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23. マルティーナフランカの夜

改札を出ると、暗い中見えるのは小さな街。それに坂道、長めの緩い傾斜の。ホテルまで歩けないことはなさそうだが、もうタクシーにしたい。でも、乗り場がない。改札に戻って聞こう。すると、もうシャッターが閉まっている。デジャヴ!いや、まだ駅員はいるはず。何度か呼ぶと出てきてくれた。助かった。タクシーは呼ばないとね!と電話番号を書いてもらうと、駅員達は速攻で帰路に。

成田で契約した海外対応の携帯を使って連絡すると、すぐに行くと言われたのだが、人が通らない道で待っている時間は長く感じられた。来たのはメーターのない車。これは白タク?しかし、この状況で断るのは名案ではないと思い、ホテルまでお願いする。運転手は若い男性。街にタクシーはなくて親戚の子に頼んだとか、ならば間もなく食事だったのではと想像しているうちに、ホテルに到着。30000リラ、交渉する気力は失せていた。余計なことは考えない方がいい。

中心部の旧市街地は駅から離れている

ホテルは小さな街の割には4つ星で、バスタブもある。チェックインすると疲れが一気に出そうに。いつも到着直後に撮る部屋の写真は今は撮れない。とにかくカメラを買うのだ。コンシェルジュで店の場所を教えてもらい、閉まる前にと慌てて出かけた。

道に迷わずに到着できたが、店の前で固まってしまった。ビビットな赤や黒の大胆なレースの女性用下着上下がディスプレイされている。ここで合ってるはず?中に入ってみると、陳列された艶やかな下着の向こうから長身で目鼻立ちくっきりの華やかな黒髪女性が挨拶してくれた。カメラありますか?と言うと、誰かを呼ぶなり奥に下がっていった。代わりに小柄なおじさんが登場。ちょっとお茶の水博士に似ている。ご夫婦のようだ。

満面笑みのおじさんはレジ横にこじんまりと置かれている商品を取り出した。FUJIFILMのフィルム24枚と写ルンです!とりあえず、よかった。さすが、FUJIFILMは世界規模。写ルンですを1つください。代金の18000リラを財布から出すと、おじさんは商品のパッケージを開け、これはね、こうやって使うんだよ!と説明しながら、私たちを撮影した。簡単でしょ?愛嬌たっぷりのおじさんのペースにのまれてしまったが、店内の華やかな下着とフィルムの勢力図から、はしゃぎ気味のおじさんにこの驚きを伝えることはできなかった。

すると、Buona sera!と次のお客さんが入ってきた。男女のペアだ。すぐに奥様が現れて、2人にあれやこれや下着を勧めだした。パンでも買うかのように男性も一緒に来て、しかもコッチがいいと意見していることに衝撃を受けた。さきほどの驚きは吹っ飛び、ありがとうと伝えて店を出た。違うものだ。

小さな街だから使い捨てカメラが買えただけで御の字。コンパクトカメラは再度バーリに行ったら探そう。

街はのんびりした様子で、夜でも治安がよさそう。何組か客が入っている小さなトラットリアに入った。厨房では母、ホールでは父と息子が働いている。中学生くらい。すごく整った顔立ち、真面目でニコリともしないが、親しみやすい感じ。イタリアに来てから見かける10代男子を思い返すと、少年アイドル産業は成り立たないだろうなと想像する。

飲み物は「ハウスワイン」の赤を頼んだ。これは本当に自家製ということ。日本はお酒は免許がないと作れないが、イタリアでは大丈夫と聞く。渋みはなく、適度に濃さもあり、若いけれど香りもなかなか。プリミティーボ (primitivo)という、この地域のワインだと思う。

座るなりサーブされる「つきだし」のコペルト(coperto)は、パンの他に指輪型のクラッカーも籠に入っていた。タラッリ(単tarallo/複taralli)という、このプーリア地方の食べもの。左上の皿の上に1つ、後方に袋入り。どちらもおいしい。本当に粉ものはどれもおいしい。

アンティパストはブュッフェではなく6皿出てきた。この皿数を噂には聞いていたが、食べ切れるだろうか。このうち一部の料理はハズレだったが、キノコやアーティーチョーク、ナスなどの野菜のグリル、マリネ、ピクルスは素材の味の濃さに目を剥きつつ食べた。サラミや生ハムもフレッシュチーズも本当に美味しい。

プリモは、耳たぶという意味のオレキエッテ(orecchiette)のトマトソース。もちもち!手打ちだと思う。パスタもトマトも味が濃い。

セコンドはおすすめの羊のロースト(agnello arrosto)。血も入れた濃厚なソーセージが付いてきた。地域料理を習った際、羊や豚を捌くときは血もバケツで受けて料理に使うとは聞いていたが、実際に食べられるとは!どちらも味わい深く、お腹が苦しくてもワインと共についつい食べてしまう。デザートには到達できず。やはり最初の6皿が効いた。これだけ食べて64000リラ。これにチップを足して70000リラお渡し(3500円位)。ごちそうさま。

薄暗い店内で使い捨てカメラでも映せたのはありがたい


ホテルに戻ったら、部屋の写真を撮るのをすっかり忘れてしまい、風呂に入るなどした後、溶けるように寝た。

帰国して現像した写真には、驚きながらも笑っている自分たちが映っていた。おじさんとも一緒に撮ればよかったね。

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パークホテルサンミケーレ

小さな街の割に、なかなか大きなホテルです。
広い庭でのんびりする時間が取れなかったのですが、ゆったり休むのにいい感じ。

たくさん歩くので、バスタブで疲れを取れるのは助かります。ベッドも問題なく心地よく寝ました。当時、旅行ブログで朝食がおいしかったと読んだのも、ここを選んだ理由でした。

ホテルのサイトより

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タラッリ
北で食べられているスティック状のグリッシーニに似ているのですが、白ワインを使うので、食べると違いがあります。今は日本でも買えます!

EATALYでも何種類か味がありますが、一般的にはおそらくプレーン、セサミ、アーリオーリエ(ニンニクと唐辛子)、ハーブ入りが伝統的な印象です。タラッリーニとは、小さなタラッリのこと。

最近は輸入食材店にタラッリがあることも多いです。この製品は食べたことはないのですが、アマゾンにもあるのですね。

プーリアの粉はおいしいので、どれか気になったら、試してみてください😋


最近気に入っているプリミティーボは、アメリカのもの。国が変わると、ジンファデルという品種名になるそうです。クセがあまりなくて飲みやすいタイプです。

一緒に旅をしているような気持ちになっていただけたら、うれしいです。 または、次の旅の計画のご参考になれば。