ヤ!何度も言わせないでよこのトーヘンボク!」

中華風の男から目線を逸らさず、ミヤコはこれまでで一番の声を張り上げた。

「んだとコラァ!」
「パク、そう熱くなんな。下がってろ」
「ヘイ、ニシナリの兄貴」

思わず拳を振り上げたトーヘンボク、もといパクをスキンヘッドの男、ニシナリが諌め、優しく営業的なスマイルで彼女に語りかける。

「お嬢さん、お祖母様の土地が大切であることは私達自身も承知しています。ですが、私達の目的であるビル建造も大きな案件でして、多少こちらも痛手が出ても良い!と思っております。前回は1億老を提示致しましたが、今回はこちらの利益は要りません。2億老で手を打ちませんか?モチロン私共から借りている2億老の借金はチャラ、倍ですよ倍!如何です?」

これ以上無いと言っていいほど良条件!しかしそういったものには必ず毒がある。それを察させないようなスラスラとした営業的トーク術だ!

しかしミヤコはかぶりを振ってその提案を食い気味に却下した!

「だ〜か〜ら〜!ここの土地はおばあちゃんから受け継いだ土地とお店なの!手放すわけにはいかない!特にアンタみたいなお面被ったようなハゲには!絶対に!」

ハゲ、という言葉に反応し額に青筋を立てるニシナリ。怒りを抑えつつ一旦離れ、弟分の肩に手を回してボソボソと会話をし始めた。

男はドクの側に立ち小声で心配そうに耳打ちする。

「やべえんじゃねえか、というかこっちが圧倒的に悪いじゃねえのかこれ」
「知らんネ、私は居候してるだけだから。ま、今回も引き上げるンじゃないかい?」

ヤクザ達がトラックの荷物を取り出し、サイバネ工房から距離を取る。パクの手にはロケットランチャー、ニシナリの両手にはマシンガン!徹底抗戦の構えだ!

「パク、どうやら話し合いでは解決できねえみてえだ。やるぞ」
「兄貴!そうこなくっちゃ!このガキ、けちょんけちょんにしてやりましょうぜ!」

6


「ヒャッハーッ!」

ニシナリは遠くながらも射程ギリギリのラインでのマシンガンの連射!確実に逃げ道を塞ぐように3人の両脇に的確射撃!それに合わせてパクはロケットランチャーを店に向かって放ち、叫ぶ!KABOOOOOM!青空天井の家は合成チーズめいて穴が空いてもう家ではない!

「オット、まさかここまでするとは!ハハハ!」

そう言いつつも椅子に座ったまま電子端末を操作するドク!どんな事になっても自分は大丈夫といった風だ!

「何笑ってんだ!そういう状況じゃねえだろ!」

崩れたトタン屋根を盾にしながら、ドクを見て唖然とする男!ミヤコも動じず不敵に笑い、懐からスイッチを取り出した!

「へん!そっちがその気なら!こうだよ!超電磁ボール!」

GUN!ドクの部屋の奥から旧式の大砲が飛び出すと同時に大きな銀色のボールが発射され、ヤクザの前に留まる!すると手元の銃、メガネ、そしてヤクザエムブレム、トラックがボールに吸い寄せられる!

「ヌゥーッ!」
「兄貴ィ!ちょこざいなァ!クソガキ!」

鉄製のモノを力で剥ぎ取りながらもこちらへ向かうヤクザ達!パクはほぼ鉄製のモノが無いので無傷!ニシナリは片目のサイバネアイが抉り取られ軽症だ!

「次はこれ!電気ネット!」

大砲から更なる白いボールが展開され、半径10mのネットが展開される!ヤクザ二人は回避を余儀なくされる!

「パク、計画のとおり続行だ、行け」
「合点承知ィー!」

ヤクザ二人はネットを辛うじて避け、ニシナリは片目を手で抑えながら店の左側へ!パクはそのまま真っ直ぐ突き進んだ!猪突猛進!

「ちぇ!避けられちゃった!でもこれで終わり!最終兵器!」

ミヤコがボタンを力強く押す!…押す!が、何も動かない。バツンと部屋の全電気が切れる。予備電源も、動作しない!

「えっ、な、何で!?何で動かないの!?」

パクとミヤコの距離が、50m….10m…1cm!

7


「とったりィーッ!ザマア無いぜ!」

パクの細くも強靭な右手がミヤコのか細い首に手をかけ、持ち上げる!

「か、かはっ」

ギリギリと首に握力がかかり、それを解こうと必死でパクの手を両手で掴み、気道を確保しようとするミヤコ。だが、どう足掻いても猫の爪で引っ掻くような傷くらいにしかならなかった。

「主電源はトラックで破壊、そして予備電源は俺が破壊した」

コツコツと歩きパクの横にニシナリが立ち、大振りでミヤコの頭を一発殴る。サイバーグラスが勢いで外れ、足元に転がる。フンと鼻を鳴らし、若干人間が焼けたような焦げ臭さを誤魔化す為にマッチでタバコに火を点ける。

「ってことらしーわ、クソガキ!お前が死ねば全て黒井組のモンになる。お前の抱えてる借金の数は少々痛手ではあるが、ビルが建ちゃ瞬で賄える金額だ。さあ、死ぬか、明け渡すか、選べェ!」

ミヤコが口をパクパクとさせる、段々と顔が紫色になっていく。だが目は死んでいない。抗うかのようにヤクザを睨む。命の炎はあと僅か。

男はただ呆然とその光景を見、沈黙思考した。コイツは命の恩人だが、迷惑は被りたくはない。ただコイツは、自分の会社の為に、自分の肉親から譲り受けられた会社の為に、己を貫こうとしている。そしてたったちっぽけな子供が、暴力に糸目がない大人に歯向かい今踏みにじられようとしている。そして今この現状で動けない自分が、どうしようもなく許せなくなった。心の炎が燻る。

「ミヤコにはプライドがある、あの娘は絶対に首を縦には振らないヨ。このまま死ぬのをゆーっくり眺めていようか?」

平坦な声でドクは男の肩に手を置き囁く。煽るような、嘲るような口振りに思えた。心に焚き火がくべられる。

「…」
「さあ、どうするネ」

男はふいごを吹くように息を吸い、吐いた。
そして!

「行くにッ!決まってんだろーッ!」

男の心に炎が、燃え盛った!

8


「っらァーッ!」

男は瞬間的速度でパクの隣に立ち、右肩を手刀で切断した!血液がシャンパンのように吹き出す前にミヤコを抱え、そっと床に寝かせた。それと同時に吹き出る血液!この間0.5秒!

「あ、兄貴ィー!腕がっ!腕がッ!」

パクは右肩を押さえながらたたらを踏んだ。今この現状に理解できないかのように自分の右手と肩を交互に見る。

「パク!…このガキ!用心棒を雇っていやがったのか!どこにそんな金が!」
「俺は用心棒じゃあ無い、だが、仁義ってモンがある。ヤクザにだってあるだろう?それを今、通しに来た」

ゆっくりと男は振り返る。その速度と同調するように、男の姿にノイズが走る。体の末端から本物の姿が露わになっていく。華奢であるが鋭い足、無骨であるが凶悪な腕、通常の弾丸では太刀打ちできなうような胸、宇宙飛行士のようなバックパック、そして顔はコンデンサのようになっていた。そして顔は黒く、それ以外は真っ赤であった。

「俺の名はシノビト、これからお前達を三途の川へと流す者だ」

地獄めいた声色でヤクザ二人に向き直り右手を開き、左手を拳にして胸の前で合わせた。頭部のディスプレイに菱形の中に逆さ老のマークが威圧的に表示される!

「うるッせえぞコラァーッ!お前がッ!死ね!」
叫んで己を奮い立たせ、シノビトの頭に大振りで拳を振りかぶった!破れかぶれ!

「ッらァー!!!!」

まるで赤子の手をひねるように拳を左手でいなし、右手でニシナリの首を掴んで床へめり込ませる!パクの居る位置まで引きずり、パクの首も左手で掴み、ゆっくりと立ち上がりながら首が締まるよう持ち上げた。ミヤコがされたように。

「がッご…」「あぎ、ぎ…」
「同じ殺し方をされる気分はどうだ?悔しいか?悲しいか?俺には分からないが」

冷徹でかつ平坦に淡々とそう呟く。出来るだけ相手の心を折るように。

「ゆ、許し…て」
「クソ…が…」

血が無くなり青くなったパクと絞首に抗うニシナリ、これから自分に起こることを把握しているようだ。これから心だけでなく首も、折られるのだ。ディスプレイで表情は分からないがシノビトは命を弄んでいる今、嗤っている気がした。

「駄目だ。さっきまで子供を殺そうとした人間が、生きて帰れると思うな。お前も、お前も。今ココで死ね」

9


「殺さないでッ!」
「!?」
ミヤコは切願した、命乞いに似たような叫びをシノビトへ届けた。彼は思わず二人のヤクザにかけようとしていた力が抜け、どさりと取り落とした。

「私は大丈夫だから!だから殺さないで!お願い!」

シノビトは動揺した。何故自分に危害を、それも殺そうとした人間を許すのか理解はできなかった。できなかったが、言う通りにした。

「パク、引くぞ!」
「つ、次は必ずッ!お前らの全てを奪ってやるからなァーッ!」

パクは出血を押さえながら、ニシナリは足を引きずりながらヤクザトラックに乗り、急バックして去っていった。

ヤクザトラックの音が遠ざかるとシノビトは身体のホログラムを元に戻し、若い男の姿に戻ってミヤコへ駆け寄った。ひとしきり大丈夫かと心配し、そして静かに問うた。

「ミヤコ、何故止めた。お前はアイツ等に殺されようとしていたんだぞ!?死んで当然の奴等だった。なのに何故!」

「因果応報、おばあちゃんの言葉。それを守っているの。だから!やればやった分だけ返ってくる。幸せも、不幸も…」

シノビトは彼女がこの年齢でありながら、人生哲学を持っていることに純粋に尊敬した。自分はそんな事を考えることは無かった。生きる為、必死に人を消し続けていたからだ。

「そうか…」
「これからも、あなたも人を殺さないで欲しい。出来れば、だけれど」

ミヤコは後半の言葉は自分の生き方の押しつけになる事を少し恥じて、小声で言った。シノビトは今までの殺しがあって、殺された。しかし今ここで生きていることも因果応報なのかと考えるが、一旦考えることは辞め、従った。

「わかった、命の恩人からの言葉だ。出来るだけ、そうする…それじゃ」

シノビトは行く宛はないが立ち去ろうとした、が、ミヤコの発言に引っかかるワードがあった。

「あ…?これからも?」
「そう!これからも!あなたにはここの正式な用心棒になって欲しいの!正直、今の私は子供だし、ドクはあんなだし…ダメ?」

ミヤコはにっこりと笑ってシノビトの手を取り、うるうるとした目で懇願した。こうなった少女の涙に抗える者は少ない!

「いや、俺はこれで恩を返したと思うし、俺には俺の生活があるから…」

シノビトは罪悪感を感じながらも、私は迷惑をかけるだろうからと、苦笑いして断ろうとした。

10


刹那!ドクが意気揚々とホログラムを見せつけてこう言った!インターラプト!

「ハイハイハイ、待った待った、これ君自身の借用書ネ!君の修理費、人権の再取得費、その他諸々コミコミで1億老!いやぁ〜再取得費は凄いお金かかるね!参っちゃった!」
「え、ええッ!?」

大袈裟すぎるアクションをとるシノビトにクククと笑うドク、驚いた顔が心底面白いらしい。

「ココで働いてくれればちゃ~んと返せる額だよ。ネ、ほら、ミヤコ社長も用心棒になって欲しいって言ってるんだしサ」
「ね〜!」

二人でニコニコ顔を合わせるドクとミヤコ、シノビトは渋い顔をしたが、借金は借金だ。恩もある、借金もある。正直殺し以外の仕事はしたことはないが、人を痛め付けるのなら得意だ。そう考えた。

「う、うむ。わかった。用心棒に成る、成らせて頂きます」

二人に律儀に礼をしてしまうシノビト。それにドクはウケ、ミヤコの後ろで笑い転げている。答えに、にぱっと満点の笑みを浮かべるミヤコ。

「やったー!じゃ、採用!ええと、そういえば名前はなぁに?シノビト?」
「アカツキ・ルニヨシだ。あ、です」

彼はミヤコに目線を合わせて再び律儀に言い直した。

「え!シノビトじゃあなかったの!?ま、いいや!じゃあ、んんと、ルーニィね!私はサイバネ・ミヤコ!まずは壊れた家の修理、一緒にやろ!」

ミヤコ強引に手を引かれるルーニィ、それに抗えず、ぐいぐいと引っ張られてしまう。

「ル、ルーニィ!?それに家の修理!?用心棒じゃあ無かったのかよ!?」

突然の愛称、仕事の増加に驚くルーニィ。ビシっとドクは雇用契約書の一文を指差し、おかしそうにこう言った。

「ホラ、契約書見て」

コミコミでね、と両方の人差し指と中指を立て2回折り曲げて言葉を強調すると、再びルーニィの顔を見て吹き出した。

「笑うなーッ!」
「アハハ、うっれしいな〜うっれしいな〜」
「ああ、どうなっちまうんだ、俺」

若干強引に手を引かれるルーニィ、無邪気に喜ぶミヤコをドクは見送りながら無精髭を擦り、ポツリと呟く。

「フフ、久しぶりに彼女の笑顔を見れたネ、これはこれは…良いコンビになりそうで面白そうじゃあないか!」

ヒヒヒ、と笑って彼はゆっくりと後を追った。

ルーニィ残り借金:1億老

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荘厳な一室、壺、天然皮素材の椅子、「仁義」の掛け軸、日本刀全てが目で見てわかるほど高級品で丁寧に掃除、または磨かれていた。その奥に社長椅子に座っている男。歴史を物語っている皺と古傷を持った人物の頭上には、大きな額縁に勢いのある達筆の書道で「黒井組」、下には土下座するパクとニシナリ。

「オヤブン、スイマセン。今回もダメでございやした。この不始末は俺のケジメで」

嗚咽を漏らしながら頭を地面に埋まるほど擦り付けるニシナリ。懐からドスを取出し、小指にかける。

「いや、俺の破門でッ!」

同じく嗚咽を漏らしながらニシナリの行動を見てさらに深く頭を打ち付けて土下座をするパク。それを見て息を深く吸い、吐いて優しく諭すように、しかし威厳を持った声で男はこう答えた。

「いや、良い」
「へ、へェ、良いんですかい?」
「で、でも俺達は…」

同時に頭を上げ、男の顔を見てこれではケジメがつかないと言ったような目で見つめる。男の目がギラリと鋭くなり、ドスの効いた声でこう答えた。

「俺自ら、出る」

ゴクリ、と二人は生唾を飲み込んだ。その言葉に蛇に睨まれた蛙のように体が固まる。

「お前ら、養生しとけ」
「「ハイ、オヤブン!」」

二人は震えながらも礼儀良く、足早に退出した。男はバタバタとした足音が離れるのを待ち独り言つ。

「お前らは大事な息子だ。それを傷つけられちゃあこっちも黙ってられねえさ」

男のホログラムが解かれる。その姿はルーニィと同じ姿だった。相違点は頭部のディスプレイが井の中に黒のエムブレム、漆黒の身体だけであった。

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