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だいすきなものの話 #1 「SASO」

バブル期真っ只中が青春時代だったうちの母は、オシャレさんではあるもののそこまでコスメや香水に対してこだわりはない人だ。まだ私が小学生の頃、授業参観の時もだいたいいつも同じ香りを纏っていた(いまだによく見かけるメンズ向けの香水で、クールな服装を好む彼女には似合っているので、別段「たまには変えてみたら?」と思ったこともない。)

そんな彼女が妙によく記憶しており、何度も言及している香りがある。「SASO」という香水だ。漢字にして、「沙棗」と書く。当時はシャンプーやコンディショナーのようなヘアケアのラインもあり、とても気に入っていたらしい。

少し調べてみると、どうやら「沙棗」というのは中国・ウイグルの砂漠に咲くお花のことであるようだ。遠い昔の清の時代、ウイグルの王妃だった「香妃」という絶世の美しさをもつ女性が、この花に例えられる良い香りを発していたという伝説がある…という。母は、この伝説にエキゾチックな魅力を感じたのがキッカケでこの商品に手を伸ばしたという。

発売は1980年代であり、もちろん当時のことは私自身の記憶にはないためネットで調べた情報を点つなぎに辿ってみただけであるが、「敦煌」という映画で、ウイグルの王女の役(香妃と関わりがあるのかないのかはよくわかりませんでした。また映画を観てみます)を演じた中川安奈さんがSASOの広告モデルを務めていたらしい。母に中川さんのことを聞いたところ「彼女のことはよく覚えてる。綺麗で雰囲気のある素敵な女優さん」と言っている。

正直、ここまでの一連の情報を集めただけで、私はこのSASOが大好きになってしまった!嗅いだこともないのに!!そんなことある?あるんですねぇ。自分でも驚きました。だって…なんですか、この美しすぎる世界観!お話聞いてるだけでなんだか美術館でひとつの芸術作品を眺めているような気持ちになりますよ。

でもここまできたら実物を香ってみたくなってしまうわけですよ。そりゃ…そうよね!?

というわけで私は、アルバイト代を握りしめてあらゆる化粧品コーナーを探し回った。ネットで買っても良かったんだけど、実物の香りがあまりにも自分に似合わなかったらさすがに安いものではないし(当時まだ学生)、香水を買いに行くのはたぶんこれが初めてだった。できれば店員さんとお話ししながらテスターで試してからが安心かなと思って。

探検はかなり難航した。当時はまだ辛うじて生産終了にはなっていなかったけど、あってもタンタトゥリスやウィア(この探検がきっかけで見つけたこちらも、私の忘れられない香水になりました。またいつか語ります。)、なぜかSASOだけはなかなか見つからず、偶々別の用事があって初めて訪れた町の化粧品屋さんで運良くめぐり会うまで10〜20軒くらいは走り回ったように思う。

印象としては、可愛いではなくキレイ。凛とした大人の女性のイメージで、どちらかと言うと和装に合いそうな香りだった。石鹸の香りにも似た淡い色の花のブーケのなかに、意志の強さが覗いてるような感じ。それでいて気取らない艶っぽさがある。音楽でいうなら、中田裕二さんの「薄紅」がぴったりな気がする。

とても素敵だったので、迷わず購入した。ただ、私にはまだ似合わない気がした。もう少し、歳を重ねたほうが美しく香るだろう。そんな気がした。

もちろんすぐに母に報告し、共有することに決めて一緒に瓶の開封の儀(?)を行った。うん十年ぶりにSASOと再会の彼女、意外にもひとこと目は「あっ、こんな香りだったかな!?そうだったかも。でもちょっと変わったのかも?」私も後から知ったんだが、香水というのは発売から年月が経つと、同じ名前の商品でもリニューアルなどで香りが変わったりすることがあるらしい。このSASOがそれに当たるかはもちろん不明だが。もしくは、母自身の記憶が数十年の中で熟成されてきて、少しずつ香りの思い出も変化していったのかもしれない。

それも含めて、とても楽しい探検だった。このSASOは、私にとって自分で購入したファーストフレグランスとして記憶に強く刻まれている。あれからまた年月が経ったが、私は凛とした大人になれているだろうか。いや、きっとまだまだだと思う。でもあの頃よりは、背伸びしなくてもいいはず。そろそろあの子を引っ張り出してみようかな。

※リアルタイムドンピシャではないために、調べたり人伝てに聞いた話でしか発売当初の情報や雰囲気を知る手立てがありません。もし、ご愛用されていた方、いらっしゃいましたら、詳しいお話や思い出話を教えていただけますとうれしいです。60〜90's位の時代のファッションブランドや音楽、コスメにまつわる思い出話を聞くのが大好きなので…。よろしくお願いいたします!