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【コーチを知る映画①】英国王のスピーチ(The King's Speech)

コーチの仕事や、コーチングについて、映画を通じて理解が深まる作品を紹介したい。一作目は英国王のスピーチ(The King's Speech、2010年)を取り上げる。

この作品は第二次世界大戦中のイギリス国王・ジョージ6世と、言語聴覚士のローグ・ライオネルの関わりを史実に基づいて描いた2011年のアカデミー賞受賞作だ。

私はこの映画をコーチを知るために意識してみたのではなく、ただ大学の図書館で偶然目にしたのがきっかけだった。しかしこの作品に出てくる言語聴覚士が、吃音に悩むジョージ6世にまさにコーチ的な役割をしていることに気づいた。

見ていない人に配慮するため細かいストーリーは控える。ただコーチの目線から見ると、この言語聴覚士が国王にやっていたことはまさにコーチの仕事だった。3つの点を取り上げる。

1. コーチとクライアントが対等な関係

1つ目は、コーチとクライアントが対等な関係でいるということだ。この言語聴覚士(コーチ)は植民地のオーストラリア出身の平民で、イギリス国王から見れば完全に見下す対象になっていた。

ただ、コーチはクライアントになるからには国王に対しても「完全に対等な立場」を求める。さらに「陛下(Majesty)」や「サー(Sir)」といった身分を示す呼び名ではなく、ニックネームで呼ぶことを頑なに求める。

日本で言えば、天皇とフリーランスコーチがお互いにニックネームで呼び合う感じだろうか。現・徳仁(なるひと)天皇であれば「なるくん」と呼ぶ関係かもしれない。

この「フラットな関係」はコーチにとってとても大切なことだ。どんなに偉い人であっても、身分や肩書きを横に置けば一人の人であることには変わらない。

同時に、コーチも決して偉い存在ではない。本質的な変化をめざすため、上下ではないフラットな関係こそコーチングにおいては大切だ。

私はそこにコーチという職業の尊さを感じる。コーチとは何かに隷属することもなく、驕り高ぶることもなく、独立を維持することが大切なことなのだと思う。最も大切なのは「人間的であること」であり「そのままでいられるか」にコーチの器が問われるのではないだろうか。

2.本人の意思を尊重すること


2つ目はクライアント本人の意思を尊重することだ。コーチとは「現状をよりよく変えたい」と思う人に伴走する仕事である。それは本人がそのように思うことが、まず何より最初の一歩になる。

この映画中でも、英国王が吃音という自分のコンプレックスを認め、前に踏み出そうとするときに、このコーチとの関わりが始まる。クライアント契約を結ぶとき、コーチは「あなたはそれを改善したいと思うか」という意思を聞いている。コーチングはコーチとクライアント双方の「現状をよりよく変えていこう」という思いが重なることが大切なのだと気付かされる。

クライアント自身の「変わりたい」という意思が、コーチングが成功するかどうかの最大の肝のひとつなのだと思う。それと同時に「このコーチとならきっと変われる」と思わせるコーチのあり方も同じくらい大切だ。

3. 「人は変われる」と信じている

もうひとつ大事なことは、コーチが「人は必ず変われる」と信じきっていることだ。言語聴覚士は、国王の吃音は必ず改善できると首尾一貫して信じて疑わない。「粘り強いあなたなら必ずできる」と何度も呼びかけ、行動で示すコーチの態度が、クライアントである国王に勇気を与え続けている。

コーチは「人は変われる」と信じている人たちである。なぜ信じられるのか。それは自分自身が変わってきたからに他ならない。クライアントにインパクトを与えられるコーチとは、本人が人生を大きく変えてきた人なのだろう。

いいコーチングには遊びがある

私は新聞記者からコーチを職業に選んで1年半になる。これまで第一線で活躍するコーチの方のセッションも見てきた。そこで感じるのは、一流と呼ばれるコーチほど「遊び」を大事にしていると感じる。セッション中にも遊びを取り入れている。

それはコーチングが本質的に「解放」に向かわせる対話だからだろう。一部で誤解されているかもしれないが、コーチングは決して「管理」するものではない。自らの内側を解き放っていく対話である。

この映画でも、幼いときから社会的な「正しさ」のために自分の心を矯正されてきた国王のエピソードが語られる。言語聴覚士のコーチは、管理されてきた国王を心の解放へと導く。そうすることで、国王が自らの自然な力を取り戻していく姿が鮮やかに描かれている。

人は変われる。変化の種は自らの内側にある。このことを、この映画は教えてくれる。

コーチングの興味のある方、またより良いコーチを目指していきたい方にぜひおすすめしたい


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