僕はビーチの側にあるコンクリートの上で足をふらつかせながら、どこに焦点をあてるわけでもなく自分が今捉えている景色を眺めていた。波が僕の呼吸に呼応するように音をたてていた。月や道路の街灯に照らされた波面はムンクのそれに似ていた。

 月が僕を見つめていた。頭の上から。声をかけられたわけではない。月は彼の持つ硬い岩肌に多くの光を反射させていた。静かな街にその存在を知らしめるかのように。もしくは、僕の虚ろな意識に光をあてるかのように。

 「こんばんは。」と僕は言った。

月は答えない。

「今日はいい天気でしたね。」と僕は続けた。

またしても月は答えない。彼は夜の住人なのだ。昼のことを知らない。

「また会うかもしれません。そのときはまたお話ししましょう。さようなら。」と僕は腰を上げながら月に別れを告げた。



オチのないお話。

本を買います。