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幸せな暮らしは、地域の人たちがいてこそ成り立つものだと気づいた(坂井章加さん/熊本県南阿蘇村/梅加工WSでの移住交流会)

講師:坂井章加さんの暮らしにまつわるお話

宿をつくるという夢を持って、2015年に奈良県から南阿蘇村へ移住。その後、災害を経験したことで、復興なくして夢は叶えられないと地域を盛り上げることに専念。2022年3月までカフェを営んでいた。現在は、脱サラした夫と子ども達を巻き込んでの宿づくりをスタートさせたところ。畑を耕し、季節の手仕事を楽しみなが暮らす。宿は2022年秋完成目標!

木漏れ日の下で笑う、坂井章加さん。2022年5月の末、村のあちこちで梅の木がまん丸な実をつけた頃、「梅の加工が上手な人」として地域おこし協力隊仲間から紹介されたのが章加さんだった。「初めまして」のときから、なぜだか初対面の気がしない。章加さんのまとう空気のやわらかさに触れると、詰めていた息をふぅっと思いきり吐き出せる気がする。

奈良県から熊本県南阿蘇村へ。移住のきっかけを辿れば、あまりに悲しい出来事がある。「やっと授かった子を流産してしまって」。思い返せばその当時、夫婦揃って不規則な生活が続いていた。ほとんど夜中に帰宅して夕食を取ることも珍しくなかったという。食生活の改善を試みはじめた章加さんが出合ったのが、マクロビオティック。以来、ストイックに玄米食を貫いていたというが、現在は「ちゃんとした食材」を使うところに落ち着いたようだ。ちゃんと、というのは、章加さんがこれまでの試行錯誤の中で培ってきたものさし。地産地消や食品添加物等に気を配りつつ、家族(夫と2人の息子)でおいしい時間を過ごせることを大事にしている。

移住に際して重視したのも、食。夫婦揃って、人を招いてご飯を囲む時間が大好きだったから、ゲストハウスという人を迎える場をつくりたいという考えに至った。大分県に住む章加さんの母に案内されて阿蘇周辺をドライブしたのが転機。「こんなにきれいに、陽光が差し込む場所があるんだ」と感動したこと、夫の浩二さんが「九州で仕事をしようかな」と移住に前向きだったことから、2015年に南阿蘇村での暮らしがスタートする。現在、久石地区の一画に構えた自宅の傍らに、念願のゲストハウスを建築中。ほぼ浩二さんの手づくりで、宿としての輪郭が少しずつはっきりしてきたところ。今年秋にオープン予定だ。

建築中のゲストハウス。
2階の床貼りをしていた、 浩二さん。
こちらは寝室になる予定。

「地域の人なくして、幸せな暮らしはできないんじゃないかな」。章加さんは、自宅前の田園風景を見つめながら、この7年を振り返る。当初は、移住者でまとまっているだけで十分に暮らしが成り立っているように思えた。けれど、震災後から少しずつ、地域という要素が章加さんの中に育っていく。期間限定で営業していたカフェを、地域内外の人たちが応援してくれた。近所の方の厚意で小さな菜園を借り、家族でいただく分の野菜を育てることができる。おばあちゃんに誘われて、ひっそりと祭られてきた山神様をお参りした。それは、地域の人が大事にしてきたものを一緒に見つめる視点を培ってきたことで、少しずつ開かれていった世界だ。

夢や憧れ、自己実現。そういった自分軸を持つことは大事。けれどそれだけでは、本質が置き去りになってしまうのかもしれない。互いの大切なものを大切にし合うこと。あたりまえかもしれないけれど、暮らしの根っこに置くのは、そんな価値観でありたいと思う。

章加さんの梅加工WS

南阿蘇村地域おこし協力隊のプロジェクト活動の一環で、章加さんを講師に迎えての移住交流会を開催。村内外から集まった約10名の参加者と一緒に、梅の加工を楽しみながら村での暮らしのこと、移住に関することなどを楽しく語りあいました。

■2022年6月:WSの1日目は、梅シロップづくり。梅干しは、仕込みまでを一緒に行いました。

WSでは、村内の無農薬栽培の梅を使用しました。
白砂糖、きび糖、てんさい糖など、砂糖の種類によって完成までのスピードや、仕上がりの味わいも異なります。
お昼は章加さん特性、酵素玄米と豚汁。浩二さんが振る舞ってくれたコーヒーも一緒に、いただきました。
午後からは梅干しの仕込み作業。タイミング的に適度に黄熟した梅を用意するのが難しく、デモンストレーションで実施。プラスチック保存袋を使って、少量で漬ける方法も教わりました。

■2022年6-7月:参加者それぞれの自宅で、梅シロップの熟成と梅干しの仕込みを実施。気づけば、「今日はどんな具合かな?」と、瓶の中の梅たちに話しかけていたり(笑) 

右が氷砂糖。左がてんさい糖で仕込んだ梅シロップ。梅の周りからじんわりと水分が染みています。ちょっとカブトムシの幼虫みたい。
約1ヵ月後。写真ではわかりづらいですが、てんさい糖のほうはまだ底に砂糖が残っています。精製された氷砂糖のほうが早く分解され、ミネラル分などがたっぷりのてんさい糖は分解に時間がかかるのだそうです。仕上がりの味はお好みで調整。
保存袋で仕込んだ梅干しの約1ヵ月経過図。きれいな琥珀色の梅酢が上がって、無事に全体が漬かりました。

■2022年7月:WSの2日目。梅の干し方デモンストレーションと、章加さんとの暮らしにまつわるお話を楽しみました。

ほうじ茶を入れてアレンジされた梅シロップを試飲。香ばしい後味。
約1ヵ月仕込んだ梅。3日間天日に干して、梅干しに仕上げます。天日干しによって梅がどんな風に変化するのか…。章加さんの話に皆さん興味津々。にしても、自然に落日した完熟梅で仕込んだ梅の柔らかいことといったら! ずっとフニフニしたくなってしまいます。

■お盆前:参加者それぞれに天日干しを実行。思いがけない長雨で、我が家の梅を干すタイミングはちょっと遅れ気味でしたが、なんとかなりました(笑)

ちなみに実家(熊本市)の母も一緒に梅干しを作ったのですが、うっかりカビを生やしてしまったとか。でもこの通り、おいしく出来上がりました。

未活用の素材を使った梅仕事を、地域の方に教わりたくて(参加者の方へ綴った手紙)

このイベントは、同じ地域おこし協力隊のIさんから「梅を買わない?」と持ちかけられたことから始まりました。送られてきたのは、つやつやの梅の実の写真。改めて村を見渡してみれば、あちこちに梅の実が生っていることに気づきます。梅雨の前、梅が実る季節を、すっかり忘れていた自分がいました。

なぜまた、Iさんが梅の販売を? よくよく話を聞いてみると、昨年の夏、市村さんが飛び込みで挨拶に訪れたグランピング施設の方とのご縁がきっかけであることがわかります。グランピング施設の代表の方の祖父が、かつて敷地内でたくさんの梅の木を育てていたのだそう。毎年のようにふっくらとした実をつける梅の木。ですが、いまとなっては収穫する人もおらず、朽ちて土に還るかゴミとして処分されるばかり……。

そんな現状を聞いたIさん、だったら自分が収穫して販売します! と手を挙げたのです。今年は、地域に新設されたIT学校に通う学生たちをアルバイトに雇うなど、地域内で少しでも利益が循環する仕組みを模索しているところだとか。

さて、ぜひ梅を買いたいと勇んだ私はといえば、買ったところで上手に加工する方法を知りません。せっかくだから村内の人に教えてもらえたらうれしいなぁ。そう思って、「梅の加工が上手な人」がいないかとIさんに尋ねたところ、章加さんと出会うことができ、初対面で「せっかくならWSにしよう!」と盛り上がって、この企画が誕生することとなりました。

梅の加工をツールとして、章加さんご自身の生き方や暮らしに触れていただき、村の風土や、そこに流れる時間を体感してほしい。それがこのイベントの趣旨。今日のこの時間が、皆様にとって楽しく幸せなひと時となれば、とてもうれしく思います。


イベント参加者には、章加さんのお話と梅干しレシピをまとめたリーフレットを配布しました。

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