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『タンゴ音楽はじめの一歩』①「よりどりタンゴ」〜古典から現代タンゴまで〜映画でおなじみの名曲も

「アルゼンチンタンゴの曲も踊りもあまり知らない、興味を持ったことがない」という方に、気軽に「タンゴ音楽」に触れていただきたいと思い、毎回テーマを設けて選曲したSpotifyのプレイリストをご紹介してまいります。
作業やお仕事のBGMとしてもお楽しみいただければと思います。

“アルゼンチンタンゴを既に習ったり楽しんでいる方にとっては馴染みのある内容だけれど、初めてタンゴに触れる方には初耳で新鮮” というようなタンゴ音楽に関する情報をお伝えできればと思います。

今回のテーマは・・・
「よりどりタンゴ」

プレイリスト第一弾として、いろいろな時代のいろいろなタンゴの曲を、ごった煮のようにひとつのプレイリストに集めてみました。

(Spotifyの無料アカウントをお持ちの方はプレイリストはシャッフル再生されます。)

プレイリストの曲を全部聴いていただくと...
・テレビや映画で聞いたことがある有名な曲
・自分が思っているタンゴのイメージ通りの曲
・想像していたのとちょっと違うな、と思う曲...
いろいろな感想をお持ちになると思います。

「ちょっと興味が出てきた」「気になる曲があった」という方は、プレイリストに収めている曲の簡単な背景を以下にご紹介していますので、よかったら読んでみてください。

まずは、映画の印象的なダンスシーンでファンが多い、あの名曲からー

《「映画のように踊ってみたい!」人が続出の名曲》

「アルゼンチンタンゴ」と一言で言っても、時代時代でその様相は様々。聴いた時の印象もかなり違います。
普段タンゴの踊りや音楽に触れる機会がない方にとっては、映画やCMなどで耳にする曲のイメージが強いのではないでしょうか?

「この曲が大好きで、いつかこの曲で踊りたいんです!」と、音楽をきっかけにタンゴを習いにいらっしゃる方もたくさんおられます。

例えば、このプレイリストにも入っている「ポル・ウナ・カベサ(Por Una Cabeza)」という曲は、映画「セント・オブ・ウーマン / 夢の香り」の中で、アル・パチーノ演じる盲目の退役軍人が、ティーラウンジで若く美しい女性とタンゴを踊るシーンで演奏されている曲です。

とても素敵なシーンで、踊りと人生を重ねるセリフも印象的。
この映画を観てアルゼンチンタンゴに憧れて習い始める、という方は結構多いです。

こちらの記事で、「セント・オブ・ウーマン / 夢の香り」について、詳しく分かりやすくまとめてくださっているので、ご紹介させていただきます。
(タンゴのダンスシーンもご覧いただけます。)

〈引用〉2019/05/24 00:41 ポール有「ちゃんと見えてるさ。『セント・オブ・ウーマン/夢の香り』」| note

タンゴ音楽には
鑑賞する曲」と
踊ることを意識して創られたりアレンジされている曲」
があります。

「ポル・ウナ・カベサ(Por Una Cabeza)」は、歌手で俳優のカルロス・ガルデル(Carlos Gardel)が1935年の映画「タンゴ・バー」 (Tango bar)の挿入歌として作曲したもので、邦題は「首の差で」と訳されています。
競馬の「首ひとつの差」になぞらえて、“1人の女性を巡り、恋のライバルにもう少しのところで破れてしまった” ギャンブル好きの男性が、その無念を歌い上げている曲です。

「ポル・ウナ・カベサ」はデモやショーで踊られたり、ミロンガという踊り場(ダンスパーティー)でかかることも勿論ありますが、カルロス・ガルデルの美しく伸びやかな歌声や、この歌の映画の撮影直後に飛行機事故で亡くなったという背景に思いが馳せられるためか、「踊るため」というよりも、「聴き入ってしまう鑑賞の曲」という印象を持っている方も多いようです。

ちなみに「セント・オブ・ウーマン / 夢の香り」で、人生経験豊かな盲目の退役軍人の中佐(アル・パチーノ)が、「踊ったことがない」と躊躇するドナ(ガブリエル・アンウォー)をいざない、器用にリードして踊っているタンゴは、通常アルゼンチンタンゴのレッスンで最初に習う 「サロンタンゴ」と呼ばれるタンゴとはちょっと趣が違います。

「サロンタンゴ」では「音楽を聴きながら即興で繰り出されるリードを、繊細に感じながらフォローする」というコミュニケーションを交わし合います。振付で決められたステップを踏むのではなく、その場で2人で踊りを作り上げていく即興のダンスで、ミロンガと呼ばれる踊り場で楽しまれているのも、この「サロンタンゴ」です。

中佐とドナの踊りは、「サロンタンゴ」の即興コミュニケーションの概念は踏襲しつつも、そのステップには、社交ダンスのプロムナードポジションで2人が進む動きが入っていたり、ホールド(アルゼンチンタンゴではアブラッソ〈抱擁〉と言います)を解いて2人の身体のポジションを開いてみたり、曲のアクセントの音に合わせてポーズのようなアクションを入れてみたり...と、いろいろな要素が散りばめられています。

それはそれで楽しげで、十分素敵なシーンなのですが、この映画の中の踊りの動きをイメージして「アルゼンチンタンゴ」を習い始めると、「あれ?思っていたのとちょっと違うな」と思う方もいらっしゃるようです。

レッスンでタンゴを習ったり、ミロンガ(タンゴのダンスパーティー)に出入りをするようになるまでは、皆さんがタンゴ音楽を耳にするきっかけや機会は、必然的にテレビやラジオなどのメディアが多いと思うので、「ポル・ウナ・カベサ」のように「日常でも耳にするような有名な曲」や「鑑賞のための名曲」に触れる中で「タンゴ音楽」を知って、好きになる、という方が多いのも頷けます。

《心に迫るモダンでクールな旋律》

「タンゴの破壊者」とも言われたアストル・ピアソラ(Astor Piazzolla)の曲も、CMや劇中歌などにも使われており、多くの人に好まれています。

アストル・ピアソラは、1950年代後半からクラシックやニューヨークジャズの要素を取り入れて「タンゴの革命」を起こし、「アディオス・ノニーノ(Adiós Nonino)」「リベルタンゴ(Libertango)」をはじめ、前衛的で心が揺さぶられるような旋律を数多く残しました。
踊りに捉われず生み出された楽曲には演奏時間が長い大作も多く、「聴くタンゴ」として私たちの耳と心に響いてきます。

《個性もそれぞれ〜第二次黄金期を彩った楽団》

今回のプレイリストには、「踊りのため」に徹底的にこだわって演奏されている、ファン・ダリエンソ(Juan D´Arienzo)楽団の曲も入っています。
1930年代前半に低迷していたタンゴに人々の目を向けさせたファン・ダリエンソ。
ファン・ダリエンソ楽団の小気味良く音が刻まれる独特の演奏は「電撃のリズム」と言われ、今回のプレイリストにも入っている「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」「ホテル・ビクトリア(Gran Hotel Victoria)」など、古典タンゴへの回帰を促しました。

ファン・ダリエンソ楽団と同時期、1940年〜1950年代のタンゴの第二次黄金期と言われる時代に活躍した
カルロス・ディ・サルリ(Carlos Di Sarli)
オスバルド・プグリエーゼ(Osvaldo Pugliese)
アニバル・トロイロ(Aníbal Troilo)
が率いる楽団の演奏も、ミロンガ(タンゴのパーティー)で欠かせません。

スタッカートと滑らかに流れるレガートの対比が波のように繰り返される、エレガントで情緒溢れる演奏を織りなしていたカルロス・ディ・サルリ楽団
「タンゴの紳士(El Señor del Tango)」と呼ばれたディ・サルリが、故郷を想って作曲した「バイア・ブランカ(Bahía Blanca)」をプレイリストでご紹介しています。

独特なリズムのスタッカートと、テンポが一定ではなく表現に合わせて揺れ動く精緻で重厚な演奏から“ドラマティック”という印象を口にするファンが多いオスバルド・プグリエーゼ楽団
プレイリスト内の「レクエルド(Recuerdo)」はプグリエーゼが18才の時に作曲したと言われている作品です。

「史上最高の楽団」と言われるアニバル・トロイロ楽団には、歯切れ良く心に刻まれるリズムと、美しいメロディの優雅で厚みのあるハーモニーの両方を惜しみなく楽しめる名演が数多くあります。
大編成のオルケスタ構成が多くの音を生み出すことで実現しているその魅力は、このプレイリストに入っている「ジョ・ソイ・エル・タンゴ(Yo Soy el Tango)」の躍動感ある演奏でもお分かりいただけるかと思います。

《激しく情熱的なイメージのショータンゴ曲》

ミロンガパーティーで楽しまれるサロンタンゴではなく「ステージなどで踊られるショータンゴで使われる曲」もあります。

アルゼンチンタンゴのレッスンに参加されたことがない方にとっては、こちらの曲の方がタンゴに対して抱くイメージに近いかもしれません。

今回は、1990年にサンディエゴで発表され、1997年にニューヨークのブロードウェーで上演されて一世を風靡した、世界的大ヒットのタンゴショー、フォエバー・タンゴ(Forever Tango)から、「タンゲーラ(Tanguera)」「オブリビオン(Oblivion)」という曲調の違う2曲をプレイリストに入れています。
フォエバー・タンゴは、1999年に日本でも初上演されました。

ぜひ、ショータンゴに見られるダイナミックな動きや艶やかさをイメージしながら聴いてみてください。

《今も演奏を聴くことができる最古のタンゴ曲》

1800年代の終わり頃、ブエノスアイレスの港町ボカ地区で誕生したアルゼンチンタンゴ。

現在演奏を聴くことができる最古のタンゴは、ピアノ奏者のロセンド・メンディサーバル(Rosendo Mendizábal)が1897年に作曲した「エル・エントレリアーノ(El Entreriano)」という曲だと言われています。
今回のプレイリストでは、シンプルな演奏を重視し、オデオン社の五大楽団のひとつとして1920年代後半に活躍した、オスバルド・フレセド(Osvaldo Fresedo)楽団の演奏でご紹介しています。

《対比も興味深い〜第一次黄金期を代表する二つの楽団》

1920年代後半は、アルゼンチンタンゴの第一次黄金期と言われ、数多くの才能ある音楽家が輩出されました。

オデオン社五大楽団のひとつ、フリオ・デ・カロ(Julio De Caro)楽団は、6重奏団という編成と高い演奏力で曲のハーモニーに厚みを持たせ、歯切れの良いスタッカートのリズムと流れるレガートで、“明るさと哀愁をあわせ持つようなブエノスアイレスらしさ” を表現する演奏が魅力です。
また、編曲(アレンジ)により楽団の個性を発揮するという概念を導入し、「近代タンゴの祖」と称されています。

今回のプレイリストでは、自身の作曲でもある「ボエド(Boedo)」をお楽しみください。

第一次黄金期を牽引した存在として、フリオ・デ・カロと並んで語られるのが、同じくオデオン社の五大楽団のひとつを率いたフランシスコ・カナロ(Francisco Canaro)です。
1925年にパリ公演で大成功を収め、アルゼンチンタンゴの世界的流行のきっかけとなったフランシスコ・カナロは、60年近くを第一線で活躍し「タンゴの王様」と呼ばれています。
フランシスコ・カナロ楽団は、軽快なリズムと優雅なメロディで “ブエノスアイレスの華やかな雰囲気” を醸し出し、「踊れるタンゴ」の演奏で多くの人々の心を掴みました。

プレイリスト内には「ポエマ(Poema)」と、もう一曲、1925年のフランシスコ・カナロ楽団パリ公演の大成功にあやかり、その新聞記事の見出しをそのまま題名にした、「パリのカナロ(Canaro en París)」(作曲はアレハンドロ・スカルピーノ(Alejandro Scarpino)とファン・カルダレーラ(Juan Caldarella))の2曲を収めています。

《クラブシーンにも似合うタンゴ》

最後に...
今回のプレイリストに、他のタンゴと大きくイメージが異なる曲が、一曲入っているかと思います。

先述のアストル・ピアソラは、エレクトリックギターやエレクトリックベースなどをタンゴの演奏に取り入れたことでも知られています。
1974年に「リベルタンゴ」を発表した頃には、エレクトリックサウンドを大胆に取り入れた楽団もつくっています。その楽団の評価は賛否が分かれましたが、その流れを汲んで生まれたタンゴエレクトロニコの音楽は、タンゴを踊ったことがない方も、どこかで一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

斬新でスタイリッシュ、そしてどこか妖しい旋律は、タンゴシーンでもクラブシーンでも、多くの人の心を掴み、2000年代の始まりとともに盛り上がりを見せました。

今回のプレイリストには、タンゴエレクトロニコの代表格で、フランスを拠点に活躍した「ゴタン・プロジェクト(Gotan  Project)」が2001年に発表した1stアルバム「ラ・レバンチャ・デル・タンゴ(La Revancha del Tango)」から、「サンタ・マリア(Santa Maria)」を収めました。この曲は、アメリカ版映画「Shall We Dance?(2004年)」にも登場するので、聴いたことのある方も多いかと思います。

世界的に大流行した頃に比べると、エレクトロニックな曲をタンゴシーンで耳にする機会はずいぶん減ってしまいましたが、ヌエボ(Nuevo)という新しいスタイルのタンゴは、今もレッスンやミロンガパーティーなどで根強く楽しまれています。

《今回のまとめと曲目リスト》

タンゴ音楽はとてもたくさんあるので、今回はごくごく一部のご紹介になりました。
普段タンゴを聴く機会があまり無かった方にも「一口にタンゴと言っても、いろいろなタンゴがあるんだな...」と感じていただければ嬉しいです。

お好きな雰囲気や曲調は、人それぞれお好みがあると思います。
ぜひ、皆さんのお気に入りの一曲を探してみてください!

【タンゴ音楽はじめの一歩「よりどりタンゴ」】

*時系列をイメージしやすいように、記事内に登場する順番を変えて下記リストを記載しています。
*Spotifyの無料アカウントをお持ちの方は、プレイリストはシャッフル再生されます。

《今も演奏を聴くことができる最古のタンゴ曲》
「エル・エントレリアーノ(El Entreriano)」
ーOsvaldo Fresedo y su Orquesta
(演奏のオスバルド・フレセド楽団は第一次黄金期に活躍した楽団)

《対比も興味深い〜第一次黄金期を代表する二つの楽団》
「ボエド(Boedo)」
ーJulio De Caro y su Orquesta Tipica

「ポエマ(Poema)」
「パリのカナロ(Canaro en París)」
ーFrancisco Canaro y su Orquesta Tipica

《「映画のように踊ってみたい!」人が続出の名曲》
「ポル・ウナ・カベサ(Por Una Cabeza)」
ーCarlos Gardel Y Sus Guitarras

《個性もそれぞれ〜第二次黄金期を彩った楽団》「ラ・クンパルシータ(La Cumparsita)」
「ホテル・ビクトリア(Gran Hotel Victoria)」
ーJuan D´Arienzo y su Orquesta Tipica

「バイア・ブランカ(Bahía Blanca)」
ーCarlos Di Sarli y su Orquesta Tipica

「レクエルド(Recuerdo)」
ーOsvaldo Pugliese y su Orquesta

「ジョ・ソイ・エル・タンゴ(Yo Soy el Tango)」
ーAníbal Troilo y su Orquesta

《心に迫るモダンでクールな旋律》
「アディオス・ノニーノ(Adiós Nonino)」「リベルタンゴ(Libertango)」
ーAstor Piazzolla y su quinteto

《激しく情熱的なイメージのショータンゴ曲》
「タンゲーラ(Tanguera)」
「オブリビオン(Oblivion)」
ーForever Tango

《クラブシーンにも似合うタンゴ》
「サンタ・マリア(Santa Maria)」
ーGotan  Project





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