This is startup - 契約も知財だ!
【要約】
はじめに
前回投稿した記事で「広義の知財」という言葉を使った。
「知財」という概念にとことん向き合った結果として、概念の拡張が必要であるとの結論に至った。
その結果、僕は「自分が価値をつけたい情報が知財である」と考えるようになった。
「売りたい(つまり、価値をつけたい)」と強く願って進める業務の代表例が契約業務だ。
すると、契約も知財であることが見えてくる。
契約とは何か
法務省の文書には、このように示されている。
キーワードは「意思表示」だ。
「意思」。
それは人の思い。
仕事は、人が自らの働きに価値を付ける行いのことだ。
仕事に報酬(価値を円換算した通貨)が支払われるのは、このためだ。
とりわけ、ランウェイの限られたスタートアップでは、毎秒あたりどれだけの価値を出せるかを考え続ける必要がある。
僕が契約業務に取り組むときは、常に、1秒でも早く、1円でも多くの価値をつけることを理想に掲げている(そして、理想と現実のギャップと戦ってもいる)。
これは、自分たちに有利な条件に落とすこととは似て非なるものだ。
ただただ価値をつけたいのだ。
契約も知財だ
広義の知財
一般的な知財の定義は、次のようなものだ。
残念ながら、知的財産基本法の定義には、「契約」の文脈を見つけることはできない。
しかし、「知財」を「価値をつけたい情報」と置き、「契約」を「価値をつけるための法律行為」として捉えると、契約も知財と言える。
広義の知財では、契約も知財の一角を担うことになる。
「当事者系権利化手続」という考え方
特許実務には「権利化手続」という言葉がある。
特許権を取得又は無効化するために特許庁に対して行う手続のことだ。
特に、特許庁の判断に対して異議を申し立てるための「審判」は、主張先に応じて次の2種類に分類される。
査定系権利化手続(拒絶査定不服審判の例)
特許庁に対して、特許出願人が、異議(拒絶査定の却下)を申し立てる手続
主張先=特許庁
当事者系審判(特許無効審判の例)
特許庁に対して、当事者が、異議(特許の無効化)を申し立てる手続
主張先=当事者
ところで、契約にはどんなことを書くだろうか。
それは、自身と当事者(相手方)の権利の意思表示だ。
特許とは、自身の権利(特許権の取得)の意思表示を特許庁に示すものであり、契約とは、自身の権利の意思表示を当事者(相手方)に示すものである。
このように考えると、契約は当事者系権利化手続に分類することができる。
つまり、契約には、一般的な知財の代表例である特許と共通する点がある。
知財家が契約をやる意味
僕は、知財家は契約をやるべきだと強く思っている。
ここで言う契約とは、一般に知財契約(例えば、共同出願契約や知財条文)と呼ばれるものに限らず、事業に関わる全ての契約のことだ。
スタートアップで契約を見るようになって気づいたことがある。
それは、次の2点だ。
契約発掘というプロセスが存在しない(プッシュで相談が飛んでくる)。
契約相談は、発明相談より先に来る。
どういうことかというと、契約を抑えておけば、事業の最新状況と今後の見通しを早期にキャッチアップできるということだ。
例えば、展示会の出展契約の相談を受けたとしよう。
このとき、「どんなデモ機を展示するのか?」が論点になる。
出展契約の中で閉じて考えると、事業部からヒアリングしたデモ機の内容をコピペするだけの作業でクローズすることも可能だ。
しかし、知財家であれば、デモ機をカバーする特許は出願済だったのか?という論点に気づくだろう。
つまり、展示会出展の前に、新規性を喪失する将来計画を把握することができるのだ。
あくまで理想論だが、契約の相談を受ければ、新規性喪失の例外の適用も発明発掘も撲滅することができるはずだ。
むすび
知財とは、「価値をつけたい情報」のことだ。
知財業務とは、価値付けの行為である。
特許庁に対する手続は、その価値付けの行為の1つに過ぎない。
例えば、ある発明の特許出願を見送った場合、その発明の価値付けは途絶えたのだろうか?
答えは否である。
特許出願以外の方法でも価値付けは可能だ。
契約は、発明より先に、発明より確実に発生する知財だ。
契約業務に知財家が入ることで、特許のアイデアに留まらない様々な情報をかなり早期に入手することができる。
知財家は契約業務に携わるべきだ。
だって、契約も知財だから。
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