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「どん底旅」#9(最終話)熱海…涙に濡れたパン

2012年1月、退職旅後のストーリー

★自分の長所:断らないこと

☆自分の短所:断らないこと

……

日雇い夜勤…

しかも熱海…

仕事を断る場合じゃないけど、

仕事を断らない自分を気づいた時は

もう皆が退勤電車に乗る夕方

湘南新宿ラインに乗って熱海に向かっていた。


皆が断るのは

何かわけがあるのではという

もやもや感と共に

何となくひんやりした感じはあったが、

もう一度いうけど

今の自分は

仕事を断る場合じゃない。

仕事を断らない…


東京からだと

日帰り旅に行ってちょうど帰る時間に

熱海駅に着く。

ここまでなのに今日の仕事は一人

現場のチームに合流

慣れてないから不安な気分は

隠せない

「よし、余計な心配だろう…

今までの通り真面目に頑張れば

今度もきっと認められるぞ」

……

現場は有名な温泉ホテルチェーン店

銭湯リモデリングの為の解体前の掃除や雑作業

現場には若い監督の方一人

そして、実際に仕事を指示しながら

一緒にするおじさん(?)

何とか良くない予感がした。


熱海ビーチが望める高台に建てられたあのホテル旅館は

まるで「迷路の城」の様だった。

平地じゃないわけで

中の構造もシンプルでなく慣れてない僕には

道を迷う事も数回

徹夜仕事で、今回は作業人も少ない

更に問題は…

言葉のコミュニケーション…

うん?

今まで平気だったのに今更?

そう。

自分もかなり当惑…


もう日本語に慣れて

今までほぼ問題なかったのに

指示をするおじさん(?)は

方言を使うかもっともっとの問題か

彼の話が

本当に聞き取れにくかった。

どう考えても

自分の耳や聞き取り能力のせいにするには

今までのトラブル無しだったのが変!


一応、耳を傾けて

一生懸命に従ってやったが、

少しずつ

中にはひびが出来て

亀の背中の様な亀裂に…

あいにく、仕事は二人作業

最後には

「〇〇でほうきを持って来い」

と言われたが、

結局、途中で道(部屋)を迷い

迷路でぐるぐる回ってしまう。

最悪の事態に…

(冗談じゃなく、それぐらい複雑な建物であった)

夜10時からの仕事は予定より早く終わって

朝(?)4時…

監督方のシニカルな表情

そして、

帰り頃

あのおじさん(?)軽蔑な表情との一言

「お前は、馬鹿だな…」

……

はあ…

涙が出るほど悔しかった。

こんな侮蔑感…

死にたいほど腹が立つ

しかし、

「実は、貴方の話が良く聞き取れなかった」とは

言えない現実で

自分の見方もいない

相手から見れば


日本語もできない外人…せっかく東京から頼んだのに

なんでこんな下手なやつが…


まだ闇の世界

遠くから海の香と聞こえる波の

リズミカルな音


東京行の始発電車もまだまだ

寒い

何をすればいいか…

夜勤を終えた肉体の疲れより

パニックになったメンタルで

悲惨な気分一杯

「海に行こう」

人跡もない真っ暗の熱海ビーチに向かって

闇の海を

じっくりと見る

ため息

無力感

侮蔑感

怒り

全てが複雑な大きいかたまりになって

胸を押さえつける。


こんな時急にお腹が空いた。

カバン中で出たのは

イチゴジャムパン

作業の休憩時間にもらって食べなかったもの

一口食べても

全然味が分からないのはなぜなのか…


あ、

ぼちぼち

雨だ。

味もないパンが

雨で濡れる

涙が出る。

今までの人生を思い出す。

ここまでたどり着いたのに

何でこんなことに…

自分を自責する

悪魔が囁く

「お前に人生を生きる価値があるのか?

情けないお前よ、このまままっすぐ

闇の海に入れば?楽になるぞ…」

その時だった…

誰かが見えた。

自分一人しかいないと思ったのに…

びっくり!

しかも

相手は先から

自分を意識して

じっと見ていたのだ。

君は誰?

彼もかなり驚いた自分の様子と

そっくり…

鏡の様

急に

正体不明の緑の光が海を照らす

周りがぐるぐる回る

意識がもうろうの中

徐々に

夜が明け

光も彼も

姿を消える

もうろうの中

彼が「シグナル!!」と

叫んだ気がする…

2012年3月30日金曜日を過ぎて

この惑星に来たちょうど6年の日

3月31日を迎える

雨の熱海ビーチ…


「どん底旅」終わり

次「どん底旅ー番外編」が続きます。



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