見出し画像

2024年1と2月の日記~「授業が下手な先生ほどよく喋る」号~

1月*日
会社の顧問をしてくれている弁護士事務所の先生たちと新年会をした。
新しい女性弁護士さんが入られたので早速ご挨拶。そんな彼女の経歴が興味深かった。法科大学院を出て司法試験に合格した彼女のファーストキャリアはとある弁護士事務所。「まずは経験」と深く考えずに入ったらしいが、入職した事務所は、広告代理店が経営する弁護士事務所だったそうだ。
そもそもそういう主従関係というか、設立経緯の事務所があることを知らないので、「それは広告代理店の事業部みたいな位置づけですか?」と聞くと「そこは、そうでした」と言う。
ラジオ部、テレビ部、イベント部、みたいなものの並びに「弁護士部」があるイメージ。広告代理店の強みを活かしてゴリゴリにCMを流し依頼主を投げ網漁のように募ってくるのだと言う。類型化された案件でないと売上効率が悪いので、自ずと「過払い金」「B型肝炎」「夫の不貞」と言ったようなものになる。何を訴訟のターゲットにするかは、弁護士ではなく広告代理店側が考える。事務所の構成人数は弁護士10人に対して電話応対がメインの事務員が100人もいたとか。日々パターン化された法的処理を重ねていくだけで、莫大な利益が上がるのだという。勤務体系も極めてホワイト。それを良しとする同僚もいたらしいけれど、彼女は「ここにいると弁護士として終わる」と思い辞めたそうだ。
弁護士部を立ち上げて売上・利益を狙った広告代理店の社長さんには、同じ経営者としてちょっと感心するところはあるけれど、とても真似はできない。

1月*日
パスポートの更新がネットでできるらしい。
これは便利だ。
早速カードを片手に手続きを始めると、最後の段階でアルファベットと数字を組み合わせた第二の暗証番号を入力せよ、という画面にたどり着いた。これに覚えがない。
数字だけの暗証番号は余裕でクリアできたので油断してしまった。政府主管のものが、そんなに便利なわけがないのだ。何度か入力して間違っているうちに、「もう1回間違えたら死刑です」みたいなメッセージが出てきた。死刑になってはたまらないので暗証番号の再設定方法を検索してみたら、なんとコンビニでできると言う。
これは便利だ。
やるじゃないか政府!と思いながらいそいそとファミリーマートに出掛けてマルチコピー機から作業しようとすると、専用のアプリをダウンロードしてパスワードの「初期化予約」をしてください、と表示が出た。ちょっと意味が分からない。けれど、言われたとおりにJPKIというアプリをダウンロードして初期化予約を試みるが、「顔認証」が適合しない。何度も「お前、ニセモノだろう」と表示が出るので、ちょっと笑顔すぎたかな、とか、アップすぎたかな、とか、メガネの角度かな、とか、ファミリーマットの一角であらゆる対策を試みるも、一向にOKしてくれない。後半はコンビニで変顔にチャレンジするおじさんになっていた。やがて「もう1回間違えたら死刑です」みたいなメッセージが出てきた。二度目の死刑勧告だ。
死刑になってはたまらないので「JPKI 顔認証 できない」的なキーワードでネット検索してみたら、「宝くじに当たるくらい難しい」と皆がコメントをしていた。自慢じゃないが、年明けから一度も競馬に当たっていないぼくが、ここで宝くじに当たるわけがない。万が一にも死刑にされてはたまらないと、次の道を検索したら「営業時間内に市役所に行きましょう」と出た。なんだ、いつも通りじゃないか。
これは不便だ。

1月*日
娘が通う小学校のお父さん仲間たちと、歩いて10分のピザ屋でご飯を食べた。
夕方に父親が中心の会が主催する「豆まき&星空観察会」があったので、その打ち上げ。頑張ったから打ち上げがあるのか、打ち上げがあるから頑張るのか微妙なところだけれど、日本中の父親主催の子ども向けイベントなど、どれも同じようなものだと思う。
会社の仲間もいいが、地元の仲間は仕事がバラバラで、誰が何の仕事をしているのかなんて全く気にしないところがいい。ミュージシャンもいれば、学校の先生もいれば、エンジニアもいれば、兼業農家もいる。共通点は子どもが一緒の学校に通っていることと、この地で暮らしていること。
会を振り返り「あそこもっとこうしたら良かったな」などと、しおらしい話をしていると、小学校の先生をするお父さんが「授業が下手な先生ほどよく喋るんですよ」と言った。鬼退治ゲームのルールをもっとシンプルに伝えた方が、とか、星空の説明が長くはなかったか?といったような流れの中でのコメントだったのだけれど、ぼくの頭の中では、たちまち「経営が下手な社長ほどよく喋るんですよ」に書き換えられて暫く下を向いてしまった。

1月*日
はなはだ遅すぎるが「VIVANT」を観た。
テレビ放送時には興味を示さず、まとめ放送みたいな年末特番に食いついた妻が観て、妻の勧めでネトフリ視聴。VIVANTリレー的に言えばアンカーというわけである。
内容は多くの人が知っているのだろうけれど、主人公の堺雅人を見て、「あ、これ分かる」と思ったのが、度々登場する「もう一人の堺雅人」と会話するシーン。
弱気になった主人公を、ときに励まし、ときに抑制し、まるで人格が真逆であるかのようなもう一人の堺雅人が度々登場する。絵的には気弱な堺雅人と強気な堺雅人が話している、という風になるのだけれど、これに近いことがぼくにも20代中盤から起こるようになった。
もちろんあれほどはっきり登場するわけではないけれど、ぼくは「団さん、誰としゃべっているんですか?」と言われることが結構ある。長く一緒に仕事をするアソブロックの林は、新しく入社するメンバーに「まずは団さんの独り言に慣れるのが大事です」と笑いながらアドバイスしている。
「独り言、というわけでもないんだけどなあ」と思いながら、いつも「ずっともう一人の自分と話しているんだよ」と説明してきたのだけれど、なかなか受け入れてもらえなかった。でも今日からは違う。「VIVANT状態だ」と言えばいいのだ。ありがとうVIVANT。

2月*日
アソブロックでは長年「ホンモノメダル」という幼稚園や保育園向けのメダルをつくっている。
毎年新しいクリエイターさんに図案をお願いして、デザイナーがいくつも案を出しひとつに絞り込む。2003年に始めた。初年度のクリエイターさんは黒田正太郎さん。その後、五味太郎さん、エリック・カールさん、手塚治虫さん、加古里子さんなど、名のある方々に快く引き受けてもらい続けている。「子どもたちに特別な日に贈られる」というのは、創り手にとってもプライスレスな価値があるのだと思う。
制作の第一歩はお願いするクリエイターを決めることで、その協議の日。今年の第一候補は絵本作家の馬場のぼるさんに決まった。
このメダル作りが始まったのは、ぼくの心の師匠の一人であり、幼稚園や保育園の仕事を教えてくれた故・中島千幸さんとの会話だった。一時、毎週末のように観覧席で参加していた園の運動会。終了後に安っぽいペラペラのキャラクターメダルを首にかけられ、親が本気とは思えない言い方で「スゴイいいものもらったわね!」と子どもを褒め、子どももさほど嬉しくはないけれど園長や親の期待に応えようと「うん!」と返事をしている、というシーンが見ていて気になった。就職活動もびっくりの化かし合いがここでも繰り広げられていると二人で言い合い、それなら、本当に親が羨ましくなるような「ホンモノメダル」を作ろうじゃないか、となった。想いを形にして、ついてきてくれるお客さんがいて20年。唯一残念なのは、一緒に始めた中島千幸さんが亡くなったことだ。

2月*日
冬の楽しみといえば、なんと言ってもスキー。
明け暮れた大学時代を経て、社会人になってから20年ほどは、仕事に没頭していたので頭から飛んでいたけれど、5年ほど前から再開した。最初は家族のレジャーでと思ったけれど、以前とは道具がかなり変わっていて、ゲレンデに立つと期せずしてオールドスタイルな滑りを披露する羽目に。「これじゃあ格好がつかない」と師事する先生を見つけて、学び直すことにした。
「ワーケーション」や「リモートワーク」が常識の世の中になったことも追い風。Wi-Fiがばっちりの定宿を見つけ、早々に女将と仲良くなり、仕事環境を整えてくれるようになったので、昼までZOOM会議をした後、夕方まで滑ってまた仕事、そんなスタイルで滑走時間を稼いだ。かくして今日、大学時代に取得した資格の再取得に成功。あの頃の自分に追いつき、なんとも晴れやかな気持ちになった。私が取った資格にはもうひとつ上があって、そこが最高峰。「自分越え」を目指して、未踏の道の開拓が始まるのだ。

2月*日
ZOOMで会議をすることが増えた。進行をすることが多いので、録画を見返しながら議事録を作成する。そこで気が付くのは、思った以上に人の話を「聞けていない」という事実だ。
その場では理解したと思っているつもりだが、見返してみるとそんな浅瀬の発言ではなかったことに気付く、なんてことが度々起こる。
裏を返せば、自分が話していることも相手に伝わっているかどうかは甚だ怪しいということ。本や映画も、2回目3回目の再見で気が付けることが結構あるけれど、人との会話だって同じようなものなんだと思う。
そういえば昔、尊敬する先輩経営者の一人に、「社長の仕事は大事だと思うことを伝え続けることだ」「社員会の話は毎回同じがいい」「100万回伝えたって、ほとんど伝わっていないと思え」と言われたことを思い出す。
2時間のZOOMを見返すのは結構手間に感じるのだけれど、知っているつもりの内容だからこそ、自分の発言も含めて客観視できるという利点もあって、結構おススメです。