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【のーがたのーと】反物を活かした商品開発が、人と人との縁を育む/「松田衣料店」 内徳直美さん

須崎町商店街の静かな通りに、大きなショーウィンドウのお店があります。4代目直美さんが家族で経営する松田衣料店です。商店街の名物店舗という話を伺い、ぜひ話を聞きたい!と取材に訪れました。

「ごく最近はイギリスの人が来たんよ、そう、海外から!私たち、全然関係なく声かけるから(笑)。ほら、この写真見て!」

店主の直美さんは底抜けの明るさ。こちらの緊張なんてどこ吹く風。近頃に来店した外国人の話題から始まりました。

「お話しして、たまたまこいのぼり飾ったばっかりだったので写真撮る?って言って、今度写真を取りに来てもらう予定です!」

最初の話題が進むうちに私たちの緊張も解け、話は徐々に本題へ。まずは、100年続くお店の宝物からです。


時を越える宝物

松田衣料店は、大正4年に松田衣料品店として創業しました。お店には、長い歴史を感じさせる宝物が、いくつも受け継がれていました。

3代目松田英雄少年(左)と初代松田勘次郎さん(右) [提供:松田衣料店]

まずは唐草文様の大風呂敷で、初代から使い込まれた2代目松田静子さんの愛用品です。当時、筑豊線で門司へ。門司から船で下関へ渡り、京都からの商品を仕入れ、この大風呂敷で持ち帰っていました。3代目も幼い頃、この大きな風呂敷を抱えながら、仕入れを手伝っていたと言います。

「この風呂敷は大事な宝物やね。うっかり忘れても、風呂敷がひらひらと舞い戻って今も手元にあるからね、お父さん。」

褪せた色が年季を感じさせる、唐草大風呂敷

次は、年代物のシンガーミシン。最近、百歳の職人さんに分解掃除をして頂いたそうです。

「これねクリスチャンディオールのデザインらしくて、年代物だけどジーンズを数枚重ねても縫うことが出来る足踏み式なの。」

2代目から今尚受け継がれる貴重なSINGER社製191U型ミシン

そして、一番の宝物は、お店の奥にありました。3代目が昭和に仕入れた反物の数々です。鮮やかな柄物や、総絞りの振袖などが、所狭しと置かれていました。この反物がいま、松田衣料店に新たな挑戦をもたらしています。

大切に保管されている反物たちは日本の誇り

反物の魅力を届ける ”MOTTETE(モッテテ)”

反物からできた衣服を、実際に羽織らせて頂きました。思わず声が出る心地よさでした。手触りが良く、肌に馴染んでいるように感じました。とても軽く、綿や化学繊維とは全く違う、触れたことの無い素晴らしい質感でした。

絹の肌ざわりに、驚きが隠せない取材班

直美さんには、絹への強い想いがありました。絹にもっと気軽に触れて欲しい。着物の着付けの正式な文化などにも残って欲しいけど、もっと身近にしたいという想いです。試しに反物で洋服を作っても、何度もいつでも着てもらえるかしら?と思ったそうです。

絹をさらに身近に感じてもらえる商品を求めて、直美さんは、ビジネス支援センター ”のおがたベース” にも相談。試行錯誤の末、周囲の縁にも助けられ、絹と人との距離をぐっと縮める画期的な商品が生まれました。

”MOTTETE(モッテテ)” です。

自慢の逸品、MOTTETE(モッテテ)

“MOTTETE(モッテテ)” は、御朱印帳を入れるのにぴったりな、招福シルクの御守りサコッシュです。

財布やスマホも入れて、毎日使ってもらいたい。
出し入れ簡単で、絹に楽しく触れてもらいたい。
紐で下げて、友人にも自慢してもらいたい。
端材を無くして、絹は余さず使いたい。
”MOTTETE(モッテテ)” には直美さんの絹への想いがたくさん詰まっていました。

想ってて、護ってて、持っててと3つの願いをモッテテのブランドネームに込めて、世界へ羽ばたくようにロゴに日の丸を入れたそうです。

願いが縁を引き寄せ、さらなる挑戦へ

“MOTTETE モッテテ” を始めてから、着物を譲って頂くことが増えたそうです。

「お家で大切にしてきた着物を、もう持ち続けることはできないけど、ゴミに捨てたくない。」というお客さんの声。「MOTTETEを通して、需要が減っている日本伝統織物の絹の魅力をもっと多くの人に届けたい。」というお店の想い。絹を大切にする気持ちが、互いを引き寄せ、縁を繋いでいるのかも知れません。

繋がりの大切さを説く、3代目(妻)文子さん

その想いが、誰かに絹を届ける新たな力になっています。譲り受けた着物を再利用した商品の開発です。

お着物は、妊婦さんも着られる二部式着物へ。
羽織は、若い人向けの上着へ。
浴衣の反物は、涼しく透けず簡単に着られるワンピースへ。
博多織の帯は、丈夫で美しい鞄へ。

オーダー等の要望に応じながら、次から次へと、新商品を考案しているそうです。

「今は日に数人の接客だけど、ゆっくり語り合いながら、やりたいことも増えて、時間がなくなっちゃってきてるのよ(笑)。」

完成した品は、評判も良いそうです。

開発中のロングスカート風の二部式着物(2023/05/23)


絹に会いに来て欲しい

絹の様々な魅力を直美さんから教えてもらい、楽しい時間があっという間に過ぎていました。取材中、直美さんは多くの人に絹に触れて欲しいのだと、幾度となく口にしていました。

「ここ洋服屋さんだけどね、こういうのをね、触ってほしいわけよ。この感動を伝えたいわけよ。10代の子にも、20代の子にも。」

言われてみれば、私も20代ですが、シルクを体感したのは、ここが初めてかも知れません。私たちが量販店で手に入れる衣類は、その多くが綿や化学繊維です。

直美さんたちとお話しして、分からないこと、知らなかったこと、ついでに面白い話まで、たくさんの話に出会えました。時間も忘れてお店の人と話し込んだのは、初めての経験です。松田衣料店の挑戦を支える数多の縁も、こうして結ばれてきたのでしょうか。

直美さん(左)と、母の文子さん(右)。お二人と話すと時間が瞬く間に過ぎてしまう。

松田衣料店は、令和の時代に新しい取り組みに挑んでいました。直美さんが大事な反物にハサミを入れる際には、ためらいや葛藤もあったそうです。それでも少しずつ、ご両親と相談しながら進められていました。

3代目(妻)の文子さんの言葉が印象に残りました。

「今だけのビジネスじゃなくってね、数十年後の自分がどのような人物でどのように暮らしていたいのか?を良く考えて生きてるのよ!胸はってね!って、孫たちにもそう話すの。だって、月日はさっと流れるもの。」

前を見据え、ご家族一丸となって、楽しく挑む。そんな明るいお店でした。


MOTTETEを斜め掛けにしてアピールする笑顔の親子

店舗情報

『有限会社松田衣料店』
住所:直方市須崎町4-25
   直方駅から徒歩5分
営業時間:10時~17時
定休日:なし
電話番号:0949-22-2678
HP:(有)松田衣料店 ファッションマツダ - 須崎町の婦人服店・ブティク
SNS: 松田衣料店 | Facebook
           MOTTETE|Instagram
その他:MOTTETE(モッテテ)オンラインショップ

文・編集:青木直哉(担当)
取材:難波友哉、甲斐健太郎、鶴洋亮、青木直哉
撮影:青木直哉


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