トマソン

現在、地方で書店開業を目指しています。 映画、音楽、人文学、小説など、自分が好きな本を…

トマソン

現在、地方で書店開業を目指しています。 映画、音楽、人文学、小説など、自分が好きな本をたくさん紹介していきたいと思います。 一人でも多くの方に本の世界に触れてもらう、そんなきっかけになるコンテンツを発信できようこの場所で研鑽を積んでいきたいと思います。

最近の記事

『謎解きサリンジャー 自殺したのは誰なのか』 

 【ネタバレしそうな箇所があるのでご注意願います】  20世紀を代表する名作『ライ麦畑でつかまえて』を生み出したアメリカの作家J・Dサリンジャー。本書はサリンジャー作品の謎を探究したものである。  これがとにかく凄いのだ。自分は今ままでサリンジャー作品の何を読んでいたんだ・・・青春時代に読んだ数々のサリンジャー作品。好きな作家と豪語していた自分があまりに恥ずかしい。映画の中で、主人公が鈍器か何かで頭をガツンとやられ、その後の人生が一変してしまう(特にアキ・カウリスマキの映画

    • 『ポール・ヴァーゼンの植物標本』

       フランスの蚤の市。品物もまばらになった机の片隅に寂しげに佇む一つの箱。箱を開けると、美しい押し花と可憐な飾り文字で「Melle Paule Vaesen」と記されている・・・  古道具屋 アトラス店主が偶然見つけた、ポール・ヴァーゼンの植物標本。日本に持ち帰り、展覧会を開催したのを機にこの著書は発刊された。    押し花を扱うかのようにフィルムに包まれている造本。その半透明なフィルム越しに見える表紙の植物は、淡く優しい光に包まれているようでいて何とも美しい。    著書

      • 『昔日の客』 関口良雄 著

         今は亡き、山王書房 店主 関口良雄の随筆集。  この著書は、昭和53年に刊行され、長らく古書ファンの間でも幻の名著とされていた。本書は夏葉社より32年ぶりの復刊。  著書は、数々の文人たちとの交流や来店するお客さんとの遣り取り、古書にまつわるエピソードを、温かみのある詩情的な筆致で綴られ、思わず笑みが溢れてしまいながらも哀愁が感じられるそんな随筆集である。随筆でありながら、古書にまつわる物語、といった趣もある。  『最後の電話』の、臨終の尾崎士郎との「女房のゆばりの音」の

        • 『ノラや』 内田百閒 著

          #読書感想文  「ノラやノラや、今はお前はどこにいるのだ」  内田百閒のノラの帰りを待つ悲哀が何とも切ない。    子の野良猫が庭にいつくようになり、野良猫であるからという由で「ノラ」と名付け、一緒に生活することに。次第に、ノラの可愛らしい振る舞いや、成長していく姿を見るにつれ、夫婦は我が子のように接していくのである。しかし、3月27日、木賊から外に出たっきり戻ってこない。ノラが行方不明となってからというもの、迷い猫として新聞広告、ラジオなどを使って多くの人の手をかり探し出

        『謎解きサリンジャー 自殺したのは誰なのか』 

          ポジティヴシンキングの末裔 木下古栗 著

          #うちの積読を紹介する 先日、本を求めて上京。上京中は神保町の書店を中心に古書を買い漁るのを目的としていたのだが、せっかく東京に来たんだから、渋谷周辺をぶらぶらしてから青山ブックセンターにも行ってみようかしら、と思い立ち、何の気なしに入店した。  いきなり、大量に平積みされている本が目に飛び込んできた。青山ブックセンター本店だけでしか販売していないと謳っている、おすすめの新刊のようだ。さらに帯には、「岸本佐知子、おすすめ」とある。岸本佐知子氏が訳書する本は間違いないだろうと

          ポジティヴシンキングの末裔 木下古栗 著

          『中井久夫 人と仕事』 最相葉月 著

           中井久夫。日本の精神科医。2022年に逝去。享年88歳。  精神医学界のみならず、多くの分野に多大な功績を残した。著書は、「詩」について多く言及されている。中井にとっての「詩」というのは、どれほど重要なものだったのか。統合失調症について長年研究してきた中井にとって、詩と統合失調症の研究というのは密接なものだったことが、この著書で語られている。           今の社会は、正解か不正解で、物事を判断しようとする「ジャッジ」思考が蔓延している。世の中どっちつかずと

          『中井久夫 人と仕事』 最相葉月 著

          『夜のある町で』 荒川洋治 著

           恐れ多いことを承知で言わせていただくと、荒川洋治氏は、高精度のセンサーを持っている。そのセンセーは、暮らしの中のありふれたこと、人と人とが交わす何気ない遣り取り、果ては物や誌面など、ありとあらゆるものをに反応する。時には盗み見するようにスナップショットする。写真を撮ることに例えてしまったのは、著書を読み進めていくうちに、写真家森山大道が想起されたから。森山大道自身、街中をぶらぶら歩き、あっと感じたものをスナップする。それをセンサーが感じて反応する、と言っていることを思い出し

          『夜のある町で』 荒川洋治 著

          『メキシコ人』 ジャック・ロンドン著

           物語は、少年フェリペ・リベラが「革命組織で働きたい」と現れるところから始まる。  素性を知らない彼を革命組織の人たちは、誰も快く思わない。リベラの憎悪をたぎらせた冷酷な眼差し、いっさい愛想はなく心が感じられない、必要最低限のことしか話さない、そんな彼の態度から組織の人たちは、独裁者ディアスのスパイと怪しむのである。フェリぺを組織に受け入れたものの、一向に謎のままであり、次第に周囲の人たちは彼に恐怖心を抱くのであった。いつしか革命の気が熟す。しかし、必要な武器を調達できるお

          『メキシコ人』 ジャック・ロンドン著

          『水の子』 ジャック・ロンドン著 神話についてかく語りき

           ハワイ島で漁をしている老人と若者。老人が海の神話について若者に説くのだが、若者は老人の話に食傷気味だ。物語は、老人がひたすら若者に神話について説こうとするやり取りが展開されていく。  しかし、若者に饒舌に語る老人も、実は神話の持つ秘密が分からず、酒浸りの日々を送っている。  老人は若者に次のこと言う。  「齢を重ねるにつれて、わしはだんだん、外に真理を求めなくなり、己の内に真理を見出すようになってきた。母のもとに帰るとか、母からもう一度生まれて太陽のなかへ出るとかいった

          『水の子』 ジャック・ロンドン著 神話についてかく語りき

          【おすすめ】             『忘れられた日本人』 宮本常一著   文字を持つ伝承者について      

          「古きを訪ね新しきを知る」という言葉がある。意味は、昔のことをよく研究し、それを参考に、今付き合っている問題や新しい事柄について考えること(温故知新より)」とある。    さて、「文字を持つ伝承者」田中翁について宮本が著したお話である。  現代では読み書きをできる人はほとんどであるが、一昔前までは、文字を知らないか、知っていたとしても文字に頼ることが少ない人ばかりだった。文字で表現できる人は極めて少なく、田中翁は文字を持つ表現者であった。  文字を持つものは、文字を通じて外の

          【おすすめ】             『忘れられた日本人』 宮本常一著   文字を持つ伝承者について      

          昔むかしあるところに・・・『忘れられた日本人』 宮本常一 著

           柳田國男、折口信一等の民俗学に影響を受けた宮本常一。柳田や折口は民謡や民話などからその土地の風土、文化を研究したことに対し、宮本が求めたものは、その土地に生きている人々の生活に溶け込み、対話をすることだった。その土地で生きていきた人の語りを聴くことで、その土地の文化や風習、慣習なども顕現してくる。  その土地に暮らす生の声を聴き集めたものがこの著書である。田植えをしながら女性達がする談笑(卑猥な)、盲目の浮浪者の語り、老人達の座談会での会話、寄り合いでの村人達の話し合い、

          昔むかしあるところに・・・『忘れられた日本人』 宮本常一 著