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アイロンがけは誰のためにするのか

「ワイシャツのアイロンがけは、夫のためではなく、自分のためにするの」。主婦の鑑のような彼女から放たれたひとことに度肝を抜かれた。完璧な主婦に見える彼女は、何も夫のために尽くしているのではない。流行りの服も、丁寧に整えられた髪型も、子どもの教育も、愛する夫や子どものためではない。すべては家族越しに見える自分のためなのだ。

家族のフィルター越しに存在する自分

「だって、いい加減な奥さんだと思われるの、嫌じゃない?」と彼女は続けた。結婚してから今に至るまで、いい大人なんだから自分のことは自分でしましょうという都合のいいキャンペーンを常に掲げ、ノンアイロンのワイシャツばかりを常備している私には全く理解できない考えだった。私の夫は、私のことをいかに自由奔放で家事が嫌いなのかを躊躇なく会社の同僚に伝えてしまうような人だ。

「アイロンを自分のためにする」という主婦業に専念している彼女は、夫のフィルター越しに見える自分をいつも意識している。子どものフィルター越しに見える自分もしかり。夫の同僚に、ママ友に、先生に、一体自分はどう見えているか。いい妻であるか、いいお母さんなのか。

私にも心当たりがないことはない。私は専業主婦と兼業主婦を行ったり来たりしている自称ハイブリッド主婦だ。確かに、仕事から遠ざかれば遠ざかるほど、確実に自分というアイデンティティは薄まる。◯◯ちゃんのお母さん、〇〇さんの奥さん。私という存在は何なのか。一体何者だったのか。私はどこにいったのかーー。

輝かしい経歴を持ち、容姿端麗の彼女は、恐らく独身時代にしゃかりきセルフブランディングを行い成功してきた。今のブランディング対象はそう、家族なのだ。夫に子ども、全て合わせて私という存在。そこに、独立した彼女は存在しない。例えば、彼女だけぽつんと切り離されてしまったら、裸の王様状態になってしまう。そう思っているのだろう。

専業主婦として輝け

なぜ、専業主婦という武器だけではだめなのか。それは専業主婦にスキが見つかれば攻撃してくる人たちがいるからではないか。実際にいたからではないか。いや、社会の声がそうじゃないか。

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結婚したり出産したりする過程で、誰かのために毎日を過ごす自分を経験したものだけが心の奥底に秘めている。本当は、夫のフィルター越しではなくても、子どもを通さなくても、十分だということを。自分は自分のままでいいのだ。家事や育児を毎日頑張っている彼女はそれだけで素敵なのだから。

夫のためにアイロンできなかった日は、一日くらい駄目な妻の烙印を押されてもいい。もっと自分を褒めてあげよう。

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