セレンディピティ型学習の効果を最大化するにはWhyを明確にすることが重要という話
何かを学びたいと思った時、そのモチベーションは様々です。生々しい課題を抱えていてその解決策を模索している時もあれば、タイトルに惹かれて何となく気になる本と出会う時もあります。仮に前者を「課題解決型学習」、後者を「セレンディピティ型学習」としましょう。
課題解決型学習は目的が明確なので問題ないです。ブレずに課題解決に集中しましょう。しかしセレンディピティ型学習になると注意が必要です。「なんとなくタイトルに惹かれた本を読む」、「誰かのブログで紹介されていた新しい技術をとりあえず触ってみる」など目的が不明瞭なまま興味本位で飛びついた結果、時間を無駄にしてしまうことが多いからです。どうせ何かを学ぶのであればできるだけ自己成長に繋げたいですよね。
そこで改めて、セレンディピティ型学習の効果を最大化するためには何が重要かと考えていたら気付いてしまいました。「これ、プロダクトマネジメントと同じやん」と。
今回はセレンディピティ学習の効果を最大化するための観点をプロダクトマネジメントと関連付けながら言語化してみます。学習に課題意識を持っている方の何かしらの参考になれば幸いです。
先に結論
要するに以下のように効率よく学びましょうという話です。
学びのWhy (目的 / 目標)を明確にする
Whyは必ず自分に関連づける
学んだ後「自分がどういう状態になっていたいか」、「その学びを何に活用するのか」を明確にする
学びのMVPを作る
目的達成に必要な事だけを取捨選択してインプットする (遅延評価的勉強法)
自分の解釈、自分の言葉で学びをアウトプットする
学びのPMFを目指す
アウトプットを清書して他人に伝え、フィードバックを得る
学びのWhy (目的 / 目標)を明確にする
セレンディピティ型学習の効果はWhy (目的 / 目標)で決まると言っても過言ではありません。
人間の脳はエネルギーを節約するために自分に関係のある内容以外は頭に残さず捨てようとする傾向があるそうです。この習性に則るとセレンディピティ型学習も何かしら自分に関係があるよう意味付けをしないと、一瞬で学びが吹き飛んでしまいます (賢い人は違うのかもしれませんが少なくとも私はそうです)。
例えばあなたがとある企業のソフトウェアエンジニアだったとしましょう。そしてたまたま本屋で財務3表について書かれた本を見かけて興味を持ちました。そこで「財務3表は社会人の常識というイメージがあるし、とりあえず勉強しておくか」と学んだとしてもおそらくほとんど記憶に残らないでしょう (※筆者経験談)。なぜならエンジニアの業務に直接関係がない、自分との関連が見えてこないからです。
一方「自社の決算資料を読み解き、エンジニアの採用面談の場で自社の経営状況について自分なりに語れるようになる」という目標を掲げて学んだとしたらどうでしょうか?自分なりに自社の経営状況が語れるエンジニアって結構希少ですし、自分の仕事をより俯瞰的に捉えることができ、キャリアアップに繋がるかもしれません。
そして1ミリも自分に関係のない企業と違って「この決算資料は○○さんが作ったのかな」、「自分が所属する事業部にはどれぐらい予算がついているのかな」など、自分と関係のある事柄と関連付けて学ぶこともできそうです。このように学習後の進化した自分をイメージして学ぶことが重要です。
セレンディピティ型学習って「こんな機能あったら良くね?」とアイデアが浮かんだプロダクトマネージャーと少し似ている気がするんですよね。良いプロダクトマネージャーであれば一旦立ち止まって「これは本当に顧客への価値につながる機能か?」と自問自答し、そもそもの目的から最適な方法を検討してくれるでしょう。同様に自分をプロダクトと捉えた時に偶然出会った興味のある学習トピックについて、「なぜ自分はそれを学ぶ必要があるのか?」、「それを学んだ結果、自分はどういう状態になっていたいのか?」と問いを立てることが重要です。そして「xxを学んで、xxの業務に活用してみる」のようになるべく自分に関連があるよう意味付けをした目標を立てましょう。その達成に向かって学ぶことで学習効果を最大化できるのではないでしょうか。
もし意味付けがどうしても難しいテーマに興味を持った場合は漫画のような娯楽と捉えれば良いです。その上で「やる / やらない」を決めます。大人になるにつれて自分の学びに使える時間は減りがちなので、学ばないという意思決定も時には必要です。
学びのMVP (Minimum Viable Product)を作る
学びのWhyが決まったら、次に学びのMVPを定義します。
先程の財務3表の本の例で言うと、本を読んで「自社の決算資料を読み解き、エンジニアの採用面談の場で自社の経営状況について自分なりに語れるようになること」が目的でした。MVPとしては例えばミニマムな自分用分析レポートのようなアウトプットが作れると良いかもしれません。基本的にMVPはアウトプットである必要があります。
個人的には本の中で大事だと思った箇所をメモに残すようなアウトプットでは不十分だと思っています。自分の解釈が加わっていないので記憶にも残らず、学習後に十分活用できないからです。他人の言葉をそのまま並べただけでは自分の頭にあまり残りません (※筆者経験談)。
自分の経験に紐付けたり、自分の解釈を加えて、自分の言葉でアウトプットすることを意識してMVPを定義するのが良いです。要約というより読書感想文などの類に近いイメージです。
大事なことなのでもう一度言います。自分の解釈を加えて、自分の言葉でアウトプットしてください。
あとはMVPを最速で作っていくだけです。引き続き財務3表本を例にしましょう。
まず自社の決算書を読み解くにはそこに出てくる「PL、BSとは何ぞや」といった部分は本でざっくりと学ぶ必要がありそうです。一方、会計基準についての項目があった場合、今回の目標にはそこまで関係がなさそうなので一旦MVPからは除外しても良さそうです。
このように学びのWhyが明確になっていると何を学ぶべきで、何を学ばなくても良いのかがクリアになります。本の場合は目次から全体像を推測できるので、目次から必要な箇所の想定をつけながらインプットしましょう。学ばなくて良いと感じた箇所は自分 (自分の目的)と関連の薄い箇所なのでスルーして問題ないです。安心してください、頑張って学んでもどうせすぐ忘れます。
あと、手にとった本が微妙だったり不十分だった場合は別の本やインターネット上のソースに当たるなどのアクションもガンガンやっちゃって良いと思います。本を読むこと自体が目的ではないので。
このあたりの考え方は遅延評価的勉強法に強く影響を受けています。プログラミングの世界に遅延評価というものがあるのですが、ざっくり言うと値が必要になるまで式を評価しないというものです。この考え方を取り入れて「その知識が自分にとって本当に必要になった時に初めて勉強する」というのが遅延評価的勉強法です。ここまでの話も「Whyを明確にする -> 遅延評価的勉強法で学ぶ」と表現すると分かりやすいかもしれません。
このように効率的なインプットをしたら、あとは自分の言葉でMVPを作り上げましょう。MVPを作るために繰り返し読まなければならない箇所があったとしたら、それは本当に自分に関係のある箇所です。特に重視しましょう。繰り返し学習して印象に残った箇所は記憶に強く定着することが期待できます。
学びのPMF (Product Market Fit)を目指す
最後は学びのPMFを目指しましょう。自分のMVPを他人に伝えられるクオリティになるよう磨きあげ、世に解き放つのです。要するに自分の学びを他人に伝えてください。
自分用メモだったアウトプットを清書してブログとして公開したり、自分用メモを使いながら友人や同僚に伝えてみたり、自分にとって価値のあった学びが他人にとっても価値のあるものになればPMF成功です。うまく価値が伝わらなかったら、PMFできるまで何度もアウトプットの質を磨いていきましょう。
よく「人に教えることで理解が深まった」という話を聞かないでしょうか?私自身の実体験でもそうなのですが、仕事で誰かのサポートをする立場になってから自分の成長が加速したように感じます。これも人に自分の考えを伝えるために脳内で精緻化が進み、無意識にPMFしていたのかもしれません。
まとめ
時間は有限です。知的好奇心は大切ですが、プロダクトマネジメントと同様に「それは自分というプロダクトの価値を本当に高められるものなのか?」と常に問いを立てながら効率的に学んでいきましょう。
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