白昼鈍行の車窓から【準備篇】（7月エッセイ①）

０.プロローグ

　よく言えばゆっくりとした、悪く言えば遅い人生だとは思う。心配性なんだか仕事が遅いんだか、止まって止まって、何事にも時間がかかった。勉強もバイトも部活も。仕事が早いやつと思われたいからコソコソと早め早めに長〜い時間をかけて終わらして、「めっちゃ早くできました」感を出して生徒会の仕事をするのは快感だった。苦手な世界史は問題集に何時間かけても完璧な予習はできなかった。部活だって慣れるまでに今でも時間がかかる。飛行機が好きなのは仕事が早い何かに憧れて、すぐに目的地まで連れていってくれて、それでいてあのかっこよさを誇る機体があるかもしれない。今回は飛行機で目的地まで行けない。目的地までゆっくりといかないといけない。東京からの"ミッドナイト・エクスプレス"。ゆっくり進む"白昼鈍行"の旅。鈍行の窓から見える景色は存外に何もなくて、でも、何かを肯定してくれるものかもしれない。

１.なんで行くことにしたのか

　7月10日、シフト表を見た。私は学生LINEグループに2週間後のシフト表を上げるという週直の仕事をありがたくもいただいているので、早めにシフト表を見る習慣がついている。25日の週は25日と31日だけバイト。その間は何もない。試験も部活もサークルもない。インターンはテレワークだからどこでもできる。つまり、26-30日の5日間、短い夏休みがもらえることになった。ちょっと早めの、部活も何もない特別な5日間。昔は、こういう時は旅行に行っていた。例えば、京都旅行や九州旅行。どれも楽しい思い出だったけど、今回はどこに行こうかなあ。そんなことを考える矢先のことだった。「鈍行で東京から西日本を横断したら一体どのくらい時間がかかるんだろう」ふとそんなことを思った。あの青春18切符を使った旅行だ。聞いたことがない人や聞いたことあるけど詳細は知らない人のために説明すると、この切符は「日本全国のJR路線で、特急・新幹線以外の電車が、5日間乗り放題の魔法のような切符」である。1枚120,50円であるから、1日2410円で電車に乗り放題になる。これを使って西日本を横断してみようじゃないかと考えた。東京から岡山までが大体1,000kmで、九州の端っこ（鹿児島）までその倍くらいで、新幹線は鈍行（各駅停車）の3倍くらいの速度と仮定すると、岡山から東京までが新幹線で3.5時間だから単純計算=3.5*3*2で21時間くらいと計算できる。でも、ずっと乗っていたりうまく乗りつげたりするともっと早く着くだろう。あれ、これやってみたら面白そうじゃね？と思いついたのである。最も、noteのネタが底をついたことも全体80％は影響している。よし、旅に出よう。

２.どうやって、どこに寄って行くのか

　そうと決めたらどうやって行こうかという話だ。「青春18切符日本横断」とネット検索すると、いろんな記事が出てくる。私と仲良くなれそうな物好きたちの記事。太平洋側を南下していくといいらしい。感心してため息が出るくらい日本の鉄道は繋がっている。東海道新幹線や山陽新幹線と並走するイメージだ。私は言われたことを一生懸命やる日本教育が生んだ成功例タイプの人間なので、ネットの書いてある経路を鵜呑みすることにした。流れが決まったので、次はどこに寄るかだ。27日の夜は岡山に寄って宿泊することにした。知らない人もいるかもしれないが、私は地元の「おかやま桃太郎まつりうらじゃ」という祭りの実行委員会で演舞場運営のボランティアの委員をしている。27日には岡山市でうらじゃ実行委員会演舞部会が行われるのは知っていた。ずっと東京からオンライン参加させてもらっていたからだ。本祭が8月に迫っていて、久々に実行委員のみんなに会いたくなったので、今回は対面で参加することにした。27日は岡山に泊まることは決定しているから、26日は関西で宿泊して、28日は博多あたりで宿泊する、、、あれ、そうすると1日分余ってしまう。うーん、どうするか。26日に名古屋で泊まるにも27日に岡山に着かなかったら困るし、前半はずらせない。じゃあ、中日の28日を広島宿泊にして、29日を福岡宿泊にして30日に鹿児島まで行って、溜まったマイルを使って飛行機で羽田まで帰ろう。そう決めた。予定は下記のようになった。

・26日：東京（神奈川）〜大阪
・27日：大阪〜岡山
・28日：岡山〜広島
・29日：広島〜福岡（博多）
・30日：福岡（博多）〜鹿児島

壮大な5日間の旅になった。27-29日は短くない？サボりか？と思われるかもしれないが、横長の県を横断するのは意外にしんどい。山陽エリアは横長の面積の大きな県が多いので、一県横断するのも一苦労だ。後日談ではあるが、これくらいのゆとりがあったほうがゆっくりできる。

３.何を持って行くのか

　持ち物はなるべく少なくしたい。持ってもいないがキャリーケースをゴロゴロさせるとさらに疲れてしまうのでリュック一つだけ持って行くことにした。PCと充電器セットは絶対いるので、これは確定として、パジャマは一応サイズが入らなかった時用に持って行くことにした。あと歯磨きセットとニキビ対策セットも持っていった。問題は着替えだ。一番嵩張る。パジャマや歯ブラシセットはたかだかしれているが、着替えとなるとまた別。ズボンやシャツもまあまあの容積になってしまう。そこで、ズボンは5日間同じで、上はポロシャツとTシャツを交互に着ていくという画期的な方法を考えた。ご存知の通り、私は服に執着がなくてAかBかCかみたいな日替わり定食を選ぶ感覚でコーデを決めるタイプなので、服はすんなり決まった。もちろん、下着は日数分持っていった。今考えると表裏で3日分だけ持っていけばよかったと後悔している。まあ、汗かくし臭うし無理か。これを母親（通称ママ）に「だいちゃんに」と買ってもらったManhattanのリュックに詰めて前日用意した。旅行あるあるとして前日にクローズ勤務を入れてしまうというのはお決まりなので、致し方ない。

　次にお金だ。前回までの旅行で地方あるあるとして「地銀orゆうちょor信金」のATMしかないエリアも多いことを学んだので、現金はいくらか持って行くことにした。普段カード決済か電子決済しかしない主義なので、まあまあ財布が重く感じるが気のせいということにしておこう。18切符は当日買うことにした。当日になって体調が悪くなったり、直前に濃厚接触者になったりして行けれなくなると払い戻し手数料が取られてしまうので、それは避けたい。

　これで準備はできた。25日。政治系専門科目の3試験を終わらして家に帰る。準備をしてバイトに行く。ちゃんと店を閉めて帰ってくる。午前1時。旅のスタートまであとちょっと。