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シズライフ 第1話

あらすじ
中村シズ(83)の前に、突如、死神が現れ、自分の寿命は残り180日である事を告げられる。一方で、シズには「若返り」という特殊な能力”ギフト”を与えられる。能力の代償は、使うほどに寿命が短くなる事。シズはただ死を恐れるよりも、その力で自分の夢を実現する事を決める。シズは、死神の存在を知る孫の健一、茜と共に、様々な人達と出会っていく。やがて、己の人生を生き抜くシズの姿は、周囲に様々な影響を与えていく。

そして、最後の時が来る。死神が光の粒となり、シズの中に入って行く。

「その日、突如、祖母の前に死神が現れた。その出会いは、これから起きる、奇跡の様な日々の始まりだった。」

本編
1.  死神

〇 暗闇
-何も見えない暗闇。周囲には風が吹き荒れるような轟音が響く。

中村シズ(83):(心の声)ここはどこ?

-しばらくすると轟音が静まる・静寂が訪れる

男の声: 武蔵野やさはるものなき君が傘 (むさしのや さはるものなき きみがかさ)

-暗闇の中から声が聞こえる

シズ: ・・・誰?
男の声: ・・・・
シズ: 誰なの?
男の声: ・・・分かっているだろう?
シズ: えっ?
男の声: お前は分かっているだろう、中村シズ。
シズ: 私が分かっている? 何を言ってるの?
男の声: 今お前に迫っているものはなんだ?それは、お前のすぐ近くにあるものだ。
シズ: 近くにあるもの・・・、それは。
男の声: そうだ。その通りだ。
シズ: ・・・
男の声: 私は・・、「死」だ。


〇シズの部屋 (朝)

-シズ・目が覚める。布団に横になり、天井を見つめている。体を起こし、目をこすると涙が流れていた痕がある。

シズ: ・・・夢?

-外からは鳥のさえずりが聞こえる。
-シズ・83歳、銀髪、顔や手には深い皺、柔和な雰囲気、背中はやや丸まっている。身長152cm程。
-シズ・背後に強い気配を感じる。

シズ:(心の中で)何かいる?

-シズ・ゆっくりと後ろを振り向く。
-死神(男)・シズの方を向いて立っている。黒い中折れ帽、サングラス、黒いスーツ、黒い革靴、年齢不詳、細身。身長180cm程。

シズ: ヒッッ!!!

-シズ・布団から飛び起き、そのまま後ずさりする。

死神: 私はこの時を待っていた、中村シズ 。

-死神・うっすらと笑みを浮かべシズに近づいて来る。
-シズ・壁の端まで追い詰められ、床の間に置いてあった木刀を手に取り構える。

シズ: これ以上近づかないで!

-死神・動きを止める。
-シズ・木刀の剣先を死神に向け、つま先に力を入れ、臨戦態勢に入る。

シズ: あなたは「死」、・・・死神?
死神: そう、私は「死」だ。
シズ: 私は死ぬの?
死神: ああ、お前は死ぬ。だが今すぐではない。お前の寿命は180日だ。
シズ: 180日?
死神: そして、お前には特別な”ギフト”が与えられる。お前は選ばれた、さあ私に触れるんだ。
シズ: ちょっと待って! 何の事かさっぱり分からない。
死神: 触れれば分かる。さあ、早くしろ。
シズ: そんな急に言われても。

-シズ・躊躇しながらも死神の肩に触れる。

シズ: あ、あーーー!

-シズ・体が熱く火照りだし、体の周囲からエネルギーのようなものが溢れる。銀髪の髪が黒く染まり、顔や手の皺が無くなっていく。体の異変がおさまると、確かめるように自分の手を見つめる。

若シズ: えっ、わ、私、 どうなってるの?

-若シズ・棚にある手鏡を手に取り、自分の顔を確認する。見た目は20代、整った顔立ちの美人。身長171cm。手足が長くスラッとした体型。

若シズ: この顔・・、私は若返ったの?
死神: そうだ、お前は若返った。これが”ギフト”だ。どうだ、生まれ変わった気分だろう。体も動くし、意識もはっきりしている。

-若シズ・手足を伸ばし自分の体の動きを確認する。

若シズ: 信じられない。体が軽いし、関節痛もない。
死神: だが、伝えておくことがある。その姿になると細胞が活性化し、生命エネルギーを多く消耗する。つまり、寿命が短くなるのだ。
若シズ: 若返ると寿命が短くなる?
死神: そうだ。その姿で1時間過ごすと、寿命は4時間短くなる。6時間過ごすと1日、24時間過ごすと4日短くなる
若シズ: そんなに!?
死神: 悪い話ではない。最近のお前は、物忘れが激しく、体も自由に動かなくなっている。このまま1ヶ月もすれば自我を失い死を待つだけだ。お前が一番恐れている事だろう。
若シズ: ・・・この力を使えばそうならないって事?

-死神・ニヤリと笑う
-若シズ・死神の反応を見て覚悟を決めた表情になる。

<少しの間>

若シズ: えっ?ちょっと待って!

-若シズ・急に怪訝な表情をする。体の匂いを嗅ぎだす。脇の匂いを嗅ぐと、目を見開き、死神を見つめる。

死神: 臭いか?
若シズ: とっても臭い
死神: 私に触れたからだ。
若シズ: 貴方に触れると臭くなるの?
死神: お前の体には寿命を消耗するほどの大量の生命エネルギーが流れている。体内で抑えきれないエネルギーが脇から漏れているのだ。
若シズ: 私のエネルギーってこんな臭いの?
死神: 安心しろ。元の姿に戻れば、臭いは、じきおさまる。

<コンコン>
-ドアをノックする音

中村健一: ばあちゃん、朝飯だよ!
若シズ: あっ、もうこんな時間。孫の健一よ。 ちょっと死神、あなたどこかに隠れて。
死神: 他の人間に私の姿は見えないが、・・・まあいいだろう。

-死神・その場でスッと姿を消す。

若シズ: 消えた!?

-健一・入れ替わりで部屋に入ってくる。
-健一・20歳、髪を茶色に染め、左耳にピアス。身長178cm。やせ型。

健一: ばあちゃん、何やってんだよ・・・
若シズ: あ、おはよう、健ちゃん。
健一: ・・・?

-健一・若シズを見て固まる。

若シズ: ごめんね、ちょっと寝坊したちゃった。今すぐ行くね。
健一: ・・・誰?
若シズ: えっ?
健一: 誰だよ? ・・ばあちゃんの知り合い? なんでばあちゃんの服着てんの?
若シズ: あ!! 待って、健ちゃん。これには事情があって、話を聞いて!
健一: おい、誰だよ、あんた! うちのばあちゃんどこいった?
若シズ: あの、なんて説明すればいいか・・・。あ、死神、ちょっと出てきて!

-死神がスッと姿を現す。

死神: なんだ?
健一: うおっ!? 何か出てきた?
若シズ: えっ、ちょっと待って。あなたこの人が見えるの?
健一: 当たり前だろ!何言ってんだ?
若シズ: (死神に向けて)ねえ、どういうこと。あなたの姿は私にしか見えないのでしょう?本当に死神なの?
死神: この男はお前の血族だ。恐らく、お前と感性が近いのだろう
若シズ: そんな適当な感じなの? それより、早く元の姿に戻して。
死神: もう一度私に触れるんだ。

-若シズ・死神の肩に触れる。急に体が冷たくなりうずくまる。髪が銀髪になり、体が縮み、背中も丸くなる。体に深い皺ができる。
-健一・驚愕の表情で立ち尽くしている。

健一: はあーーーーーッ!!! ばあちゃん?ばあちゃんだよな? ばあちゃん、今どっから出てきた?
シズ: あのね、さっきの若い人は私なの。

-健一・シズの両肩を掴み、マジマジとシズの体を見つめる。

健一: さっきの女ってほんとに・・・、ん?

-健一・シズの頭や首、肩、脇の順に臭いを嗅ぐ。

健一: クサッッ!! クサッッ!! ウソだろ、なんだこの臭い、クサッッ!!
シズ: そ、そんなに臭いかしら?
健一: これ、人間から出ていい臭いじゃない!! 俺、もうなんか・・・うっぷ。

-健一・吐き気を催し、口を押ええずきだす。

シズ: 臭いは、じきに消えるから我慢して。今朝突然この人が現れて、私は若返ったの。
健一: はあ?
死神: 私は死だ。
健一: 何言ってんだ、こいつ。
シズ: 健一、この人が言ってる事は本当よ。本物の死神なの。
健一: ばあちゃん、この世に死神なんかいねえよ。そいつただの不法侵入者だよ! やべえ奴だよ!
死神: お前の知る世界がすべてではない。

<死神は天井に逆さまに立っている>

健一: うぉっ!!、マジか?
シズ: わあ、凄い!ねっ、死神でしょ?
健一: こいつ何なんだよ・・・。
死神: 私はお前の祖母を迎えに来たんだ
シズ: 私から話すわ。私の寿命はあと180日なの。だからこうして死神が迎えに来たの。
健一: はあ?それマジで言ってんの?
シズ: マジよ。
健一:  ばあちゃん、ついにボケたんか・・・?
死神: 鈍い奴だ。お前の祖母はすぐに自分の死を受入れたぞ。

-死神・知らぬ間に健一の隣に立っている。

死神: お前の祖母は死ぬ。
健一: ああっ?(怒)

-健一・死神の胸倉をつかむ

健一: お前ふざけんなよ。勝手に人んち来て死の宣告してんなよ! ウソでもシャレになんねえんだよ!

-健一・死神の胸倉を乱暴に離し、手に持っていたスマホで死神の写真を撮る。

健一: お前の存在、ネットに拡散してやる!
シズ: やめなさい、健一!  

-シズ・二人の間に入り込む。

健一: ばあちゃん、いきなり何言ってんだよ!! そんなこと言ってるとマジで死ぬぞ。
シズ: ・・いきなりこんな話をしてごめんなさい。実はね、私は最近物覚えも悪くなって、体も思うように動かなくなっていたの。自分が別のものになっていくみたいで、とても怖かった。もう終わりだって思った。でも死神が来て、私は最後まで自分のままでいれるって分かったの!!
健一: ・・・・
シズ: だから、私は悔いのない時間を過ごしたい! 今までできなかった事をやってみたいって思うの。貴方だって自分の寿命が分かれば、自分のやりたい事をするでしょ?
健一: どんだけ前向きなんだよ、 ついてけねえよ!・・・ん?

-健一・急に怪訝な顔をし、自分の肩や腕、脇の匂いを嗅ぐ

シズ: どうしたの?
健一: うそだろ・・。
シズ: えっ?
健一: ・・・臭いんだけど。
シズ: だから少しの間我慢してって。
健一: 違う、俺の脇、ばあちゃんのと同じ匂いがするんだけど。
シズ: なんで?それ私の臭いじゃないの?

-少しの間

シズ: もしかして、さっき死神を触ったから!?

-シズ・健一の両腕を思わず掴む

シズ: あなた体は大丈夫なの!?クッサ。この子も私みたいに年齢が変わってしまうの?
死神: それはない。お前以外に”ギフト”は適用されない。
シズ: そうなの?よかった。
健一: ちょっと待てよ、よかねえよ。つまり、俺はお前に触れて、ワキガになっただけってことか!?
死神: そのようだな。
健一: そのようだなって、お前も分かってないだろ。
死神: 心配するな。もう一度私に触れれば匂いは消えるはずだ。
健一: 俺、これからバイトなんだけど。
シズ: 大丈夫よ、健ちゃん。これ使って。

-シズ・部屋に置いてあるファブリーズを健一に渡す。


〇リビング (AM8:15)

-シズ、健一、茜・ダイニングテーブルで朝食をとっている。
-茜・23歳、ショートカット、身長162cm、クール系女子、細身
-死神・シズの背後に立っている。

中村茜: おばあちゃん、珍しく寝坊したね。体調悪いの?
シズ: 大丈夫よ。朝ごはん作ってくれてありがとう、茜。
茜: 別にいいよ。あんた片付けといてね。
健一: 分かってるよ、いちいち言うなよ。
シズ: これから大学?
茜: ううん、今日はバイト。
健一: ちゃんと勉強してんのかよ。最近ずっとバイトばかりだろ。
茜: 20歳の高校生に、勉強どうこう言われたくないわ。今年でちゃんと卒業すんのよ。じゃあ、私もう行くから

-茜・席を立ちあがる。

シズ: いってらっしゃい。気を付けてね。
茜: うん、いってくるね

-茜・リビングを出る。

健一: おい、死神
死神: なんだ?
健一: うちの姉ちゃん、なんでお前の事見えないんだ?同じ血族だぞ。
死神: それが普通だ。お前が特別なんだ。
健一: マジかよ・・・
シズ: それより、健ちゃんは今年で高校卒業ね。夜間学校楽しい?
健一: まあ、うまくやってるよ。年齢もバラバラで、変な奴ばっかりだけどね。

-健一・立ち上がると、自分と茜の食器を台所に下げ、洗い始める。

シズ: そう、よかった。今日はどこでお仕事?
健一: 2丁目の介護施設。じゃあ、俺もいくわ。夜は学校だから、帰りは10時くらいになる。
シズ: うん、気を付けてね。
健一:  (死神の方を向いて)俺、これから出るけど変な事すんなよ。ばあちゃんも気を付けろよ。
シズ: 大丈夫よ。いってらっしゃい。

-健一・リビングから出る。車のカギを握り、玄関のドアを開ける。


〇外(晴天)

-健一・車に乗り込み大きなため息をつく。

<回想>
シズ:  「私の寿命はあと180日なの。」

健一: マジかよ・・・

-健一・煙草に火をつけ、車のエンジンをかける。車が動き出す。


〇リビング

シズ: さて、片付けでもしようかしら

-シズ・台所で食器を洗う
-洗濯機を回す。
-掃除機をかける。

-ひと段落し、ソファーに腰かけ休む。

シズ: あ~、疲れた。でも、いつもより体が動くわ。関節の痛みもあまりない。
死神: 若返った時の生命エネルギーがまだ体内に残っているんだ。しばらくすれば、それも消え、元の状態に戻る
シズ: えっ、そうなの?お布団や洗濯物も干したいのに。・・・それなら

-シズ・死神の肩に触れ、若い姿に戻る。

若シズ: わあ~、やっぱりこの体凄い楽。これなら庭掃除だってできるわ!
死神: いいのか?こんな事で寿命を使っても。
若シズ: こういう日常が大切なのよ。


〇健一の部屋

-若シズ・床に散らかっている衣服を拾い上げ、畳む。
-床に掃除機をかける。床に落ちているエロ本をパラパラめくる。


〇庭(晴天)

-若シズ・鼻歌を歌いながら布団、洗濯物を干す。隣の家の主婦の姿を見つける。

若シズ: あら、伊藤さん、こんにちは。いいお天気ね。
伊藤: え、ええ。いいお天気ね。(心の声:あの子誰?)


〇リビング

-シズ・元の姿に戻り、ソファーで茶を飲んでいる。
-時計は10:30を指している。

シズ: (時計を見ながら)思ったよりも早く終わったわね。

-シズ・椅子に置かれているバッグに気付く。バッグの中身を空けると、健一の教科書やノートが入っている。

シズ: これ健一の。あの子忘れてったんだわ。


〇外(晴天)11:15頃

-若シズ・健一のカバンを肩にかけ、歩きながら脇にファブリーズを吹きかけている。サイズの合わないタイトな服を着ており、ボディラインがくっきり見える。

-コンビニの前にいる二人の男がニヤニヤしながら若シズに近づいて来る。

男A: 君、めちゃくちゃスタイル良いね、 モデルとかやってるの?
男B: 俺ら城南大の学生なんだよ。将来有望だぜ~、どっか遊びに行かない?
若シズ: 城南大?
男A: あれ?知り合いでもいる?
若シズ: 孫娘が城南大の院生なの。
男A: おいおい、孫娘ってなんだよ! 君、面白いね~。さあ、行こうぜ!

-男A・若シズの肩に腕をまわすが、若シズはその手を取り、後ろへ捻り上げ、地面に押し付ける。

男A: いててて!やめろ!!

-若シズ・その場から立ち去る。男達は、去っていく若シズの背中を見つめている。

〇介護施設・室内

-健一・利用者の入浴業務を終え、浴室から出てくる。頭に手ぬぐいを巻き、袖と裾をめくりあげている。

及川瞳: 中村君、あの、お客さんだよ。忘れ物届けに来たって。

-健一・声の方に振り向くと瞳が立っている。
-瞳・23歳、大きな眼鏡、童顔、ムッチリ型、163cm。用件を伝えると、その場からすぐに立ち去る。


〇介護施設の入り口玄関

若シズ: 健ちゃん、忘れ物よ。

-若シズ・入り口の玄関に立っており、手に持っている健一のバッグを見せる。
-健一・誰か分からず立ち尽くす。少しの間。

健一: あっ、ばあちゃんか?誰かと思った。つうか、なんちゅう格好してんだ。服パツパツだぞ、それどうした?
若シズ: 茜の服、ちょっと着てみたくて。
健一: いや、体格差考えろよ、サイズ合うわけ無いだろ。ていうか、ばあちゃん背高いな。身長いくつ?
若シズ: 4尺5寸くらい
健一: 分かんねえよ。

若シズ: あっ、先程はどうもありがとう!

-若シズ・通路の角から覗き見している瞳に気付く。
-瞳・声を掛けられ驚く。角から出てくる。

瞳: いえ、そんな。あの、立ち聞きしてごめんなさい。
若シズ: いつも、ま・・、健一がお世話になっています。これよければ皆さんで召し上がってください。

-若シズ・紙袋に入った和菓子を瞳に渡す。

瞳: あ、ありがとうございます。あの、失礼ですが、中村君のお姉さんですか?
若シズ/健一: え?
瞳: 中村君にお姉さんがいるって聞いた事があって。
健一: いや、姉ちゃんじゃなくて。あ~、何て言ったらいいか。
瞳: あっ、立ち入った事聞いてごめんなさい! 差し入れありがとうございました!

-瞳・深々とお辞儀をして立ち去ろうとする。
-通路から、誰かが走ってくる足音が聞こえる。

-長谷川(室長)・息を切らして突如現れる。62歳、男性、160cm、ハゲ頭。

長谷川: ハア、ハアッ、西さんを見ませんでしたか?
瞳: 西さん?朝見かけましたけど。
長谷川: どこにもいないんです!やっぱり外に出たんだ!!
瞳: えっ!?

-瞳・壁にかかっている時計を見る。時刻は11:45

瞳: 私が見かけたのは9時頃だから、遠くには行ってないはずです! すぐに探しましょう!
長谷川: ええ、私はご自宅のほうに行ってみるので、瞳さんは西さんがここに来る前の施設に連絡してもらえますか?心当たりがないか聞いてみてください。中村君は近くの公園をあたってください。
瞳: 分かりました!
健一: 了解です。

-瞳/長谷川・その場から走って立ち去る。

若シズ: 西さんて?
健一: 重い認知症で、いつもブツブツなんか言ってる人だよ。
若シズ: それは大変!私も手伝うわ!
健一: ひとまず近くの公園をあたろう。

〇公園(晴天)13:00頃

-若シズ/健一・公園で西を探している。
-若シズ・しばらく探した後、大量のファブリーズを脇に吹きかける。

健一: いないな。そんな遠くに行けるわけないのに。
若シズ: そうだ、死神!

-死神・スッと現れる。

若シズ: ねえ、人探し手伝ってくれない?貴方ならどこにいるか分かるでしょ?
死神: お前に関する事以外、何も知らないし、何もしない。
健一: 最初から期待してねえよ。一回ホームに戻ろう。何か分かったかもしれない。
若シズ: ええ、そうね。

〇施設の前(外)

-建物の前に職員達が集まっている。
-瞳/長谷川・健一と若シズに気付く。

長谷川: どうでしたか?
健一: いや、近くの公園探したけどいなかったです。そっちは?
長谷川: ご自宅までの道にもいませんでした。前の施設も心当たりは無いと。西さんは重度の認知症なので、誰ともまともに話した事がないんです。
健一: 西のじいちゃん、いつもなんかブツブツ言ってますよね。
瞳: うん、ホーホーとかホッコーみたいなこと。意味は分からないけど。
若シズ: え?それって、ホッコロじゃない?
瞳: そうかもしれないですけど、知ってるんですか!?

〇沼地 (PM15:00頃)

-西・小柄で痩せた老人。男性。おぼつかない足取りで歩いている。素足で手や足は擦り傷だらけ。
-周りは草木が生い茂っている。

西: ホッコロ、ホッコロ

-西・目の前に沼が現れる。沼に向かってゆっくり歩いていく。

西: ホッコロ、ホッコロ

-西・沼の直前で止まる。何かを掴むように手を伸ばすと、体のバランスを崩す。沼のほうに体が倒れる。

若シズ: 待って!!!

-若シズ・草木の中から突如現れる。走りながら上着を脱ぎ捨てて、半袖になる。沼に落ちる西を空中でダイビングキャッチ。体をひねり、西を空中から陸地へ放り投げる。

-健一・少し遅れて草木の中から現れる。

健一: うおっ!?

-健一・西をダイレクトキャッチする。沼に落ちていく若シズの姿を見つめる。

<沼に落ちていく若シズの姿がスローモーションになる。その時、突如、健一の過去の記憶がフラッシュバックする。そこには右腕を抑えてうずくまる老いたシズの後ろ姿があった。その腕からは血が流れ、地面に滴り落ちている。
場面は現在に戻る。若シズが沼に落ちていく最中、若シズと健一の目が合う。その瞬間、再び健一の過去の記憶がフラッシュバックする。腕を抑えうずくまるシズが健一に振り向き、優しく微笑みかける。>

健一: ばあちゃん!!!

-若シズ・大きな飛沫をあげて、沼の中に落ちる。
-瞳/長谷川・その直後、草木の中から現れる。

健一: くそっ!

-健一・長谷川に西を預け、靴下、靴を脱ぎ、上半身裸になり、沼に急いで向かう。沼に足を踏み入れる。

若シズ: ぷはああああーーっ!

-若シズ・頭から勢いよく飛び出す。

健一: ばあちゃんっ、平気か!?
若シズ: わあ、服ビショビショ、茜に謝らないと。

-若シズ・健一に笑顔を見せる。半袖でむき出しになった右腕には、縦に伸びた古傷がある。
-健一・唖然とした表情で若シズを見つめる
-瞳・驚愕の表情で若シズを見ている。

〇介護施設の中 (PM16:30頃)

-若シズ・バスタオルを頭と肩にかけ、大量のファブリーズを脇に吹きかけている。
-健一と瞳・若シズの隣に座っている。
-長谷川・部屋の端で、携帯電話で話をしている。

長谷川: 西さん、特に大きな怪我はないそうです。

-長谷川・電話を終えて3人に話しかける。

瞳: よかった。

-長谷川・若シズの前に立つ。

長谷川: 貴方のおかげです。本当にありがとうございました。えっと・・・
若シズ: シズです。
長谷川: シズさん、貴方には感謝してもしきれません。
若シズ: いえ、無事で本当に良かった。
健一: ほんと無茶すんなよ。死んだかと思ったわ。
若シズ: 残念、まだ寿命は残ってるわ。
瞳: あの、なんで西さんの居場所が分かったんですか?
若シズ: ホッコロよ。
瞳: ホッコロ?ホッコロってなんですか?
若シズ: アオバズクって知ってる?フクロウの仲間。昔はあの辺りにはアオバズクがいて、よくホッホウ、ホッホウ、って鳴いてたの。それとあそこには、ホクロみたいに小さな水溜まりがいくつもあったの。それであの場所はホッコロって呼ばれてた。
長谷川: ホッホウとホクロでホッコロ。かわいい。
若シズ: 夏にはたくさんの蛍がいて、とっても綺麗だった。きっと西さんにとって大切な場所だったのね。
長谷川: なるほど。
瞳: でも、何でそんな昔の事知ってるんですか?
若シズ: えっ?
瞳: それって、西さんが若い頃の話ですよね。
健一:  あ~、あれだよ、うちのばあちゃんに教えてもらったんじゃないかな?
若シズ: え、ええ、そうおばあちゃんに。
長谷川: そういえば、中村君のおばあ様は、今入院されてるんですよね。お体大丈夫ですか?
若シズ: 入院?
長谷川: ええ、おばあ様が入院されたとの事で、先週、中村君は数日欠勤したんです。
若シズ: (棒読み)へえ~、それは大変。

-若シズ・気まずそうな健一の横顔をジッと見つめる。

〇健一の車の中 (夕焼け空、17:30頃)

-運転席に健一、助手席にシズ。シズは元の姿に戻っている。

<健一の回想>
シズ: 私は悔いのない時間を過ごしたい! 今までできなかった事をやってみたい!

健一・シズの言葉を思い出す。

健一: なあ、これからばあちゃんは何をしたい?
シズ: そりゃ色々あるわよ。せっかく若返られるんだから。
健一: じゃあさ、それ全部紙に書いてくれよ。俺、それが実現できるように手伝うからさ。
シズ: ありがとう、健ちゃん。・・・今日は本当に楽しかった。私ね、やっぱり最後の瞬間は良い人生だった、幸せだったって思いたい。だから、残りの時間、私は精一杯生きて、・・・先に向こうで待ってるわ!

-シズ・健一に笑いかける。

健一: いや、笑えねえよ。

〇中村家の前

-健一の車が家の前に到着し、シズは車から降りる。健一の車はそのまま走り去る。
-シズ・玄関のドアを開けて家に入る。
-死神・家の前に立っている。家に入るシズの後ろ姿をジッと見つめている。

〇健一の車の中

-健一・煙草を口に加えている。大きく煙を吐く。沼に落ちる直前の若シズの顔、過去のシズの笑顔。若シズの右腕の古傷を思い出す。


<空には美しい夕日>

健一モノローグ:
その日、突如、祖母の前に死神が現れた。その出会いは、これから起きる、奇跡のような日々の始まりだった。


〇家の中

シズ: あっ!!

-シズ・健一のバッグを持ったままでいる事に気付く。

シズの寿命、残り179日


第2話 https://note.com/daisy301/n/n3b19c3398a04

第3話 https://note.com/daisy301/n/n047ce718e85c

#創作大賞2024 #漫画原作部門


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