あのひとは

あのひとのいたみよりも
なんて声をかけたらいいかと
考えてしまう
声をかけたらかけたで
ちがっていたかもしれないと
気にしてしまう
自分の弱さ
ああ
わたしは
寝ても覚めても
自分のことばかり
それでもあのひとは
笑っている
いたみをひとりでかかえ
誰に腹を立てるでもなく
誰に愚痴を言うでもなく
ああ
あのひとは
寝ても覚めても
誰かのことばかり
それでもあのひとは
笑っている
ごめんなさいは
許しを請う言葉で
すぐに言ってしまうわたしに
あのひとはきっと
優しく微笑んでくれるだろうけれど

わたしは
ごめんなさいに
自分の業をのせて
あのひとに
ぶつけてはいなかったか
あのひとは
気づいてすら
微笑んでいたのではなかったか

優しさとは強さだ
わたしは優しさの皮をかぶった弱さだ
情けがないのはわたしだ
自分のことばかり考えるのはわたしだ

あのひとは今も
誰かのことを思って
泣いているのだろうか
その眠りが
あのひとを癒して
夜がいたみをなぐさめ
朝のひかりが差すように

世界があのひとにやさしくあるように

2023.06.15

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