もの云わぬ裕之の背中
【8月の回想録】
一時帰還で家へ帰っても、如何なる理由があろうとも戦地での出来事は、絶対に口には出来ないことだった。
ひとり、縁側でぼんやりする裕之の胸の内は、如何許だったか。
言いたいことを言えず胸に秘め、母に心配を掛けまいと、必死に平静を装って苦悩に堪えていた。
あの時代に、こんな若者が日本にどれだけいたことだろう。
そして、ひと度戦地へ赴き、どれだけの可能性を秘めた、たくさんの若者達が、命を散らせたことか。
様々なことが浮かんでは消え、消えては浮かんでの、そんな時間だったのではないかと。
この縁側のシーンは、そういった若者の静かな心の葛藤の象徴のようなシーンだと感じた。
2021年8月10日付・インスタグラムより転載。
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