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陰口

AさんがBさんにわたしの陰口を言っている
近くにいたのでどうしたの?と声をかけると
あわてて、なんでもないよ、との返事

Aさんはよく陰口を言う人だ
わたしはいつも笑って聞き流していた
悪い癖だなぁ、くらいに思っていたが
いざ自分に矛先が向くと
気持ちが落ち着かない
Aさんに腹が立つ
黙って聞いているBさんにも腹が立つ
自分は立場の弱い人間なんだと
レッテルを貼られたような劣等感

翌朝、目が覚めて
なんだ、まったく気にならないやと思ったのに
意識が戻るとまた考え込んでしまい
嫌な気持ちになる

Aさんは上司で
いつも、膝と腰が痛いと言う
身体が思うように動かないと精神的にも辛いのは知っているから
そんな中でも普段は優しく
表立ったいじめはしない
そんなところを尊敬していた

けれど、仕事ができない人や
嫌いな人にはきつくあたったり
陰口を言うのも知っていた
わたしはそれを悪い癖で済ましていた

けれど言われた方の身になれば
悪い癖で済まされなかったのではないか
言われて初めて感情的になるわたしこそ
自己中心的な偽善者だったのではないか

それでもわたしはAさんもBさんも嫌いになれない
何が腹立つかと言われれば
結局のところ、自分の心の狭さだろう
嫌うなら、初めから嫌えばいい
他人の陰口は笑顔で聞き流し
自分の陰口が許せない自分に嫌悪を感じるのだろう

彼女たちを本当には嫌いになれなくて
だけど自分のくだらないプライドが
彼女たちを許せなくて
心がざわつくのだろう

わたしとの関係はさておき
彼女たちだけを見つめれば
やっぱり嫌いになどなれなくて
もちろんわたしにも、芯から嫌いになる人はいるけれど
彼女たちにはそう思えなくて

自分の中のイライラを
人に聞いてほしい時もある
抑えられない時もある
誰かに許してほしい時もある
そういうことをいちいち気にして
腹を立てたり反撃すれば
相手もそれに腹を立て反撃してくる
きりがないとわかっているから
そっと風が通り過ぎていくように
いなすのがいいんじゃないか、なんて
ひとり心のすったもんだの挙句
わたしは人の陰口を聞いた時のように
自分の陰口も笑って聞き流そうと思う

2022.05.10

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