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碧南夫婦強盗殺人事件公判傍聴記・2016年9月1日(被告人・堀慶末)

2016年9月1日
名古屋高裁刑事1部
1号法廷
事件番号・平成28年(う)第44号
罪名・住居侵入、強盗殺人、強盗殺人未遂
被告人・堀慶末
裁判長・山口裕之
裁判官・田邊三保子
裁判官・出口博章

 13時までには、30人余りが大法廷である1号法廷の前に並んでいた。傍聴希望者たちは、堀の事件のこと、別の強姦事件、林桂二という死刑求刑事件の被告について、ゼスチャーを交え、盛んに話していた。
 傍聴人が入廷する前に、カメラが法廷内に入っていた。
 傍聴席は83席であり、半数ほどが埋まっていた。記者席は8席であり、3人ほどしか座らなかった。総じて、空席が多く、熱気の感じ取れない法廷であった。
 検察官は、当初から在廷していたのは、短髪の痩せた40代ぐらいの男性と、白髪交じりの眼鏡の初老の男性だった。二人で笑いながら、何か話していた。もう一人、髪の長めの中年女性が、少し遅れて入廷した。控訴審で検察官が三人も付くのは、かなり珍しい。堀が死刑を回避するのは困難だろうが、それでも事件に注力しているのだろうか。
 書記官は、短髪の青年と、髪の長い初老の女性だった。
 弁護人は、こちらも三人であった。一人は、眼鏡をかけた白髪交じりの、渋い顔立ちをした、眼鏡をかけた初老の男性。闇サイト事件の時も、堀の弁護に当たっていたような気がする。もう一人は、どこか不安そうな表情を浮かべた、短髪の青年。三人目は、短髪の痩せた青年であり、少し遅れて入廷した。
 開廷前、二分間のビデオカメラによる撮影が行われた。
 裁判長は、白髪で痩せ気味の、眼鏡をかけた初老の男性。裁判官は、短髪で眼鏡をかけた40代ぐらいの男性と、髪を後ろで束ねた眼鏡の50代くらいの女性だった。
 最後に、被告人である堀慶末が入廷する。闇サイト殺人事件の控訴審以来であるから、およそ6年ぶりに顔を見ることになる。
 堀は、色白で、がっしりした体格であった。それは以前と同様であったが、頭を丸坊主にし、眼鏡をかけているのは、闇サイト殺人事件のころとは違っていた。そして、その頃と比べて、明らかに太っていたと思う。黒い長そでの服に、ジーンズという格好であった。うつむいて入廷した。
 堀慶末の控訴審第二回公判は、13時30分、大法廷である1号法廷で開廷した。

 堀は促され、証言台の前に立つ。
裁判長『名前は』
被告人『堀慶末です』
裁判長『生年月日は』
被告人『昭和50年4月29日です』
裁判長『本籍住居職業、一審で述べた時と変わりない』
被告人『はい』
裁判長『戻って』
堀は、被告席に戻った。
本日は被告人質問を行う事となり、堀はさっき戻ったにもかかわらず、すぐに証言台の椅子に再び座ることとなった。
 堀は小声であり、口調は、驚くほど淡々としていた。闇サイト殺人事件の法廷では、語調も表情も柔らかく、柔和な印象であった。しかし、今回の公判では、声には感情が殆ど表れていなかった。同時に、闇サイト殺人事件の公判時と比較して、声は小さめであり、発音がややはっきりしなかった。表情は無表情であり、しきりに瞬きをしていたのが、印象に残っている。
 まずは、初老のホウジョウ弁護士が、被告人質問に立った。

<ホウジョウ弁護士による被告人質問>
弁護人『まず、いわゆる守山事件について聞きます。この事件で、貴方と佐藤の言い分、食い違う。貴方、一審の主張、貴方の記憶通りですか』
被告人『はい』
 堀は、頷いた。
弁護人『貴方は、インターホンに録画機能があるか調べ、それを引き離した』
被告人『はい』
弁護人『バタンという音がして、佐藤が首を絞めているのが解る』
被告人『はい』
弁護人『インターホンを取り外していた位置、玄関入ってすぐ左に曲がった、リビングダイニングの方へ曲がった、角の位置ですね』
被告人『はい、そうです』
 頷いていた。
弁護人『その位置から、ベッドまでの距離、少なく見えます。貴方の記憶からすると、貴方の方から見るとどうでしたか?』
被告人『大体、そうですね、まあ、ホウジョウ先生の辺りくらいかと』
 弁護士の方を見ながら、答えていた。
弁護人『3~4メートル』
被告人『そうです』
弁護人『右後ろにベッドがある』
被告人『はい』
弁護人『そうすると、貴方がインターホン外そうとしているとき、音がして、右後ろを振り向いたと、こういうことになるんですね』
被告人『はい』
弁護人『その時に、佐藤さんの姿勢とか、被害者の姿勢などは、はっきり見えたんですか?』
被告人『その時はっきり見えたかどうかは、ちょっと、今は解らない、うん』
 また頷いた。
弁護人『貴方は、殺すな、と言った。間違いありませんか』
被告人『はい』
弁護人『バタンという音がしたまでの、流れは、最初、ガムテープで顔をまいたとか、一審で述べたことと違いない』
被告人『そうですね、はい』
堀は、宙を仰いだ。当時を思い出しているのだろうか。
弁護人『一審の、被告人質問調書を読んだ限りでは、玄関から入って、その場を点検したり、外にでたり、少し間延びしているが、これは間違いない』
被告人『はい』
 堀は、頷いた。
弁護人『僕はもちろん、強盗したことないんで、解りませんが、忍び込むんでしたら、素早くしちゃうというのが普通だと思うんですが、計画的に、段階を踏んでやっていったということなんですか?』
被告人『段階的にというか、まあ、その、入り込む前に、私と佐藤で、その、役割分担していて、襲うタイミングを佐藤任せにしてあったので、私たちそれを、待っていて、で、そこまで時間がかかりました』
弁護人『被害者の人を抑えるにしても、二人組ですから、二人で抑え込もうとは?物色して、金品を得て、迅速に逃走する。計画というのは、それはどうなっていますか?』
被告人『とにかく、こう、佐藤がAさんに襲いかかる、ということくらいしか、決めてなかったような、気がするんですけども』
 堀は、笑った。なぜ笑うのか。無計画さへの自嘲か?
弁護人『貴方が、インターホンを壊す前に、佐藤、何していたか見ていないですか』
被告人『・・・そうですね!見てない』
 堀は、頷いた
弁護人『物色は、佐藤はしていない』
被告人『そうですね、してない』
弁護人『あなた、物色の役割。佐藤は被害者の反抗を抑圧する役割』
被告人『はい』
弁護人『佐藤が碧南事件と同じく、また、怪しい行動をするとは思いませんでしたか?』
被告人『うーん、全くしませんでした』
 弁護人の方を向き、頷いた。
弁護人『被害者宅に侵入した後、貴方が佐藤さんに指示するですとか、佐藤は、暗黙の了解で、貴方の行動を見て、役割を果たす』
被告人『・・・そうですね、はい』
 頷いた。
弁護人『佐藤さんが、怪しげな行動、つまり、殺すと予想は』
被告人『わた・・・し・・・は、していませんでした』
弁護人『あなたがインターホンをいじっているときに、佐藤さんがどっからどこ来て、ベッドのある部屋に行ったか解らないですか』
被告人『そうですね』
弁護人『そうすると、インターホンを壊そうとしていた時、音がして気付く』
被告人『はい』
 頷いた。
弁護人『それ以前は、佐藤さんが、ガムテープを使って、縛っていたということと、その後、佐藤さんが首を絞めた行動は、継続的な行動は記憶にない?』
被告人『リビング、ダイニングから、寝室へ移ったのは覚えています。あの、被害者様と一緒に寝室に行ったのは覚えています。それからどうしたのかは、覚えていない』
弁護人『佐藤の行為について、貴方、心境はどんな風だった』
被告人『心境は、見た瞬間、まずいなと思いました。二回目でした』
弁護人『その日、佐藤さんが暴行を加えるのは二回目』
被告人『はい、(聞き取れず)』
弁護人『何がまずい』
被告人『Aさんを、殺めてしまうんじゃないか』
堀は、大きく息を吸い、唇をかみしめていた。
弁護人『碧南事件の時、結果として、二人が死んだこと、貴方の頭の中にありましたね』
被告人『頭・・・』
弁護人『まずいと思ったということは、うん、大きな感情、わいてきたと思う。なかったんですか?』
堀は、宙を仰ぎ、瞬きをすると、話し始めた。
被告人『感情というか、とにかく止めないといけないと思ってました。で、殺すなよ、ととっさに声をかけたと思います』
弁護人『「馬鹿、やめろ、殺すな、やめろ、と何回も言って佐藤に駆け寄りました」と、一審で貴方言っている。そう声を出して、佐藤さんに近寄ったのは、間違いない』
被告人『はい』
弁護人『貴方、佐藤さんを押さえつけたり、被害者の方から引き離したりは』
被告人『駈け寄ったら、えー、佐藤が馬乗りになっていて、離した(聞き取れず)』
堀は、頷いた。
弁護人『空気の漏れる、シューという音がして、まだ生きていると解る』
被告人『はい』
弁護人『その時の気持ちは、どんな気持ちだったんですか?』
堀は、息を吐き、答えた。
被告人『ほっとしました』
弁護人『なぜ、ほっとしたんですか!』
被告人『その、碧南事件みたいな大きな事件にならずに済んだと思いました』
弁護人『佐藤さんは、貴方が被害者の方への攻撃したと言っている。それを聞いていて、思いは?』
被告人『・・・最初は、まったく意味が解らなかったです。警察の取り調べ段階で、それは知りましたけど、何というか、憤りというか、全部押し付けてくる気なんだなと』
弁護人『で、幸いにして、守山事件での被害者、命が失われることはなかった』
被告人『はい』
弁護人『それは、事件後の何らかの報道でわかりましたね』
被告人『はい』
弁護人『あなたはどう思った?』
被告人『・・・とにかく、その、碧南事件みたいにならずに済んでよかったと思いました』
弁護人『で!二つの事件を受けて、一審で、大変厳しい判決を受けましたね』
被告人『はい』
弁護人『これを聞いて、貴方は、どういうことを思いましたか』
堀は、宙を仰ぎ、少し考え込んでいる様子だった。
被告人『その時、ま、ある程度、こう、予想は、してましたから、(聞き取れず)覚悟しましたから、その時、ま、判決を聞いて思うことは、正直、あまり、ありませんでした』
弁護人『だれしも!死刑、自分がなることは望まない!それはあなたも同じですか?』
被告人『正直、結構まじめに考えたんですけど、死刑ということは僕が決めることではないので、あまり考えてないです』
堀は、頭を振った。
弁護人『自分がこういうことをした、したことに、裁判官の一定の評価、厳しい刑受けることになった自分の行動、思ったことはどういうことですか?』
被告人『碧南事件と守山事件、今現在の受刑中の件(注・闇サイト殺人事件)と併せて三件、合計三名の命を奪ってしまっている状況です。その意味でも、(聞き取れず)みたいなものを、感じています』
弁護人『重大な刑を言い渡され、厳しい評価されることしたと理解できた』
被告人『はい』
堀は、頷いた。
弁護人『一審判決後、何か貴方なりに、被害者の方々に考えている、こういうことをしたい、そういう内容を話してください』
堀は、やや肩を緊張させた。
被告人『受刑者というか、死刑宣告受けてから、・・・そうですね、最終的に、こう、何か、自分の思いを形にできれば、それに越したことはないんですけども、なかなか、人の命を贖うことはできない』
弁護人『贖う?償う?』
被告人『償いはできませんので、自分がどうやって・・・償っていくか、せめて誠意みたいなものを、ご遺族様に伝えていきたいという風に思っています』
弁護人『そういう思い、持ち続けている』
被告人『判決が出てからは、もう、迷わず、それは、最低やっていかなければいけないと思って、続けています』
弁護人『写経するとか、手紙、一生懸命書くとか、そういう、具体的に』
被告人『えーと、個人教誨というか、拘置所でお坊さんを呼んでいただいて教誨してもらう、それは一年一回しています。本来であれば、その、謝罪も、私としては書き続けていきたいのですが、なかなか、今、受刑者ということで、作業もありますし、なかなか思うように、こう、時間が取れないですね』
弁護人『今、刑事被告人としてここにいる』
被告人『はい』
弁護人『拘置所では無期懲役囚の受刑者としての立場』
被告人『そうですね、受刑者として、作業しながら』
弁護人『刑務作業している』
被告人『はい』
弁護人『今日は、中断して出廷している』
被告人『午前中は、作業して』
弁護人『作業中、事件のことは忘れてますか?その時』
被告人『いえ、全く考えないということはないです。まあ、月二回ですけども、第二第四土曜日には、教育指導といって』
弁護人『教育指導』
被告人『はい。教育指導と言って、作文書く時間があるんですが、その時には、被害者様のことを、しております』
弁護人『一審後、貴方の息子さんから手紙が来ましたね』
被告人『はい』
弁護人『下の息子さんから』
被告人『次男の方から二回来ております』
弁護人『二回』
被告人『二回です』
弁護人『弁護人に示したのは、二回目の手紙ですね』
被告人『はい』

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