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てのひらから生まれるカタチ(北里かおりさん/熊本県南阿蘇村/陶芸体験交流会)

北里かおりさんのものづくり

南阿蘇村出身、在住。現南阿蘇村集落⽀援で、陶造形家。建築や自然観察、テキスタイルなど、 テーマごとの海外旅を重ねながら、アー ト、⾳楽イベントや地域づくりに長年携わ る。現在は⼯房の再オープンに向けてイベ ントなどで活動中。初めて陶芸に触れたの は小学4年生のとき。開窯して2023年で25年。
●Aso-Mebuki
陶芸体験、ワークショップに参加いただけます。
Instagram:aso_mebuki_11

土の感触やにおいを感じながら、向き合う時間が大切

南阿蘇村の北西、長野と呼ばれる集落。長閑な田園風景を見晴るかす小高い場所に、北里かおりさんの小さなアトリエはある。ひと目で大切にされていることがわかる、古い棚や机。そこに並んだ作品たちは、なんだか居心地良さそうに見えた。耳を澄ませば、彼らの密やかなおしゃべりが聞こえて
くるんじゃないか。そんな楽しい想像がふわふわと浮かぶ。

ここには元々、かおりさんの実家があった。進学等で一度は離れた村に帰って窯を開いたのは、20代の終わり。「窯を据えるということは、そこに根づくということ」。そう考えたときに、自らの中に息づく祖父との思い出がよみがえってきたと話す。「一緒にしめ縄を編んだり、俵や蓑を作って飾りものにしたり。小さな集落で阿蘇の自然に触れて過ごした時間が私の根っこ」。

開窯してからは、修学旅行生の受け入れやイベント開催、陶芸体験など、住まいとしてだけでなく拠点としての役割を果たしてきた。熊本地震を経て結果的に住まいは移さざるを得なかったが、土地との縁をつなぎたいとアトリエのみを再建し、今に至る。

土を前に、かおりさんは「あなたはどんな形になりたい?」と語りかける。ひんやりとした塊に、熱を分け与えるように触れながら。最近は、作品の世界観を写真(平面)で表現することにも挑戦中だ。「ひとりの表現者として土と向き合いたい。この土地の、息吹を感じながら」。陶芸家でも造形家で
もなく、陶造形家を名乗る。それが、かおりさんなりの向き合い方。自らをのびのびと表現するものづくりには、「作る」や「生み出す」より「生まれる」という言葉がしっくりくる。

こうして長年、土に触れてきたかおりさん。だからだろうか、自らの拠って立つ地域への眼差しも温かい。Uターン後から20年以上、地域活動に携わり、震災後は集落支援員(総務省の地域活性化制度のひとつ)として地域住民に寄り添う日々。ものづくりの時間は減ってしまったけれど、「地域により深く関われたし、教わることもたくさんあった」と、振り返る。

ものづくりと地域。それは車の両輪のようなもの。その時々で果たす役割を変えつつ、いずれが欠けても、かおりさんの表現は成立しない。「最終的には両者が融合していくのでしょうね」。そのとき、どんな表現が、かおりさんのてのひらから生まれるだろうか。

北里さんの代表作、「芽吹き」。一輪挿し。
写真上/絵付けと造形では、 異なる性質の粘土を使う。
写真中/自然のモチーフから造形の インスピレーションを得る。
写真下/レースで皿に模様を付ける。暮らしが ときめくアイデアを取り入れて。
写真右/植物の芽をイメージしたふたもの。
写真左上/小鳥が花をついばむような、花器。
写真左下/阿蘇の山とカルデラを模した香炉。 お香から立ち上る煙が、噴煙のよう。
姿かたち、質感もさまざまな作品たち。写真パネルは、代表作の「芽吹き」。

2023年3月 陶芸体験交流会を開催(報告)

2023年3月4日と8日に、南阿蘇村地域おこし協力隊の主催で陶芸体験交流会を開催。講師役を、北里さんにお願いしました。集落の散策や陶芸体験、おいしいおやつタイムでのおしゃべりを楽しみました。
※体験を目的としたレジャーではなく、体験を通して交流や学びを深めることがメイン目的です。

集落散策

まずは南阿蘇村長野地区にある、長野阿蘇神社神楽殿の見学。ふだんは公開されていない神楽殿のなかを見学できる貴重な機会とあって、地元出身である北里さんの話に皆さん興味津々。村に移住されて数年経つ方からも、「初めて来た」という声が聞かれました。

神楽殿で舞われるのは、300年以上の歴史を誇る岩戸神楽。地域の人たちの手で大切に継がれてきた伝統文化です。毎年秋に神楽奉納を行っていますが、ここ数年はコロナ禍で開催がままならないこと、舞い手の後継者が減ってきていることなど、課題もいろいろ。

そんななかで、神楽以外にもこの場所を活用しようと、音楽家によるコンサートを開催するなど、交流の場をつないでいるといいます(2023年5月8日(月)11~12時三大ヴァイオリン古澤巌奉納コンサート開催決定)。

神楽殿で北里さんの説明に耳を傾けます。

続いて、近くの長野阿蘇神社で陶造形体験のモチーフ探し。息を呑むほどに美しい本殿の彫刻細工や、頭上高くそびえる夫婦檜、きれいに苔むした灯篭などなど、皆さんの興味の先はさまざま。特にお子さんは、大人が思いもよらないものに興味を示すので、驚かされます。

歩いて5~10分ほどの北里さんの工房までの道のりでは、梅やフキノトウ、咲き始めたばかりの桜が迎えてくれました。「私が住んでいるところでは、まだ梅は咲いていません。同じ村でも、こんなに違うんですね」。自分が知っているところ、住んでいるところ以外は、なかなか足を運ぶ機会がないもの。実は集落ごとに多様な環境や文化を備えているのも、南阿蘇村の魅力のひとつです。

写真上・中/長野阿蘇神社で、陶芸のモチーフ探し。
写真下/梅の花がほころんでいました。
写真上/工房までの道のりで、砂防ダムについて聞きます。
写真下/ひょっこり顔を出していた、ふきのとう。

陶造形体験(花器づくり/絵付け)

スケッチをもとに、造形や絵付けのイメージを膨らませます。「いま歩いてきたところの石積みが印象的」「鳥居と鈴と猫と私」「夫婦檜がすごかった」。皆さん悩みながら、粘土に手を伸ばします。

北里さんのレクチャーを受けながら、形を整えたり絵を描いたり。頭のなかで想像したこと、イメージ画にまとめたことを、より具体的にしていきます。ひんやりとした土の感触をてのひらに感じながらの、“生み出す”時間です。

阿蘇の土の特徴、北里さんが普段使っている土との違いなどにも興味深く耳を傾けました。

それぞれのインスピレーションで、素敵な花器に。

おやつをお供に交流

おやつタイムには、見た目にも可愛い、イベント特別仕様の米粉のいちごロールケーキ。久木野エリアのおやつ&café aijuさんにお願いして、身体に優しく春らしいおやつを作っていただきました。

菊池産有機米粉、南阿蘇産有精卵などを使ったお菓子には、店主の「自分にも自然にも無理のないおやつを」という思いが込められています。

おやつをいただきながら、移住や空き家の話にも花が咲きました。
「どうして南阿蘇に来たの?」 「村のどんなところが好き?」 「空き家の活用、もっと進めばいいよね」。

時間はあっという間に流れ、少しずつ夕暮れの雰囲気に包まれる工房。
阿蘇五岳の眺望を求める移住者の人気を集める久木野エリア(南外輪山側)とは、地理的に反対側(阿蘇五岳側)に位置する長野地区(長陽エリア)を知るきっかけを得て、「こちらの地区も、またいい感じですね!」と、うれしい言葉をいただきました。
観光視点だけでは得られなかった、暮らしていても知る機会がなかなかなかった、地域のちょっとディープな話。
ちょっと踏み込んで、暮らしの深い部分を体感していただけた交流会でした。

イベントで配布したフライヤー

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