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27.これが私の天職かも?

専門学校の非常勤講師の仕事は、最初は、取得した資格を活かすことが目的でした。報酬は決して高くありませんでした。高くない上に、せっかく準備した内容を、「おしゃべり」と「やる気のなさ」で妨害され、ストレスばかりたまった時期もありました。

でも、毎月、固定収入を得ることができるし、研修講師として独り立ちするためには、場数を踏むことが必要だと思ったから、自分に自信がつくまでは、頑張ろうと思いました。
「全ては自分自身の修行のため。そのためなら、割り切ってやればいい!」
最初は、そう思っていました。

しかし、希薄な人間関係の中で2年間という短い年月を、検定試験に合格することと就職活動に終われる日々を送っている学生たちを見ながら、それだけのために仕事をしてていいのかな?と思い始めました。

1週間に1~2回しか講義を担当しない私に何が出来る?
クラス担任でもコース責任者でもない非常勤講師の私に、何が出来る?
限られたわずかな時間だから、学生一人一人との関わりを大切すればいいんじゃないの?。
知識や技術をギュウギュウに詰め込むんじゃなく、たった一つでもいいから、自分の力で気づいたり、やってみようと思ってもらうことが、社会に巣立っていく彼女たちにとって、一番大切なことなんじゃないかな?

 
4年目に担当したクラスは「ビジネス系」と「医療系」コースの4クラス。約80名。4月に講義がスタートして、私が一番最初に自分に課したことは、全員の名前を覚えることでした。

「1ヶ月待ってね。みんなの名前を覚えるから・・・」そう言って、一人一人の顔と名前を確認しながら、出欠確認やプリントの配付を行いました。
廊下ですれ違ったとき、名前を呼びながらあいさつをするようにしました。

そして、約束の1ヵ月後、ドキドキしながら名簿を見ずに、一人一人の名前を読み上げたました。
最後の一人の名前を呼び終えた瞬間、どのクラスからも「わぁ~~~」という歓声と共に、拍手が起こりました。
名前を呼ばれたときの、彼女たちの嬉しそうな笑顔は、みんなとっても素敵でした。

“やる気がなくても、自信もなくても、みんな自分のことを認めてもらいたいって思っている。みんな心のどこかで、その他大勢にはなりたくないと思ってるんじゃないかな?”
と、彼女たちの表情を見ながら思いました。

講義が進むにつれて、無表情だった学生の表情が、あいさつを交わす瞬間、笑顔になるのがわかりました。
「おはよ~~」「バイバイ♪」_友達言葉だけど、彼女たちのほうからあいさつが返ってくるようになりました。

街中で彼氏と歩いてる学生に大きな声で呼び止められ、お互いに「バイバ~~イ♪」と手を振り合っていたら、彼氏が彼女(教えている学生)に「先生にそんなあいさつじゃいかんだろうが!」と怒られてしまい、彼女と二人して「すみません!」と謝ったこともありました。

雑談で盛り上がり、みんなで大笑いしすぎて、隣の教室で講義をしている先生に、「静かにしてください!なんだ、大西さんいらっしゃったんですか?」と叱られたことなんてしばしば・・・。

だけど、お辞儀をしたり、名刺の受け渡しや案内の仕方など、見本を見せるときは、前日に何度も家で練習して、ドキドキしながらバシッと決めて見せました。
私の一挙手一投足を見られているんだろうな_と思ったら、ニコニコ笑っていても、内心は震えるほど緊張の連続でした。

「あいさつ」と「笑顔」と「元気のよさ」_私から発信できるものはその3つだけ。それだけを発信しつづけた1年。そして、提出してもらった2年目の感想レポート。

「あの授業は、唯一ゆっくりできる時間でした。いつも笑顔で接してくれてる様子を見てると、何だか私まで笑顔になるし、落ち込んでいるときでも、自然に元気になれました」

「いつも何に対しても一生懸命な先生は、素敵な生き方をしているなと思っていました。私も、これから社会に出て、色々なことを経験して、いつかは一生懸命が素敵な女性になりたいと思います」

「多分、私だけでなく、みんなが感じていたことだと思うけれど、あの授業は、本当の自分を出せる時間だったような気がします。だから、これからも、ずっと今のまま,授業を続けていってください。そして、今のまま、変わらず素敵な女性でいてください」

「いつも、授業の中で励まされていたような感じがしていました。だから、色々な気持ちをこめて、先生に言いたいです。いっぱい、いっぱいありがとう!先生に出会えてよかったです」

どの用紙にも、講義の楽しかった思い出や、発見したこと、気づいたことを、思い思いの言葉でギッシリと書いてあった。そして、どの学生も、最後は「お世話になりました」「ありがとうございました」という言葉で、レポートが締めくくられていました。
大した内容の授業なんてしてないのに、恥ずかしかったけど、それが、一番嬉しかったです。

わたしのやっていることは、お粗末なことかもしれない。「ふざけてる」「甘い」「厳しさが足りない」と思われているかもしれない。
でも、振り向いたら、いつも「ニコッ」と笑って見ている。そんな講師が一人くらいいてもいいんじゃないかな?

「なんかね。年取るの(20歳超えるの)、すごい嫌だと思いよった。20歳過ぎたら人生終わりだと思ってたけど、先生見よったら、あまりイヤじゃなくなってきた。
働くことにも自信が持ててきた。もーとにかく、先生見よったら、イヤなことも忘れるし、やる気がでてくるんよ。なんかね、見よったら、ワクワクする。大スキよ!」

“知識や技術も大事だけど、不安でいっぱいの、真っ暗闇の中にいる彼女たち一人一人にライトを当てながら、ぼんやりと周りが見え始める場所まで導くこと。それが私が、わたしらしく仕事をするということなのかもしれない。”と、レポートを1枚1枚読みながら思いました。

そして、固定収入のため、修行のためと割り切って始めた仕事が、いつの間にか、私の中で重要な位置を占めるようになりました。

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