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聴覚情報処理障害の主な症状と現在の取り組み

聴覚には問題がないのに、言われたことを聞き取れない場合、聴覚情報処理障害を患っている可能性があります。
 
聴覚情報処理障害になると、日常生活にさまざまな支障をきたす原因になるため、適切な診断と治療が必要です。
 
今回は、聴覚情報処理障害の概要や、近年の取り組みや研究などについて解説します。

聴覚情報処理障害とは、聞こえているのに聞き取れない障害のこと

聴覚情報処理障害とは、聴力に異常はないのに、聞いた音を脳で処理しづらい障害のことです。
私たち人間の耳は、まず外耳で音を拾って鼓膜に伝え、中耳で増幅させた後、内耳で電気信号に変換します。
その電気信号を聴神経が脳に伝え、視床と呼ばれる場所で音の種類を選別してから聴覚野に届けることで、はじめて音として認識される仕組みになっています。
聴覚情報処理障害の場合、外耳や中耳、内耳の機能に問題はないのですが、拾った音の聴覚情報を処理する中枢神経に何らかの異常があり、聞こえた音を情報として処理することができません。
その結果、音は聞こえているのに聞き取れないという障害が生じます。
聴覚情報処理障害の国内患者数は推定240万人(人口の約2%)と言われていますが、世間に認知されるようになったのはここ最近のことです。
[注1]シグニア「聞こえているけど聞き取れない?聴覚情報処理障害(APD)とは

聴覚情報処理障害は聴力そのものに問題がないため、一般的な聴力検査では異常が見当たらず、症状に気づきながらも原因がわからずに苦しんでいる人も少なくないようです。

聴覚情報処理障害の主な症状

聴覚情報処理障害になると、日常生活で以下のような症状を感じやすくなります。
 
●      他者から言われたことを聞き返したり、聞き間違えたりすることが多い
●      長い話を理解しづらい
●      雑音やBGMがあるところで話の内容を聞き取りづらい
●      口頭で言われたことを忘れる、理解できないことが多い
 
難聴と共通する症状もありますが、決定的な違いは聴力検査をしても異常が発見されないところです。
聴覚情報処理障害の検査を受けないと、異常なしと診断されるか、あるいは難聴の一種とみなされることがあります。
難聴と聴覚情報処理障害は根本的な原因が大きく異なるため、聴覚情報処理障害と正しく診断されないと、適切な治療を受けられなくなるおそれがあります。

聴覚情報処理障害に関する発表や取り組み

聴覚情報処理障害は、2005年に米国言語聴覚学会において定義されたばかりの障害です。
そのため、原因の特定や治療法などはまだまだ確立されておらず、世界中で研究や取り組みが進められています。
ここでは、聴覚情報処理障害に関する近年の発表や取り組みの例を2つご紹介します。

聴覚情報処理障害児を対象とした聴覚訓練プログラムの開発

川崎医療福祉大学では、2018年から聴覚情報処理障害を抱えた子どもを対象とした聴覚訓練プログラムの開発を行っています。
当該プログラムと、聴覚情報処理能力を評価する聴覚情報処理機能検査(AP-Test)の2つによって構成された、聴覚情報処理機能訓練アプリ(訓練用アプリ)は、聴覚情報障害を持つ子どもの早期発見、早期対策への効果に期待が寄せられています。
 
参考:公益財団法人カシオ科学振興財団「APD(聴覚情報処理障害)に対する教育支援法の実証的臨床研究」

聴覚情報処理障害の診断基準を確立するための研究

聴覚情報処理障害は、国外での研究は進んでいるものの、国内ではまだ実態が不明な点が多いのが現状です。
そこで大阪市立大学が中心となり、国内における聴覚情報処理障害の実態を把握するための研究が実施されています。
[注2]大阪市立大学「聴覚情報処理障害臨床の実態把握に関する研究

具体的には、聴覚情報処理障害の診断を実施している、あるいは患者と関連のある複数の施設から臨床データを収集し、そのデータを解析します。
この研究により、聴覚情報処理障害の診断基準の確立と、患者に寄り添う支援方法の考案が期待されています。

【まとめ】聴覚情報処理障害への理解を深め、早期対策を

聴覚情報処理障害は、2000年に入ってようやく定義された障害です。
海外では研究が進んでいますが、国内で認知されるようになったのはつい最近のことで、有効な診断基準や治療法はまだ確立されていません。
ただ、国内でも聴覚情報処理障害への取り組みは進められているため、今後の動向を注意深く見守り、早期発見・早期対策に努めていくことが大切です。

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