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懲役50年連続強姦事件公判傍聴記・2012年5月23日(被告人・小澤貴司)

2012年5月23日
東京高裁第5刑事部
506号法廷
事件番号・平成24年(う)第45号
罪名・強姦致傷、窃盗、強盗
被告人・小澤貴司
裁判長・八木正一
裁判官・川本清巌
裁判官・柴田寿宏
書記官・西村農

小澤貴司は、2001年から2010年にかけ、9人の女性に対する連続強姦致傷事件を起こした。しかし、事件の間に窃盗罪での確定判決を挟んでいたため、9件の犯行すべてに一つの求刑がなされるのではなく、01~08年の5件と、09~10年の4件に、それぞれ別に求刑がされ、判決が下されることになった。
静岡地裁沼津支部では、それぞれ懲役30年が求刑された。下された二つの判決は、それぞれ順次執行されるので、合計懲役60年を求刑されたことになる。判決は、懲役24年と懲役26年であり、懲役50年の判決が言い渡された。小澤は控訴した。

開廷前、6人ほど法廷前に並んでいた。最終的には、傍聴人は17人ほどとなった。
弁護人は、7人と、異例の大人数であった。懲役50年という異例の判決を、何とか覆したいという、刑事弁護界の意思の表れだろうか。前列には、4人の弁護士が座っている。眼鏡をかけた太り顎鬚を生やした初老の男性、眼鏡をかけた短髪の太り気味の初老の男性、髪を短く刈った眼鏡をかけた中年男性、短髪でくすんだ肌の眼鏡をかけた中年男性、という陣容である。後列には3人の弁護士が座っており、眼鏡をかけた中年男性二人に、青年一人であった。
検察官は、たった一人であった。白髪の初老の痩せた、男性である。やや口が突き出て猿顔であったが、目つきは険しかった。
書記官は、眼鏡をかけた短髪の中年男性。
被告人は、あまり凶悪犯罪とは結び付かない、大人しそうな男だった。中肉であり、体格は少しがっしりしている。やや長身である。目は細く、鼻はピノキオのようだった。白いワイシャツに、ノーネクタイのスーツ姿である。
小澤貴司の控訴審初公判は、16時より開廷した。

裁判長『被告人は、前に出てください』
証言台の前に立つ。
裁判長『名前は何といいますか』
被告人『小澤貴司です』
はっきりとした声だったが、後に泣いている時には、声は小さくなっていた。
裁判長『生年月日は』
被告人『昭和51年9月30日です』
裁判長『本籍、住居、原判決から変更しましたか』
被告人『いいえ』
裁判長『変わってない』
被告人『はい』
裁判長『元の席に戻ってください』
被告席へと戻る。
全ての被害者について、「特定事項の秘匿とする、ご配慮ください」と裁判長は述べる。
弁護人は、控訴趣意書を陳述する。検察官も、答弁書の通り陳述する。
検察官は、弁1~5すべて同意し、被告人質問はしかるべく、と述べる。
弁護人請求の被告人質問、書証、すべて採用される。弁2号証は、写真のもとになったものを示す。反省文、報告書などが提出された。これは、弁3,4号証拠の写しとのこと。被告側から、手紙は、改めて出されてはいないとのことであった。
この間、小澤は、唇をかみしめていることが多かった。
被告人質問を行う事となり、促され、証言台の椅子へと座る。

<イシノ弁護人の被告人質問>
弁護人『弁護人イシノからお尋ねします。貴方は、昨年の12月、沼津の裁判所で、貴方が起こした一連の強姦事件について、裁判を受けましたね』
被告人『はい』
弁護人『その時の、検察官の求刑について伺います』
被告人『はい』
弁護人『求刑の内容は覚えていますか』
被告人『はい、あの、執行猶予の判決を受ける前と後、それぞれ30年という求刑でした』
弁護人『30年と30年』
被告人『はい』
弁護人『合計60年ということでしたね』
被告人『はい』
弁護人『求刑を聞いた時の気持ちは』
被告人『正直な、気持ち、としては、頭の中が真っ白になって』
弁護人『その時、頭真っ白になってしまった、ということですか』
被告人『はい』
弁護人『求刑から判決まで、数日ある』
被告人『はい』
弁護人『その間の気持ちは』
被告人『その求刑を受ける前から、被害者の方の気持ちを考えて、あの、裁かれた刑は受け入れようって、そういう気持ちでおりました』
弁護人『その刑を、受け入れる気持ちになった?』
被告人『その、受け入れなければいけない、それほどの、求刑を受けたと思っています』
弁護人『どうして、受け入れるの』
被告人『やはり、私の犯した罪の程度が、それだけ重大であることを、改めて認識したからです』
弁護人『その求刑を受けて、そういう気持ちになった』
被告人『はい』
弁護人『実際の判決は』
被告人『執行猶予の刑を受ける前について24年と、その後に、26年、でした』
弁護人『合計50年というものでしたね』
被告人『はい』
弁護人『その判決への気持ちは』
被告人『あの、裁判員という、制度で、皆さん、一般の方の認識とか含めて、私の罪の重さ、重大性、そういう判決であったんだなと。私としては、受け入れようと』
弁護人『貴方としては、受け入れようと思った』
被告人『はい』
弁護人『貴方は何歳ですか』
被告人『35です』
弁護人『50年後は』
被告人『85です』
弁護人『85歳』
被告人『はい』
弁護人『生きているか、不明』
被告人『はい』
弁護人『それでも、受け入れようと』
被告人『はい』
弁護人『貴方は、自分の罪をすべて償いやり直したいと、警察に出頭したと一審で言った』
被告人『はい』
弁護人『出頭し、合計50年の判決を受け、一生刑務所から出られないかもしれない。正直、出頭したことを後悔は』
被告人『いえ、後悔してません』
弁護人『後悔していない』
被告人『はい』
弁護人『うん。それはどうして』
被告人『これ以上の被害者を増やすまいと、自分で考えた結果ですので、私が一生刑務所に出てこれないとか、それ以前の問題で、これ以上被害者を増やさない、これ以上増やしちゃまずいんだって、自分の中で考えた結果なので、後悔はしていません』
弁護人『刑を受け入れようと考えた貴方が、今回、どうして控訴をしましたか』
被告人『弁護士の先生と、面会を、重ねて、相談して、その、法律的な点で、観点で、もう一度弁護してもらうべきではないかと、そういう話が、出て、その結果として、控訴しました』
弁護人『私たちが説得して、それに貴方も納得した』
被告人『はい』
弁護人『昨年の裁判から半年』
被告人『はい』
弁護人『貴方は毎日、どういう気持ちで過ごしてきました』
被告人『私としては、被害者の方に、償いの気持ち、自分の罪、犯した罪の重大性、自分がどうしていくべきか、頭の中が真っ白になったのは、求刑受けてからなんですけど、どうしていくのか、自分の(聞き取れず)、毎日考えて、過ごしていました』
弁護人『一審から気持ちに変化は』
被告人『一審、受ける前、受け、受ける前に、裁判員裁判を受けて、受ける前は、あの、公判でも話した通り、被害者の方への償いと、私の、更生への意欲っていうのを裁判で、皆さんに解って、認識していただこうと思って、そういうことを考えていました。私の犯した罪によって、傷ついた被害者、取り返しのつかない傷を負われてるって、本当にわかって、私が更生するっていうことを考えていくこと自体が、間違っている、そういうことに気付かされました』
弁護人『更生していこうと考えること自体が間違っていると言った?』
被告人『はい』
弁護人『意味は』
被告人『被害者に対しての償いの気持ちをまず優先して考えるべき、私が刑務所にこれから服役することを考える以前に、一生の償いっていうのを、まず考えてないといけない』
弁護人『刑務所を出た後のことを、考えるべきではないということ』
被告人『はい』
弁護人『貴方、一審前、写経していた』
被告人『はい』
弁護人『写経、今も続けている』
被告人『はい、続けています』
弁護人『どれくらいの頻度でしています?』
被告人『一日一回ないし二回は続けています』
弁護人『毎日ですか』
被告人『はい』
弁護人『写経への気持ちは』
被告人『被害者の方へに対しての、償いの気持ち、書くことによって償なわれることなんて大体、ないのは解っているんですけど、私なりの気持ちを込めて、写経させていただいています』
弁護人『先ほど、裁判官に見ていただいた写経なんですけれども、全部あなたが、一審判決後、書いて、提出してくれたものということで間違いないですか』
被告人『はい』
弁護人『写経冒頭に、懺悔文というんですかね』
被告人『はい』
弁護人『懺悔文書いている。どういう意味で書いている』
被告人『自分の犯してしまったことの重大性を認識したと同時に、その罪に対しての懺悔と、自分の犯してきた罪に対しての、懺悔です』
弁護人『誰かに教えてもらった』
被告人『(聞き取れず)自体は、母さんに教えてもらいました』
弁護人『お母さんに教えてもらって書いてる』
被告人『はい』
弁護人『写経の中に、一部、用紙が違うの入っているが』
被告人『うちの、母さんが、宗教やってまして、その関係で、東日本大震災、趣旨は違うんですけど、自分なりに、少しでも、自分の写経が力になるんであればと思って、しました』
弁護人『東日本大震災の被災者への支援になるような用紙ですか』
被告人『はい、そうです』
弁護人『それは、貴方が、お母さんにお願いして、差し入れてもらったんですか』
被告人『はい』
弁護人『どういう気持ちからでる』
被告人『宗教の月刊紙が出ていまして、被害者に、私の犯したことをまず反省しなきゃいけないですけど、その中で、拘留されている中で、そういう、社会では、そういう大きなことが起きていると。罪のない人が死んでいるって現実を見せつけられて、私の力になれることがあるなら、少しでも力になるのであれば、そう思って、しました』
弁護人『貴方なりに社会の役に立てることを考えてる』
被告人『はい』
弁護人『写経のほかに、貴方、何かしてる行為はあるんですか』
被告人『朝と晩、毎日欠かさず、被害者の方に対しての、お詫びの、償いの気持ちを込めて、写経とあと、読経をしています』
弁護人『読経しているということですか』
被告人『はい』
弁護人『写経、読経はこれからの刑務所生活でも続ける?』
被告人『大きな声出せないので、部屋では決まりごとっているのがあるので、布団に入ってから、自分の心の中で、(聞き取れず)続けていきたいと、そういう気持ちでいます』
弁護人『貴方のお母さん、一審前には何回も面会に来ている』
被告人『はい』
弁護人『この前の裁判の時も面会には来てくれているんですか』
弁護人『はい』
弁護人『頻度は』
被告人『週に三回ぐらいは足を運んでくれていました』
弁護人『沼津にいるときね』
被告人『はい』
弁護人『東京にきてからはどうですかね』
被告人『一度来てくれました』
弁護人『東京にも来てくれた』
被告人『はい』
弁護人『面会のほかに、手紙のやりとりは』
被告人『それは、しています』
弁護人『お父さんはどうですか』
被告人『沼津の拘置所では、来てくれていました』
弁護人『それは、裁判前から』
被告人『いえ、裁判の後です』
弁護人『裁判の前に、お父さんが来てくれていない』
被告人『はい、そうです』
弁護人『お父さんが、裁判の前に、来てくれない理由は、思い当たることは』
被告人『私がこういう罪を犯してしまったことによって、父が今まで築き上げてきた、(聞き取れず)を手放す羽目になった・・・』
鼻をすする。
弁護士『お父さんは、そういう複雑な思いもあって、来てくれていなかった』
被告人『そうです』
弁護人『そう思うと』
被告人『そうです』
弁護人『お父さんのそういう態度について、貴方はどう思う?』
被告人『・・・(鼻をすすり)申し訳なかった』
弁護人『お父さんは、一審の後、来た』
被告人『はい』
弁護人『来て話は』
小澤は、目をこすり、鼻をすする。
被告人『すみません・・・、自分の体を気遣ってくれました』
弁護人『貴方の事を気遣ってくれたんですね』
被告人『はい』
弁護人『貴方の事を責めたりはなかったんですか』
被告人『はい』
弁護人『そんなお父さんの態度について、貴方は、どう思います?』
被告人『(鼻をすすり、泣く)自分の身勝手で、全て、自分・・・すべてめちゃくちゃにしてしまいました』
小澤は、泣いている。
弁護人『今、ご両親への思いは?』
被告人『(聞き取れず)何もできません。情けないです(泣く)』
弁護人『貴方は、これから、どういう判決出るにせよ、長い刑務所生活送らないといけないですよね。長い刑務所生活、どういう気持ちですごしますか』
被告人『被害者の方に対して、償いというのはどういうことかという、一生刑務所で、考えていくと思います』
涙声で、聞き取りにくかった。
弁護人『終わります』
検察官の被告人質問はない。裁判長らも被告人質問を行わない。小澤は、促され、被告席へと戻った。嗚咽し、鼻をすすっている。顔を伏せ、赤くし、歪めて泣いていた。
裁判長は、判決期日を言い渡しかけたが、弁護人が弁論を行う旨を述べ、弁論となった。

<弁論>
主任弁護人のフナガイです。二枚の弁論要旨を読み上げます。
本件に関する、我々弁護人の主張は、控訴趣意書によって詳細に述べた通りでありますが、若干補足をさせてください。
刑法45条後段の意義につきまして、控訴審裁判所の見解を示される中で、被告人に下された一審判決の妥当性について、判断を求めるというものであります。
検察官が、その答弁書において確定判決を挟んだ2つの裁判例、一つは懲役14年と死刑
が言い渡された事案、もう一つは無期懲役と死刑が言い渡された事案を指摘しまして、本件懲役50年は重すぎるものではないと主張しています。
しかしながら、執行事務規定によりますと、自由刑の執行停止を定めていることから、検察官指摘の各事案においても、死刑のみが執行されることになります。本件は、原審判決が確定しますと、懲役24年と26年が順次執行されることになってしまいます。我々が主張するのは、わが国の法制度の下で、有期懲役の刑はあくまでも有期懲役の実態を伴うことが必要であって、有期懲役刑が実質的な終身刑や無期懲役刑となってはいけないということであり、これを満たす刑法45条後段の不備を指摘するものであります。
検察官が指摘する各事案は、いずれも一方が死刑であることから、弁護人の指摘するこの問題と直接関係しないものであります。
そうしますと、有期懲役の上限が30年を超えるという問題点は、まさに本件で初めて顕在化したのではないかと思い、この点に関する控訴審裁判所の判断は、今後本件同様の事案の指針となり、また、裁判員裁判の在り方にも大きく影響を与えるものと確信をしております。
原審の量刑でありますが、真実妥当でありましょうか。検察官は、答弁書において、間に確定判決が介在しなかったら、無期懲役刑の求刑もありえたと主張されます。しかし、本件は致死まで含めて規定されている強姦致死傷罪の最高刑である、無期懲役を下すまでの事案であろうか。
弁護人は原審から一貫して、被告人の更生を期待しうると主張してきました。控訴審裁判官におかれては、本法廷で初めて被告人に接したわけでありますが、どうでございましょうか。
また、被告人が、全ての罪を償う覚悟で警察に出頭すると共に、被害者らに対して真摯な謝罪の気持ちを表し、9人中8人の被害者に、総額400万円を超える被害弁償金を受け取っていただいたことが、原審において、果たして正当に評価されたと言えるでありましょうか。
弁護人は、本件一審判決が維持されることで、極端な重罰化社会が到来してしまうのではないかと、懸念しております。
裁判所の賢明な判断を切に求めるものであります。

6月27日13時30分、判決となる。被告人は期日を知らされ、頷いた。この時も泣いていた。傍聴席の方に、少し頭を下げ、退廷する。被告用出入り口のところで、書記官に話しかけられ、事務的なことを話している様子だった。
16時25分に、控訴審初公判は閉廷した。
弁護人は、法廷外で記者に囲まれ、別の場所で質問に答えているようだった。

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