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シズライフ 第3話

〇 介護施設・室内 (AM9:00)

若シズ: 中村シズです。皆さん、よろしくお願いします!

-若シズ・深々とお辞儀をする。

長谷川(63): シズさんは週3日勤務してくれます。皆さん、仲良くしてくださいね。

-職員から拍手と歓声があがる。
-朝礼が終了し、若シズ、健一、長谷川、瞳が集まる。

長谷川: では、シズさん。今日からよろしくお願いします。
健一(20): あの、あんまり期待しないでくださいね。
長谷川: 中村君、私の勘ですが、シズさんはこの仕事とても合ってると思いますよ。指導係は瞳さんにお願いします。
瞳(23): よろしくお願いします、シズさん。
若シズ: こちらこそよろしくお願いします、瞳さん


〇施設・通路

-若シズと瞳は並んで歩いている。

瞳: えっ?シズさんと中村君は従妹なんですか?
若シズ: ええ、そうよ。

<回想>
茜: 若いおばあちゃんは、私達の従妹。普段は海外に住んでいて、うちにホームステイに来ている。この設定忘れないでね。

若シズ: 私は普段海外に住んでいて、あの子の家にホームステイをしてるの。ホームステイって分かる?
瞳: そうだったんですか!! 同じ苗字だから親戚かなって思ったんですけど!

-瞳・嬉しそうな顔。

瞳: シズさんは、普段、海外のどちらに住んでるんですか?
若シズ: えっ?

〇介護施設・浴室前

瞳: では、これから利用者さんをお風呂に入れます。その時、利用者さんの自尊心を大事にしてください。自分でできないというのは、とても辛い事なんです。
若シズ: その気持ちとても分かります。


〇浴室内

-若シズと瞳・裸の利用者を二人で持ち上げ、利用者を浴槽にいれる。
-利用者は口を開けて、ボーっと遠くを見ている。

瞳: シズさん、手元にあるボタンを押して、背もたれを倒してもらえますか。肩までお湯に浸かれるようにします。
若シズ: これね。

-若シズ・ボタンを押す。静かな音を立てて、浴槽の背もたれが倒れていく。

瞳: そろそろ止めてもらえますか?

-間

瞳: シズさん、もう大丈夫です。
若シズ: あのっ!
瞳: シズさんっ!?
若シズ: これ、どうやって止めるの?

-若シズ・焦りながらストップボタンを探す。

瞳: もう一度同じボタンを押せばいいんです!
若シズ : 同じボタン!?

-若シズ・ボタンを押すと背もたれが停止する。利用者の顔だけお湯から出ている。

テロップ: 30分後

〇浴室の前

-一人目の入浴を終え、若シズと瞳は浴室の前に立っている。
-若シズ・しょんぼりしている。

瞳: 大丈夫ですよ、はじめから完璧な人なんていません。その後、ちゃんとできたじゃないですか。凄く良かったですよ。
若シズ: ごめんなさい、気を付けます。
瞳: さあ、どんどんやりましょ!

-若シズと瞳は次々と入浴業務をこなしていく。
-若シズ・業務の合間にファブリーズを脇に吹きかける。

テロップ: 昼休み

〇施設近くの公園 13:00頃(晴天)

-若シズ/健一/瞳・芝生にビニールシートを敷いて、弁当を広げている。

瞳: すみません、お昼ご飯誘っていただいて。
若シズ: 何言ってるの?皆で食べた方が美味しいじゃない。
健一: あの、この人大丈夫でしたか?
瞳: ちゃんと、声がけもできてて、凄く良かったよ。
若シズ: 瞳さんのおかげね。ほら食べて。

-瞳・卵焼きを食べる。

瞳: わあ、甘くておいしい!
若シズ: お口に合って良かった。たくさん食べてね。

-若シズ・弁当の蓋を皿におかずをのせて、瞳の前に置く。

瞳: ありがとうございます!ほんとに美味しいです!

-瞳・笑顔で美味しそうに食べる。
-若シズ/健一・その姿を見て笑みがこぼれる。

健一: 及川さんのイメージ、ちょっと変わった。
瞳: えっ?どういうこと?
健一: 仕事してる姿しか見てないから、今みたいな表情は初めて見た。
瞳: わ、私ってどう見られてるの?
健一: 真面目で一生懸命?あと、俺の事ちょっと苦手かなって。
瞳: なんで!?そんな事ない!!

-若シズ・二人のやり取りを口と手を動かしながら見ている。

健一: いや、及川さん、いつも俺と目を合わせないよね。要件伝えたらすぐどっか行くし。
瞳: それは、その。あの、中村君、これから私の事、苗字じゃなくて、他の人みたいに名前で呼んでくれる?ほら、利用者さんに及川さんっているでしょ。混乱しちゃうから。
健一: なんか話変わってない?
瞳: ご、ごめん。何言ってんだろ、私。
若シズ: じゃあ健一って呼んでくれる?
健一: なーんで入ってきた!
若シズ: 貴方はこれから瞳さんって呼びなさい。瞳さんもこの子を名前で呼んであげて。
瞳: は、はい。

〇 施設・大部屋 (14:30)

-若シズ・健一、瞳、長谷川、他の職員と共に、利用者とレクリエーションをしている。
-車いすの女性が、皆の輪から離れ、不機嫌そうな表情をしている。
-長谷川・その女性に歩み寄る。

長谷川: 加藤さん、こちらに来て皆で遊びませんか?
加藤(88): こんな子供みたいな遊び、誰がやると思うの?
長谷川: これは体を動かす運動でもあるんですよ。
加藤: やらないって言ってるでしょ!! 皆で私を馬鹿にして! 私は三越の日本橋本館で働いてたの。紳士服売り場で、立派な仕事を任せられてた! 主人がいなくなってから、女手一つで子供達を育ててきたのよ! それなのにこんな場所に入れられて!

-加藤・声を荒げ、全員が加藤に注目する。

若シズ: えっ、三越本館で働いてたんですか?

-若シズ・驚いた表情で声をあげる。

若シズ: しかもお洋服売り場といったら、花形のお仕事。女性でそんなお仕事ができるなんて凄い!!
加藤: そう! そうなの! たくさんのお洋服を売ったわ。会社にも表彰されて、パリの視察にも同行したの。パリの人達は皆お洒落でとても素敵だった。私もたくさんお洒落して、エッフェル塔にも登ったの。
若シズ: あの頃、皆、パリに憧れてた。なんて羨ましい!
瞳: シズさん? 
加藤: でも、もう昔の話。今は歩く事すらできない。どうせなら、認知症にでもなってすべてを忘れたかったわ。もう生きてる意味なんてない。
長谷川: 加藤さん、そんなこと言ったらだめですよ。ご家族の方も・・・、

-若シズ・長谷川を手で制する。加藤の前に膝立ちになり、目線を合わせる。

若シズ: ねえ、加藤さん、実は私の祖母は余命宣告をされて、もう長くないの。
加藤: えっ?

-皆、若シズの言葉にどよめく。

若シズ: 祖母が自分の寿命を知った時、とても怖がっていた。でも、そのあと、祖母に思い浮かんだのは、長い人生で経験した楽しかった出来事だった。最後にまたあんな気持ちになりたいって思ったの。だから、祖母は最後まで自分の好きなように生きようって決めた.
そうしたら、この先起きる事にワクワクしてきたの。きっと、加藤さんにも楽しかった出来事がたくさんあるでしょう。
加藤: 楽しかった事・・・。
若シズ: そう、楽しかった事! 貴方はそれを思い出すことができる。 貴方が望めば、これからもそんな出来事に出会えるのよ!

-加藤・過去の記憶が蘇る。初孫の誕生、家族との団欒、仕事での表彰、パリで過ごした日、子供の出産、結婚式。

若シズ: これから加藤さんが何をしたいのか、一緒に考えてみない?

加藤: 私、私は・・・

-加藤・旦那の笑顔が浮かぶ。すると、その顔が粉々に弾け飛び、加藤の目に強い力が宿る。

加藤: 私は、旦那の墓の前で言ってやりたい! あんたはよそで女を作って、私達を捨てた最低な男! 先に死んでざまあみろ!! 私はこれからも生きて、あんたより良い人生を送ってやる!!! バーカ!!

-若シズ・少し驚いた表情するも、二人は顔を見合わせ大笑いをする。

若シズ:  それ最高!それ絶対やりましょう!
加藤: あー、なんだかすっきりしたわ。
長谷川: 加藤さん、私達は加藤さんの味方です!これから少しずつでいいので話を聞かせてください。
瞳: 加藤さんには、今みたいにもっともっと、たくさん笑ってもらいたいです。

-職員達が加藤を囲み、それぞれ声をかける。
-健一・若シズの横に立つ。

健一: ・・・・
若シズ: 彼女は私よ。
瞳: あの、シズさん。今の話、お二人のおばあちゃんの事ですか?
若シズ: いえ、今のは父方のおばあちゃんの話。健一のおばあちゃんではないわ。
瞳: そうですか。上手く言えないけどとても凄い人だと思いました。
若シズ: ありがとう。その言葉伝えておくわ。

〇介護施設・通路 16:00頃

-若シズ・荷物を乗せた台車を押している。
-死神・若シズの横にいる。

若シズ: こんなに動けるなんて、私って結構体力あるのね。そう思わない?
死神: それは何よりだ。その分お前の寿命は短くなる。
若シズ: 嫌な言い方ね。私が死んだら、貴方やる事なくなるじゃない。

-若シズの向かいから、長谷川と若い男が歩いて来る。

長谷川: お疲れ様です、シズさん。こちらの方は入居を検討されているご家族の方です。
若い男: こんにちは。
若シズ: こんにちは。
若い男: ここは良い施設ですね。
若シズ: はい、そう思います。
若い男: 介護は大変なお仕事ですよね。頑張ってください。
若シズ: はい、ありがとうございます!
長谷川: では、行きましょうか。シズさん、失礼します。

-若シズ・若い男ととすれ違う際、その背後に、黒服を着た人物を目にする。驚いて振り返ると、黒服の人物は消えている。長谷川と若い男はそのまま歩き去る。

若シズ: ねえ、死神。今の見た?あれって・・・死神

-若シズ・横にいる死神を見つめる。

死神: さあな。

〇施設内・通路

-若い男が長谷川の後ろを歩いている。若い男の口元がアップになる。
男の口角があがり、にやりと笑っている

シズの寿命、残り「169日」


第1話 https://note.com/daisy301/n/n4b4002a877f6

第2話 https://note.com/daisy301/n/n3b19c3398a04


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