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東京原人Part.1(9月エッセイ①)

 こんばんは、9月4日(土)の夜、ダノです。実は、東京にいるのが嫌になって、ちょっと弾丸の一人旅に行ってきました。ちゃんとPCR検査を受けて、陰性であることを確認してから行っていますので、ご安心くださいませ。

1.東京は格差の街

 2021年の8月も、もう終わろうとしている。社会の格差を感じるからか、銀座を歩くのが好きで、よく入り浸っている。ショーケースに律儀に並べられたブランド品には値札が貼っていない。値札を見ようと中に入りたいが、皺のないスーツを着たスタッフの笑顔が壁を作る。「お金がないと生きていけない街」で、自分の月給17万円は大したことがない事実に曝される。アリシア・キーズの名曲『Empire State Of Mind』は、NYを歌った曲ではあるが、東京にも通じていると思う。ここで成功できれば、多分、日本のどこでも生きていけるんだと思うし、だからこそ、外京する人が「都落ち」と表現されるんだろう。東京もNYも人種の坩堝で、コンクリートジャングルで、お金がないと生きていけなくて、誘惑が財布に手を伸ばす。自分で望んで田舎から上京してきたが、どうも最近、東京で生きていくのに疲れてきた。バイトで17万円稼ぐと「お金持ち」扱いされるが、都市東京では何者でもない。強いて言えば、ほんの少し財力に余裕のある大学生くらいだろう。電車の中も、大学も、職場も格差ばっかり。電車の隣の人は高そうな靴を履き、最新のIPhoneでゲームに勤しんでいる。ジャージでも過ごせる田舎で育ってきた身としては、肩身が非常に狭い。田舎から”栄転”したために、なかなか帰ることはできない。一生東京に住まないといけないのかと思うと、口内炎が増えそうだ。

2.東京と関わるのがきつい時がある


 基本的に完全オフの日はない。単発バイトに行ったり、インターンに参加したり、本業のエッセイを書かないといけなかったりで、完全オフの日はほぼない。これを書いている今も、17時からのクローズシフトが待っている。休みないアピールをしている人をひどく軽蔑してきたが、いざ自分がその立場になると、いじってほしくて言っているのが分かるようになる。
 今週も休みがないのかと思っていたが、私の誕生日が1日完全に休みになった。24時間が自由に使える。本来ならば、夏には海外旅行で、資本主義ではない国に行きたいと思っていたが、そんなことも言ってられないご時世なので、国内でおとなしく過ごそうと思う。とにかく、誕生日くらい東京から離れたい。もっと言うと、東京と物理的につながった場所から離れたい。現住所の川崎市は東京都と隣接しているため、東京を感じてしまう。電車も直通だし、文化も社会も直通している。

 先ほど話した通り、東京に来てからというものの、1ヶ月に1回くらい、東京で生活していることに疲れて、出て行きたい時がある。いつもなら、飼い犬のイチちゃんに、「お兄ちゃんね、東京で生きるのしんどいの」っていう話をひとしきり聞いてもらい、「じゃあ明日からも頑張るね」で締めるのだが、今回はそれで収まらず、出て行きたくなった。本当は、熱海とか箱根とかの温泉地に足を運んでリラックスするつもりだったが、急遽誕生日に休みが取れたことで、遠出しようと思ったのである。この背景には、青春18切符を手に入れたことも大きい。

3.北海道に行く

 さあ、どこへ行くか。九州か北海道に候補を絞った。両方行ったことがない地域なので、魅力的ではあるが、よりコンクリートが少なそうで、東京と離れているのは北海道かなと思い、北海道に決めた。

 そうと決まったらあとは早い。行き先が決まったので、次は飛行機を予約しなければならない。愛用しているANAの便は予算を大幅に超える往復5万円だったので諦め、代わりにLCCにした。LCCに乗るのは初めてで、一番安いpeachにした。片道5000円で、諸経費を入れても往復で13000円程度で行けるのは助かる。ここでも新自由主義が機能し、私も多くの経済による恩恵を受けていると感心する。成田国際空港からの直通便を選び、個人情報を打ち込む。席を選んだり、荷物を預けるのにもお金がかかるらしい。選択肢と豊かさは相反するものだと気づく。経済は、ここにも格差を持ち込んだ。席を指定するほどの予算はないし、日帰りなのでリュック1つは機内持ち込みとし、追加経費をかなり抑えることができた。
 ものの数分で飛行機の予約が終わった。こんなに簡単にLCCに乗れるなんて驚きだ。ANAはマイレージクラブ会員で、個人情報やその審査はすでに終わっているということもあり、すぐに予約はできるが、会員でもないpeachでこんなにすぐ予約ができるのが不思議だった。メールが1通きて、6桁のアルファベットが記載されていた。これを機械に打ち込むと搭乗できるらしい。本当に乗れるか不安ではあったが、まあ、予約できてよかった。

4.出発日前日もクローズ勤務


 出発の前日。この日も17時から23時までのクローズ勤務。「いつも通り」終電で帰る。誕生日を初めて終電で迎えることになった。岡山県ではこんなことなかったので、東京に染まってしまったことをしみじみと実感した。家を出るときにあらかじめ次の日の準備はしていたので、1時前に帰宅し、すぐにシャワーを浴びて寝た。アラームは4時半から、5分刻みでかけている。昔から旅行に行く前日(実際は当日)はなかなか寝れない。しかし、4時半には目を覚まさないと遅刻してしまうので、意地で自分を寝かしつけた。

5.東京からの解放


 出発の当日。4時半に目覚ましをかけていたが、それよりも早く目が覚めた。これも旅行あるある。4時半になると、Apple WatchとiPhoneから「The Song Of Praise」が響く。「積み上げて叩き壊して」の歌詞を聞くと、今から自分と東京との繋がりを断ちに行くことを思い出す。東京で覚えた若者らしい格好に身を包み、若者が好んで使うManhattanのバックパックを背負って家を出る。こんな若者らしい服装も苦手だし、なんせ3時間も寝れていないから身体もこたえている。やっぱり近場でもよかったかなと思い返す。
 横須賀線の始発に乗り、成田空港へ。青春18切符を前々に買っていたので、それを使って乗る。ここで、この切符は改札を通せないことを初めて知る。いちいち窓口で日付を見せないといけないのだ。東京という、非常に効率化された社会でもまだまだ緩いところがあるところにちょっとだけ好感をおぼえる。乗り換えがあるので、寝るに寝れずに眠たいまま成田空港へ着く。今から脱走するかの如く、リュックを前にし、急ぎ足で出発ロビーに向かう。心配していたチェックインはすぐに終わり、レシートタイプの搭乗券が発行された。29列目のA席。窓際の席なので、「えー席やないか」と東京では絶対に言えないしょうもない親父ギャグをひとりでかまし、保安検査場を通る。特に以上なく通過できた。はじめて成田空港を使ったが、ここでも発見があった。peach の待合ロビーにはスターバックスが入っていないのだ。成田空港内には7店舗あるが、このフロアにはない。朝ご飯をそこで買う予定だったのが早速崩れた。しょぅがないので、ANAのショップでおにぎりと水を買って食べた。東京らしい均一の味だ。手作りでここまで同じ味は作れない。流石としか言いようがない。
 いよいよ搭乗ゲートをくぐる。東京脱出だ。もっと言うと、東京に関わり、繋がるものあらゆる全てのものからの脱出だ。窓際の席に座る。私の脱出を手伝ってくれるスタッフの人たちがエンジンの確認をしている。ちゃんと飛んでくれと心で祈る。客室乗務員からの指示で、機内モードをONにする。これで東京からの情報が入ってくることはなくなった。精神的に東京とはさようならだ。とうとう滑走路に機体が向いた。エンジンが轟々と加速する。東京で感じたあらゆる違和感-押し付けがましい〇〇らしさ、良し悪しの判断、地位、格差-全てが、翼で切り裂かれ、エンジンに吸い取られ、視界からフェードアウトしていく。東京から体が離れた。物理的に離れた。もう機体は戻らない。東京にそっぽを向いている。

 僕はたった10時間だけ、全ての東京から自由になる。

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