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展示「Re construction 再構築」 *20/8/21

2020、心に残る展示になりそうです。良い体験ができました。

鑑賞記録:
練馬区立美術館/「練馬区立美術館開館35周年記念 Re construction 再構築」

近くへ行く予定があり、時間ができたので立ち寄りました。区立美術館系はコロナ禍でも予約不要で、ふらっと美術館に行くことができてとても嬉しいです。

再開しはじめの5月末、練馬区にも近い板橋区立美術館にも行きましたが、あちらは小さい美術館ながらとても綺麗で、そして展示の空間構成がとても素敵で、想像以上に良かったことを思い出しました。
練馬区立美術館も、以前何かの展示で(何だったかな…)来たことがあり、目当ての展示が想像以上に丁寧でとてもいい展示だったことを覚えています。失礼ですが、その時も期待以上で驚きました。

実は、練馬区立美術館の前庭は「幻想美術動物園」と銘打ち、動物たちの触れる彫刻作品を設置しています。ライオンや、大きなゾウには、実は乗れてしまうようになっています。そして、触ったりのぼったりしても安全なように、ちゃんと足元は柔らかいゴム製のものを敷いています。東京都23区内で、こんなに触れて遊具としても遊べる彫刻を置いているのはここだけじゃないかと実は思っています。
リサーチしていたのは2015年のことなので最新施設はあるかもしれませんが、行政が設置した遊具の事故や破壊(落書き等も含め)に対して大変厳しくなっている昨今なので、こんなに自由に解放されている彫刻のある前庭、すてきだなぁー!と感動したものです。

そんなこともあり、今回の35周年記念展、少し期待していました。…が、私にとっては期待以上に良い展示でした。

これぞ、このご時世でも美術館に足を運んでみるべき展示、と感じました。


わかりやすい言葉で書かれた
シンプルかつ丁寧なキャプション

まず素晴らしいと思ったこと1つ目。
キャプションというのは、展示室に貼ってある文章です。たいていは「ごあいさつ」から始まります。ほとんどは展示を企画した学芸員やキュレーターが書いています。

持論ですが、このキャプション、館の特色や書いた人の性格まで、如実に現れるものだよなぁと思っています。このキャプションが美しく丁寧に作られているところは、良い館だな〜と感じます。人の手が行き届いている感じというか、愛情がある感じというか。
練馬区立美術館の今回の展示のキャプションは、見やすくシンプルにデザインされ、綺麗に裁断され、曲がったりせず美しく展示室に貼られていました。当たり前じゃない?と思われるかもしれませんが、そんなことないんです。
キャプション作成は業者ではなく、学芸員やスタッフの手でも作ろうと思えばできるので、費用の削減が簡単にできるところです。お金がない個人作家の展示や小さなギャラリー、学生展示はたいてい自力で作成しています。でも、費用削減して慣れない人が作ると、気泡が入ったり、裁断がガタガタだったり、かなり悲惨なことになります。そして、壁面への貼り付けも、うまくいかないと、水平が保てず曲がっていたり、一度落下したあとがあったり…展示室になんだか気持ちの悪い歪みが生まれてしまうんです。
時間(もしくはお金)をかけて、設置しているか?メンテナンスは行き届いているのか?というところに直結しやすい部分がキャプションの美しさだと思うので、「愛されている、いい館だ」という実感につながっています。

また、肝心のテキストの内容について。
どんなテキストにおいても、誰かに伝えるためのテキストは、難しい言葉で書くよりも、なるべくやさしい言葉で多くの世代にわかりやすい方が良いですよね。公共の美術館では特に必要だと思っています。が、もちろん高尚な美術を担う美術館もありますので、そういうところのキャプションは、難し言い回しも多く、頭に入ってきにくいです。(私の知識が足りないのかもしれませんが)

今回の練馬区立美術館のキャプションは、美術が詳しくない人にも展示の構成の意図を伝えるというミッションを持ちながらも、言葉選びが平坦で、読みやすかったです。
練馬区立美術館が所蔵している作品について、今回参加の現代美術の作家たちが語っているキャプションもあり、とても面白い試みだなと思いました。
区立美術館の夏休みの展示ということで、もう少し、ふりがなが付いていたり、子供向けのキャプションかな?と思っていました。でも実際、夏休みの平日昼すぎの展示室でだれ一人子供に会わなかったですし(今年は夏休みが短いからでしょうか)、漢字も使いながらも難しくない言葉選びで、ちょっと小学生には難しいだろうけど、多くの世代にわかりやすく、とても良いなと思いました。

ただ、途中からそれぞれの作品ひとつひとつの紹介の小さなキャプションがなかったので、丁寧にそれも作ってあるほうが、最初の流さんのところから企画意図がわかりやすいのではないかしら、とも、ちょっと思ってしまいました。私みたいに、ごあいさつでわかり切らずにまわりはじめる人が他にもいそうなので。展示室でお見かけしたご夫婦、所蔵作品と新作が混ざっていること全然気が付かず通り過ぎていったような…。私は展示作品リストを珍しくずっとにらめっこしながら見ていました。

展示の構成を鑑賞者にも"再構築"させる

冒頭のごあいさつのキャプションにもしっかり説明があったのですが、暑いなか到着して集中力散漫で…あまり意図を飲み込めないまま鑑賞をスタートしました。
「作品の歴史を意識してみてみてくださいね」というメッセージが込められた所蔵作品と各作品の詳しい歴史的背景の解説キャプションがついた展示の第1室があり、「あれ、現代美術の展示じゃなかったっけ?」と思ったのを覚えています。でも、キャプションが丁寧で、興味深く鑑賞しました。
そして、そのあと今回参加の現代美術作家4名のそれぞれ展示室が4つありました。「色」のセクションは流さん、「メディア」のセクションは青山さん、「空間」のセクションは冨井さん、それらを受け取る「身体」を大小島さん。
最初の流さんの展示室を見て、なるほど、35年間のうちの所蔵作品を起点に、現代美術の作家たちがどんな作品に再構築をしたかという構成になっているのか!とやっと理解。
それらの展示室を順番に見ていくと、「色」「メディア」「空間」「身体」…展示の要素となるものをひとつずつ知ることができる解説があり、つづけて展示室を回っていくと、どのように展示企画が作られていくのかが体感できるという仕掛けになっていて

所蔵作品から、現代美術家の「再構築」した作品展示
展示をみる鑑賞者自身の、展示体験の「再構築」

両方の意味の「再構築」か!と、最後の大小島さんの展示室で体感できたときは感動しました。
ごあいさつのキャプションを再度見て、いやすでにそう書いてあるじゃん、と自分に突っ込みましたが、私としては体感できたことが良い体験でした。美術館でしか体験できないことだったな、と。

特に、冨井さんの展示で空間についてフォーカスさせられてから、迎える最後の大小島さんの展示…。途中、「最後に身体って、わかるけど、どうなっていくんだ?」と思っていたのですが、身体全身で没入していく感じ…とても面白かったです。本当に体感してしまった!

でも、大小島さんの展示、苦手な方は結構辛く、好みは分かれるとは思うのですが。(展示室入ってすぐ出てしまった方もお見かけしました…)彼女の展示だけ、ものすごいエネルギーと物量でしたからね。。。


全体的に、作品の裏側が見えるようになっていたり、廊下を利用して展示が行われていたり、展示室の裏側のバックヤードが覗けたり、大道具の仕掛けがあったり…それぞれのライティングも美しく、とても繊細で手の込んだ遊び心のある素敵な展示でした。
(区立美術館で予算がないのか、ボコボコで日焼けした展示室の壁だけが!気になる……簡単に新しくできないのはわかっているのですが、他が綺麗な分、とても、気になる……)


美術展をつくってみたいと思うキュレーターや学芸員志望の方、美大生、美術大を目指す学生さんには、ぜひ見てほしい展示だなぁと思いました。

私個人としては、どんな風に展示室に現代美術作品と一緒に展示している所蔵作品を選んだのか、展示する所蔵作品数をどう決めたのか、とても気になります…。


とはいえ、35周年記念の展示は、また12月に第二弾があるようなので、また行こうと思います。そのときに今回の展示のカタログがあったら買ってしまうかもなぁ。

35年の35点 コレクションで振り返る練馬区立美術館(仮)
会期:12月12日(土)〜2021年2月14日(日)
観覧料:無料(会場は2階展示室のみ)
練馬区立美術館開館35周年を記念する展覧会第2弾です。

駅からも近いし、暑い日でも行きやすい美術館でした。
ぜひとも、ふらっと美術館に行きたくなったら、練馬区立美術館はおすすめです。



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