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映画「his」 *20/8/16

最近、少しも状況は落ち着いてはいないけど人と会うことが多くなってきて思うのは、以前より「映画、何が面白い?」って会話が多い気がしています。ステイホームも長くなってきて、映画とか見るしかないけど、なんか真新しい世界の、良い作品ある?という情報交換が多いような。
日曜日の昼下がりもそんな会話になり、普段BLが好きなオタクだってことは隠して生きている私ですが、この作品は「えっ、そういうの好きなの?」って疑われるリスクを抱えながらも、毎回大真面目に全力ですすめています。私の2020上半期1位。2020ベスト3にも絶対に入ると思う。
おすすめしないと見る層が限られる映画だと思うけど、どうか多くの人に見て欲しい映画です。観た後に優しくなれる映画なのでぜひ。
(8月5日にDVD&Blu-rayが発売され、アマゾンプライムで500円で配信されています)


視聴記録:
映画「his」

あらすじ:
春休みに江の島を訪れた男子高校生・井川迅と、湘南で高校に通う日比野渚。
二人の間に芽生えた友情は、やがて愛へと発展し、お互いの気持ちを確かめ合っていく。
しかし、迅の大学卒業を控えた頃、渚は「一緒にいても将来が見えない」と突如別れを告げる。
出会いから13年後、迅は周囲にゲイだと知られることを恐れ、ひっそりと一人で田舎暮らしを送っていた。
そこに、6歳の娘・空を連れた渚が突然現れる。「しばらくの間、居候させて欲しい」と言う渚に戸惑いを隠せない迅だったが、いつしか空も懐き、周囲の人々も三人を受け入れていく。
そんな中、渚は妻・玲奈との間で離婚と親権の協議をしていることを迅に打ち明ける。
ある日、玲奈が空を東京に連れて戻してしまう。
落ち込む渚に対して、迅は「渚と空ちゃんと三人で一緒に暮らしたい」と気持ちを伝える。
しかし、離婚調停が進んでいく中で、迅たちは、玲奈の弁護士や裁判官から心ない言葉を浴びせられ、自分たちを取り巻く環境に改めて向き合うことになっていく。


この映画は、現代の20〜30代が抱えている生きづらさを描き、そのなかで「幸せ」を追求する人たちが丁寧に描かれています。
ラストシーンと主題歌のSano ibukiさんの「マリアロード」が本当によくて、久しぶりに映画後の余韻に圧倒されてしまって、すぐに椅子を立てませんでした…。

正直なところを言えば、BL映画だと認識して見に行ったのでした。
直前に公開された今泉監督の「mellow」も映画館に見に行ったのですが、私の好みには合わず、正直ただの空気感映画と感じてしまったのでした。田中圭さんの花屋はとんでもなく魅力的だったのですが(あんな花屋実在してたら通う)、内容が全然響かないPVのような映画だなと思ったので、今作も映画としての出来はほとんど期待していませんでした。
公開からすぐの1月末の昼下がりに新宿武蔵野館で観たときは、想像以上に30〜50代の男性が多く、びっくりもしたのでした。「これ、男同士の恋愛ものですけど、大丈夫ですか?」と。でも、観た後なら、あれは生粋の映画ファンたちが高評価を聞いて観に来たんだな、とよくわかります。

この映画の特筆すべきところは、2つあると思っています。
1つは、上にもすこし書いたラストシーンの撮り方。
2つ目は、裁判シーンの描き方。

ラストシーンと主題歌の「マリアロード」

ぜひ見てほしいので核心を書くことは避けますが、通常の映画とは少し変わっていて、遠くからの引きの絵でラストを迎えます。登場人物たちがとても小さく画面上にいて、声だけは入っている状態です。(どうやらその芝居はほとんどアドリブだったらしい)
その、遠く引きながら、ただちいさな登場人物たちをすがめて見るような絵の時間は長く、とてもいろいろなことを想像してしまいました。かすかな光を祈るように、じっと見つめてしまうような瞬間でした。
そこでかかる主題歌の「マリアロード」も、純粋な祈りのうたで、登場人物のそれぞれの祈りによく寄り添っていたのがまた本当に良かったのです。

現代の生きづらさが全て詰まったような裁判シーン

渚の6歳の娘・空の親権争いをする、家庭裁判所でのシーンが本当に辛い。現代の生きづらさが全て詰まったような裁判シーンでした。
個人的に、子育てと自分のキャリアについてとても気になっていた時期だったので、この裁判シーンで渚の元奥さんの女性側に問われる「キャリアと子育ての両立は可能か?」という問答を通してぐっと肌触りがリアルになって、「これは自分の話だ」と感じてしまいました。男性二人のカップルを応援していたはずなのに、渚の元奥さんの女性にめちゃくちゃ共感し始める…という、自分でも予期しなかったことになっていました。
この裁判シーンがなかったら、昨今量産されているBL映画と遜色のない出来栄えだったと思います。

余韻は深くて、いまだにやってしまいます。卵の片手割りと、「だーいせいこーう!」というハイタッチ。こういう小さな子供とのコミュニケーションも、非常に魅力的でした。

テレビシリーズ「his〜恋するつもりなんてなかった〜」

ちなみに、実はテレビドラマシリーズの「his」もあります。映画放映を前に全5話で撮影されたもので、脚本や監督含め、スタッフは全員一緒です。映画の13年前、湘南で出会った頃の二人の話です。

このテレビドラマ版を観ていなくても映画は全く問題なく楽しめました。観ていればなお楽しいと思いますし、私は映画ですっかりハマってしまったので、その日の夜にすぐ視聴しました。

映画の13年前の迅と渚ということで、キャストが違います。
それでも、迅がすぐ耳が赤くなってしまうところや、渚の面影も、別キャストになったことで別物に分離することなく、本当につながっているように感じられる素晴らしい出来でした。
映画視聴後には、ドラマとの共通点を探っていくのもおすすめです。

「LGBTQものだから全然関係ないよ」って言わず、いろんな人に見てほしい映画です。

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