日本からアメリカのスタートアップにリモート勤務する方法

僕はアメリカのサンフランシスコベイエリアのスタートアップで働いています。稀に日本に住む方から「どうすればアメリカのスタートアップで働けるか」というようなことを聞かれます。まずビザの話をすることが多いのですが、そういえばリモートで働くという選択肢もあるよなと思ったので、日本からアメリカのスタートアップにリモート勤務することについて書いてみたいと思います。ソフトウェアエンジニアおよび関連する職種を想定しています。


前提として、僕は2社のスタートアップで合計6年働いています。1社目、2社目ともに採用に関わることがあり、中国、インド、ベトナム、ウクライナ、イスラエル、クロアチア、ドイツ、ブラジル、カナダ、アメリカ、アルゼンチン、日本などの国からリモートで採用したメンバーと仕事をした経験があります。


アメリカのテック企業でリモート勤務するメリットとデメリット

本題に入る前に、そもそもアメリカ企業でリモート勤務することが向いている人とそうでない人がいると思います。メリットとデメリットについて僕の考えだと以下のようになります。

メリット

  • グローバルで多様なチームで働く経験を積める

  • 世界中で広く使われる可能性のあるサービスに関われる

  • 給与が高い事が多い: 給与は勤務地に応じてcost-of-living adjustmentが入ることが多いですが、それでもいわゆる日系企業よりは好待遇な印象です

  • 急成長スタートアップで働ける: シリコンバレーのテック企業には多くの資本が入っており、product market fitの兆しがあれば資金を調達して一気に市場を取りに行くことがあり、急成長ならではの楽しさや学びがある気がします

  • 会社が大成功した場合ストックオプションで多額のお金が入るかもしれません

デメリット

  • 時差がハンデになる。フルリモートの会社だとしても、多くの社員がUSタイムゾーンにいる場合、US時間で物事が進む事が多いです

  • 同僚と頻繁に会うことができない。仕事終わりに同僚と飲みに行ったりするのが好きだと向いてないかもしれないです

  • 英語のコミュニケーションになる。英語が第一言語でない場合は生産性が落ちる感覚になると思います

  • 雇用が不安定?スタートアップなので会社が潰れることもありますし、あるいは会社の方針変更でリモートのメンバーをレイオフということもあるかもしれません


スタートアップと海外リモートワーク

コロナの影響もあり身の回りのスタートアップでもリモートワークが普及してきたイメージがあります。現職は創業直後にコロナが大流行したこともあり、フルリモートとなっていて、今後もフルリモートの予定です。deelなどのHRソフトウェアにより、海外の人を採用するのが以前より簡単になったようです。

一方で、最近はコロナも落ち着いたことからハイブリッドになる企業も多くなっている印象です。また、フルリモートと言いつつ、アメリカにのみ採用対象を絞っている会社もあります。

前職も現職も初期(シリーズAごろ)は世界中のあらゆる国で(主に契約社員の)採用をしていました。ですが、会社の規模が大きくなり取引相手も大きくなるにつれて、データセキュリティ上の理由などから、顧客データに触れる職種は特にアメリカ中心の採用になっています。gitlabのようにフルリモートで成長を続ける会社もありますが、個人的には社員数10名から100名ほどの企業が狙い目なのでは、と思います。

海外リモート採用のパターン

自分が直接関わった範囲で海外リモート採用のパターンについて書いていきます。これらは排他的ではなく、実際にはいくつかの要因が重なっていることが多いです。

  1. 安い労働力の確保
    ベイエリアの人件費はとても高いので、安価な労働力を求めてリモートというパターンがあります。一方で「安い」といいつつ、一定の技術力があるエンジニアを雇おうと思うと(ケースバイケースですが)例えば時給$40程度は出す必要があるので、日本円だと人月90万円程度になるイメージです。

  2. 採用に苦戦している技術領域
    特定の技術領域での採用をするためにリモートに目を向けることがあります。例えば前職はgolangの会社でしたがecommerce platform向けplugin開発をPHPでする必要があり、そのタレントを求めてリモートの人を多く採用しました。

  3. タイムゾーンカバレッジ
    サポートエンジニアなどの職種では、24時間のタイムゾーンカバレッジのためにAPACで採用することがあります。

  4. 顧客対応
    弊社で日本のトラディショナルな大企業が顧客になるかも?というような話があったときに、日本ベースのサポートエンジニアの採用を検討していました。

  5. 信頼できるリファラル
    弊社も原則としてはこれ以上採用する国を増やさないでおこう、ということにはなっているのですが、とはいえ良い人材はいつでも欲しいです。信頼できるリファラル(過去に同じチームで働いていて優秀だった)などであれば、採用することはありえます。

日本からリモート勤務したい人はどうすればいいか

これまでのことを踏まえて、日本からアメリカのテック企業でリモート勤務するには、という観点で必要なことを考えてみたいと思います。

前提条件: 英語と技術力は必要そう

ここまで書いておいて急に現実に帰りますが、アメリカ企業でリモート勤務をするという前提なので、仕事ができる最低限の英語力は必要でしょう。これは英語で友達を作ったりプレゼンしたりという能力とはあまり関係なく、英語でちゃんとPRのレビューができ、設計などについてある程度議論できるような能力です。実用上は面接を通りさえすれば良いので、ある程度はhttps://interviewing.io/ 等を利用した反復練習で乗り越えることができるかもしれません。

また、技術力においても、全く未経験の人をわざわざ日本から採用するメリットはないため、何かしらの経験は必要だと思います。以下の記事にあるように、会社に求められるドンピシャの技術力であれば多少の英語力のなさは認められることもあるかもしれません。
英語しか使わない職場に英語がほとんどできないエンジニアが入ってきた話


応募先を見つける

まずはwellfoundなどのスタートアップ向け転職サイトで自分にあっていそうな求人を探しましょう。フルリモートを大体的にうたっている求人か、規模がまだ小さく(社員数100人以下)まだ柔軟性がありそうな企業を探すのが良さそうです。

その中で、自分の経験や経歴にマッチする求人を探すことになります。僕であればgolangとtypescriptのフルスタック、フィンテック領域という感じになると思います。


応募する(裏口から)

このまま転職サイトから応募しても良いのですが、残念ながら多くの割合で書類で弾かれます。もし仮に日本の有名大学や有名企業がレジュメに並んでいたとしても、アメリカの採用担当者は日本の大学や企業には詳しくないことがほとんどです。また、特にリモート可の求人の場合、かなりの数のレジュメが飛び込んでくるので、単純にレジュメが見逃される可能性も高いです。

なので、もし僕が今海外勤務経験ゼロの状態からリモート勤務に挑戦したいと考えると、少なくともレジュメスクリーンを通り面接までこぎつけられるように助けてくれる人を、Linkedinなど経由で探すことになると思います。

少し違いますが、こちらのネットワーキングの記事が参考になるかもしれません。スタートアップに応募する場合、ファウンダーやCTOに直接連絡してみるのもいいかもしれません。これらの人は週に何件も似たようなメッセージを受け取っているはずなので、簡潔に要件を伝えつつ、単にコピペではなく実際にこの職種になぜ自分がふさわしいのかを説明できると良いでしょう。

これだけ頑張っても多くの場合はメッセージに返事が来ず書類で落とされることになるかもしれません。ここは数の勝負なのでとにかく応募し続けるのが良いでしょう。


面接する

アメリカのテック企業の面接については対策の書籍やサイトが色々出ています。僕が就活していた10年近く前は cracking the coding interview という本がメジャーでした。今だとleetcodeでコーディング対策をしつつ、interviewing.ioで模擬面接をするのが良さそうです。

シニアポジションの面接だとシステムデザインを聞かれることもよくあるのでそちらも対策が必要です。これも、なんだかんだで予習しておくと答えられることが多い気がしています。Preparing for the Systems Design and Coding Interview は元Uberのエンジニアによって書かれた対策法まとめで(ややoverwhelmingですが)よくまとまっている印象です。

また、スタートアップの面接だと culture fitについて(直接的でないにせよ)見られる事が多いです。初期スタートアップでも会社のミッションやバリューを明確に定めてる企業も多く、自社と候補者がマッチしそうか調べられます。僕の経験ではリモートの候補者は「お金を稼ぎたい」「英語での仕事経験を積みたい」など(それ自身を否定するものではありませんが)が前に出すぎていることが多いです。会社の事業内容を自分なりに理解した上で、なぜ自分がその事業に貢献したいのか、ということを話してくれると印象が良いです。

補足: contract to hire

フルタイムのポジションに応募する他に、まずcontract(契約社員)として入社し、正社員(海外リモートの場合は「正社員」と言いつつ契約形式はcontractなことも多いですが、フルタイム勤務+ストックオプションがもらえるような状況を指しています)にコンバートする可能性もあります。自分は過去にUpworkやToptalを利用してそのような採用を行いました。


おわりに

日本に住んでいながらアメリカのテックスタートアップでリモートワークするにはどうするか、というのを考えてみました。今はアメリカのテック企業は軒並み不況で、採用を絞っているところも多いですが、逆にコストカットのために国外での採用をはじめているところもあるかもしれません。

僕の所属する会社は残念ながら日本での採用をやめてしまったのですが(2人すでに日本から働いている人がいます)レジュメの書き方や面接対策等、質問や相談したいことがあればぜひコメントいただいたりlinkedinまでご連絡いただければと思います。


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