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初夏の手仕事

 今年初めてらっきょうを漬けた。

 毎年というわけではなかったが、私の母は時期になるとスーパーの店先に並んだらっきょうを買って漬けていた。予期せぬ病の発症で今年はそれも出来なくなった。今は毎日、最低限の暮らしを送ることに精一杯となった母にとって、まだ根を詰める作業は大儀なのだろう。私が買い物に出かけた店先でらっきょうを目にしたことを伝えても、「今年は無理ね」と、どこか寂しげに諦めを滲ませて言うだけだった。

 昨年、梅干しを漬けた時も思ったことだったが、先に楽しみが待っていると思うと、生きる甲斐というものがあるというものである。

 病気のせいで体が弱っているとはいえ、毎年やっていたことが一つもできないというのは私自身、非常に寂しいと感じた。ここは思い切って、母の代わりに私がらっきょうを漬けてやろうと思い立ったのである。本当のことを白状すれば、スーパーの店先に並んでいたらっきょうが美味しそうで、尚且つ安かったのである。これを来年食べることが出来たら楽しいだろうなと、ここに来てもやはり食い意地が勝る結果となった。

 そうと決めた私はスーパーでらっきょうを二パック買った。家へ帰り母に見せると、
「あら、随分安いんじゃない。でも、どうするのこれ?」
と困った顔をした。自分が漬けなきゃならないと思ったのだろう。今年は自分が漬けるからと伝えると、
「大変よ、二つも。いっぺんにやらないで、根詰めないで分けてやりなさいよ」
と言っただけで、手伝うわという言葉はやはりなかった。

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