暮れ

年の暮れ
ネオンの色
駆け足で街にやってきて
過ぎ去っていく
逃げ場のない派手なクリスマスソング

わたしたち
いつしか忘れてしまった
失った歳ひとつ
戻らない時ひととき
この凍える体に
身籠ることを

騒々しいだけの
クリスマスやお正月ならいらない
ただ白い祈りさえあればいい
それが寒さであればいい

そうすれば
落ちる木々の葉の
黄や赤をひとつひとつ
覚えているだろう
小さく光る緑を
思い出しているだろう

雪すら降らなくなって
願いを忘れてしまったわたし
ながく眠って
目覚めたら
広い空が見られるように
懐かしい人に出逢えるように
そして本当のことだけ
語りあえるように

時代は人間をとうに置き去りにして
上澄みだけで生きる人形たちの
わたしもそのひとつ
だからわたしは
忘れたくない人々のために
年の暮れには
あなたの詩集を開く

あなたのかけらが
この世に残っていることで
宇宙の祈りを見届けるように
いのちの芯から温もって
生まれたばかりの遠い記憶に
触れた気になるから

2020.11.21

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?