「わたし」の次の章へ……“教員であるわたし”を追い求めた先に見えたものーーDANRO BEYOND卒業生インタビュー
「対話者(対話のプロフェッショナル・もしくはご自身のスキルや経験に対話を掛け合わせているプロフェッショナル)」としてさらに力を発揮していきたい方のための、半年に及んで行う「自分を超える・解放する」プログラム「DANRO BEYOND」。
第一期の卒業生であるみなさんに、数回に渡りインタビューをさせていただきました。今回はDANROスクール卒業生で、教員として活動しているまりさんから、スクールからの変化など詳しくお伺いしました。
スクールから続けての参加ーー見ないようにしていた部分を、より深めたい
――まりさんは昨年のDANRO Autmunが終わってすぐにBEYONDに参加されたと思いますが、それははぜでしょうか?
まりさん:DANROスクールに参加して、より自分の考えを深めたいと感じたからです。自分を出して、他の参加者のみなさんも自分を出してくれて。そういうところに身を置いてより自分のことを知りたくなりましたし、仕事についても深めていきたいなと思いました。
それから、BEYONDの中のテーマに「自分と役割としてのバランスの均衡」があると知り、仕事について深めたもののまだ少し悩んでいる部分もあったので惹かれたのもあります。
――スクールとBEYOND、両方に参加してどのような違いがあったと感じますか?
まりさん:そうですね。DANROスクールでは自分と向き合うことをスタートさせられましたが、小さな頃に誰からどんな影響を受けていたなどそこまでは考えていなかった……というよりむしろ、考えないようにしていたようなところもありました。
BEYONDでは、自分が作られたルーツのようなところを探れたような期間だったように感じています。
――ルーツをようなテーマもあったのでしょうか?
まりさん:「身についているスタイルの客体化と再選択」というテーマで考える時間がありましたね。それぞれが自分のレンズを通して世界を見ている。それぞれにとって美しさや正しさがあるという意味で。
生きているうちに、いろいろな価値観や周りからの影響で自分の見方が形作られてしまうもの。でも、あえてその見方を客観的に見直し、壊してみる。新たに自分自身でどのように選択していくかを考える時間でした。
――そのテーマを通じてまりさんが感じたことを教えてください。
まりさん:自分らしさとかオリジナリティとか、そういうことはよく言うし聞きますよね。でも実際には、自分という存在も身近な人々や周囲の価値観から大きな影響を受けているんだと思います。
そう考えると、自分自身の良さや特徴も、自分だけでなく、身近な人々や環境によって形づくられているんですよね。そういうありがたみも感じられました。
――再選択というところではいかがでしょうか?
まりさん:親や周りの人たちから受け継いだ素晴らしい特徴は、これからも大切にしていきたいと思っています。ただ、私自身の成長のためにも、私が「違和感」を覚える部分は自分なりの答えを模索していきたいなと。
両親や身近な人から学んだ良い部分を活かしつつ、自分らしさを成長させていけたらと考えています。
人生のお守りになる言葉との出会い
ーーBEYONDで印象に残っていることを教えてください。
まりさん:「わたしはわたし」という詩を紹介していただいたのですが、それが私の心にすごく残っています。その詩を読んでいると、自分が浄化され、解き放たれるような気持ちになりました。
――ありがとうございます!まりさんはこの詩のどの部分に惹かれたのでしょうか?
まりさん:「ことば かなわぬ 創始の原子」の部分は特に好きですね。自分のことをもっと知りたいと思っていたけれど、この詩を読んでみて、実際には自分の本当の姿を完全にはつかみきれないよな、と思いました。
本当に言葉ではかなわないし、言葉にしちゃうと限定されてしまうような気もする。あえて言葉にしない良さや、考えを保留する良さもBEYONDでは感じて。
――確かに、DANROに参加している方々は対話の中で言葉をとても大切にしていますよね。でも、あえて言葉にできない部分にアプローチしていくのがBEYONDなのかなと感じました。
まりさん:そうですね。BEYONDでは、瞑想を通じて心や体、考えに意識を向けることなど、自分について考える方法やプロセスをいくつも教えてもらいました。
そうすることで、一つの大きな塊だった自分が少しずつ分解されていくように感じましたね。
ーー他にこの詩でまりさんに影響を与えた部分はありますか?
まりさん:他にも「はてしなく続く こころとできごと」の部分も印象的でした。生きているといろんなことが起こり、その中で感じることもたくさんあります。「いつかは死んでしまうけれど、今この瞬間を大切にしよう」といった考えが心に響きました。
なんというか、物事を高い視点から見ているような気持ちになりましたね。ちょうどそのとき、学校で「平家物語」や「方丈記」などの古典に触れて、無常感について考える機会がありリンクしたんですよ。
まりさん:今は夏休みが終わって仕事も忙しくなり、余裕がなくなることもありますが、そのこと自体が「今、生きているな」と感じさせてくれているような気もしています。「わたしはわたし」の詩は、私にとって人生のお守りになったような感覚です。
――――素敵です。まりさんがおっしゃっていたように、少し上の視点を持つステージに手を伸ばすような期間になっていたのですね。
「今」の自分と相手が作り出す時間を大切にしたい
――半年という期間を今振り返るといかがでしょうか?
まりさん:本当にいろいろなことを感じましたし、半年もあれば、ざまざまな出来事に出会います。仕事が忙しく、本当はもっと自分と向き合いたいのに、なかなかうまくいかないこともあったんです。
でもBEYONDがあったおかげで、2週間ごとにマインドセットできるというか、心を落ち着ける時間が持てたり、ちょっとした癒しの時間ができたりして、それがとても良い時間だと感じました。
ーー忙しいからこそ、参加する意義もあるのかもしれませんね。
まりさん:2週間ごとのDANROの時間以外にも、Slackに「こんなことを考えました」とつぶやくと、草さん(DANRO BEYONDファシリテーター)が関連するリンクや概念を送ってくれることがあるんですよ。
まりさん:そうすると、自分の考えたことがより学問的な方向に派生していくようで。もしかしたら昔の人たちがもっと深く考えていたことかもしれないと思うと、いろいろなことに興味が湧いてくきました。それもあって、この間の夏にインドに行ってきたんです。
――インドですか!
まりさん:友達に「インドに行こうよ」と誘われたときには、正直「インドは衛生面が心配だし、観光ガイドの本などももあまりないから大丈夫かな」と思ったんです。
でも、インドには独特の死生観があって、例えばガンジス川のそばには火葬場があり、そこで火葬された遺体が川に流されることもあると知りました。
BEYONDを通じて少し変化があった私にとって、死を悲しむよりも生を喜ぶというインドの人々の価値観にも強く惹かれるものでした。もしかしたら特別な体験ができるかもしれないと思い、勇気を出して行くことにしたんです。
――実際に行かれてみていかがでしたか?
まりさん:やっぱりすごかったです(笑)。見るものも匂いも音も何か食べるものも強烈でした。朝の4時ごろには、ガンジス川に向かう人々の列が渋谷のハロウィンのように賑わっているんですよ。
彼らは上下オレンジ色の服を着て、地元の水をガンジス川に運んでいました。みんな裸足で歩き、ガンジス川に自分たちの地域の水を流し、その川の水を持ち帰るんです。
日本では考えられない光景ですが、彼らの心の中には「信じれば報われる」「罪が流せる」といった信念が深く根付いているんだろうと思いました。そういう思考は代々受け継がれてきたもので、彼らの生活の一部となっているのでしょう。人々の生きる力やエネルギーを強く感じました。
――まりさんの話を聞いていると、最初は自分自身を深めるために参加したようなところから、今ではもっと広い視点で生と死や人生観についてまで考えるようになったように感じます。この半年間で感じ方が大きく変わったのではないかと思いますが、いかがですか?
まりさん:確かにAutumnの始まりは、仕事でストレスを感じたくないという思いが強かったです。BEYONDが終わった今は、生きているといろいろなことがあると思うけれど、その都度自分と向き合っていけば大丈夫だろうと感じています。
BEYONDが始まった頃「今、あなたは何か扉を開けます。その扉を開けると新しい世界が広がっています」というような瞑想から絵を描いたんですが、それをもう一度、最後にやってみる時間があって。
草さんにどんな景色が広がっているか問いかけられたとき、最初はよくわかりませんでした。初回の瞑想では、扉を開けたら光がワーッと輝いている感じで、BEYONDに対する期待感のようなものがあったと思います。
しかし、最後の瞑想では「今は今で、そのままの今」が広がっているイメージを抱きました。後ろには、これまで開いてきた過去の景色が見えて。その過去の景色も、捉え方によっていろんな風景に見えることに気づいたんです。
嫌なことも、そう捉えようと思えばそう見えるし、良い経験だと思えばそう変わるんだと感じました。未来は未来で、清々しい未知として捉えたら楽しみになると思えていますね。
ーーものすごく大きな変化ですね。仕事に対する気持ちも変わった部分はありましたか?
まりさん:はい。自分の美意識や大切にしたいことを振り返る中で、改めて「自分で教員という仕事を選んでいる」ことに気づくことができました。
教員のイメージを払拭したいと思って行動したり、自分の過去と今の子どもたちを同一視して「かわいそうだな」と思ってしまったりしていたことがあったかもしれません。でも、そうしたものを一旦壊した。
目の前の子どもを「一人の人間として見る」というAutumnの頃から、今では「一人の人間としておもしろがる」というところまで来たと感じています。お互いをおもしろがって、自分らしさを出せるようになっていったらいいなと。
教員の仕事は忙しいけれど、とても楽しいです。目の前の子どもたちと、今の自分が作る場を大切にしたいと思いました。
でもDANROが終わった今、教育に関わる方法は教員だけに限らないとも感じています。今後知識や経験をさらに深めていけたら、学童保育を開くなど、自分らしさを発揮できる新しい挑戦も楽しそうだと感じていますね。
ーー素敵です。そういう道もあるのですね。
まりさん:それから「美しい」と感じる人の姿も少し変わってきた気がします。以前は隙のないな人を美しい人だと思っていました。
でも今は、そういう人たちも表面上は美しいけれど、水面下では一生懸命バタバタしているのかもしれないなと。
それもまた美しいと思いますが、そのバタバタを隠さなくてもいいんじゃないかと感じるようになりました。
――まりさん自身が自分や他の人の「不完全な部分」を認められるようになったからこその変化のように感じます。
まりさん:そうですね。子ども大人もみんな不完全で、それがその人自身なんですよね。
BEYONDで学んだことは、これからの人生でもずっと噛めば噛むほど味わえるガムのようなもの。人生を通して大切にしていきたい宝物です。
――「教員を辞めるかどうか迷っている」という1年前からのまりさんの大きな変化をインタビューを通じてみさせていただいて、驚きもあり、嬉しくもあります。まりさん、素敵なお話を聞かせてくださりありがとうございました!
\DANRO BEYONDのプログラムについて/
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DANROについて
「日常に対話を、対話を文化に。」をスローガンに掲げるダイアログカンパニー。私たちがともにこの世界に生きていくために、人、自然、社会など全体性を探求しながら、循環し合える空間を創造しています。
実践型対話スクール、DANRO CHILDREN、自己を探究するダイアログコミュニティの運営などを行う。その他対話を軸とした事業を展開。
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