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第10章〜マネタイズとグロース

スマホアプリ化によって伸び始めたKPIだったが、VCに資金調達を打診してみてわかったのは、次の投資ラウンド(シリーズAと呼ばれる)を攻略するにはただサービスにユーザーがいるだけではなく、ビジネスモデルが検証されていることが必要だということだ。そこで当初から予定していたマネタイズのテストを急ぐことにした。

クラシファイドはフリマと異なりメディア事業なので、僕たちは米国の先行モデルの例に習い、求人広告でのマネタイズを試みた。例えば、「ゲームアプリの開発会社でインターン募集!」という投稿があった場合、僕たちならユーザーの興味関心データがタグ化されたものを持っている。ドラゴンクエスト・学生団体・起業に興味があり、東京在住で20〜23歳のユーザーのスマホにPush通知で求人をピンポイントで届けることが可能だった。

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プランを作り業界イベントで知り合った大手のCEOに直接営業していく。最初に買ってくれたのは、新卒時代にお世話になったサイバードの共同創業者で元アララCEO(2回目のIPOおめでとうございます!)の岩井さんだった。後輩ということで応援の意味もあったと思うが、見事に即採用につながり、リピートで発注いただけたのが嬉しかった。また、採用に困っているスタートアップも顧客になった。掲載だけなら5万円程度、Push通知を一定以上送ると+●万円、取材記事で+20万円という基本プランだった。この辺は最初の仮説どおりで、狙ってやってきていた業界向けのメディアPR露出やイベント出場など、スタートアップ周辺の人を初期ユーザーとして設定してPR戦略で会員を増やしてきたことが効いていたと思う。今考えるとfacebookやtwitterのような広告配信の仕組みが簡易的ながら構築できており、求人の他にも、テストユーザー募集やソーシャルアパートメントの入居者募集など、様々なニーズに応えられていた。

100万円くらいの売上は、がんばって営業をかければ作れたが、いかんせんサービス規模はまだ小さく、世間的な知名度も低い。営業は人海戦術になる。しかもどうしても僕が営業したほうが早い(1人だけ凄い学生インターンがいた)ので、CEOの時間がとられすぎてしまう。そして広告投稿が増えるとユーザー1人あたりのview数も減ってしまうという課題もあった。サービスをメディアとして考えるのであれば、まだまだマネタイズには早かったのだ。シリーズAではマネタイズの仮説検証がないとダメだという理論に引きづられすぎたのかもしれない。

マッチング広告以外でのマネタイズにもトライした。システムに興味を持った会社から同様のサービスで業界特化のものを作りたい、という問い合わせが増えていた。そんな中、カラオケ業界の雄、カラオケの鉄人さんから連絡がありWishScopeを活用してSNSから店舗集客をしたいというニーズがあった。たしかに「アニソンカラオケ仲間募集!」的な投稿は隠れた人気ジャンルであり、twitter上にも「誰かとカラオケ行きたい」というつぶやきが5分に1回くらいは投稿されていたが、満たされていないニーズがそこにあった。サービス内で募集広告を掲載してもよいのだが、どうせならもっと大きくやりたいということになり、システムのOEM展開&サービス連携を行うことになった。そうして、WishScopeのカラオケ特化版、カラオケに行きたい人たちを興味関心でマッチングさせて店舗に誘導するソーシャルカラオケohacoが生まれた。O2O!今考えるとこれはO2Oじゃないかw例えば「新宿でアニソンカラオケしたい人、募集!」と投稿すると、ohacoやwishsopeからアニソンと定義されたミュージシャンに興味がある(SNSでいいね!している)該当地域のユーザーを自動集客、当日は見知らぬ複数の男女がカラオケに集合し、「はじめまして!」からカラオケが始まる。趣味が合う人同士のカラオケだ、もちろんめちゃくちゃ盛り上がり延長が続き、クーポンばかりの既存顧客よりずっと顧客単価が高く新しい価値を提供できるサービスで、顧客の歌唱データはアプリに溜まっていく。今風にいうとカラオケ業界のDXサービスだったのかもしれないw

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このOEM展開は毎月の売上に悩む自分たちにはありがたい話だった。初期開発費としてまとまった金額を事前に受け取り、サービス開始後は毎月ミニマムギャランティとしてサーバー代と人件費は賄える金額が固定で入る。さらに一定数の送客があればレベニューシェアで追加売上も入るアッパーに夢がある仕組みとした。このビジネスモデルはガラケーのi-modeビジネスなどでよく用いられていたもので、Disney時代にもパートナー企業様と同様の組み方をしてきて都合が分かっていた。こちらとしてもすでにあるシステムを転用できるため2人月くらいでサッと仕上げ、PRのみで一定まで伸ばすことができた。多いときには100人以上の規模のイベントが頻繁に開催されたり、カラ鉄が無い地方からわざわざ車で東京に来て参戦する人も多数出るなどして割と盛り上がった。しかし業務提携あるあるだが、提携先の経営環境や担当者変更による優先度の低減で伸び悩むこととなってしまい、大きな成長には至らなかった。事業提携で伸ばすのは本当に難しい。

ここまで創業して2年くらいだろうか。

そんなこんなで売上が多少上がってきたことでやっと、シェアオフィスBOATを出て、目黒駅前の築40年くらいの古いマンションに念願の自社オフィスを構えることができた。家賃18万円、普通のボロマンションで、ドアを開けるとお向かいのおばあちゃんと鉢合わせにするくらいのアットホームな住宅感だったが、みんなでIKEAまで行き、家具や椅子を選定してオフィスを作り業務を始めた時、やっと会社っぽくなったのを実感したのを覚えている。

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そんなこんなで最低限マネタイズの検証はできたものの、心の中にはひっかかりがずっとあった。

まだ十分なユーザーが集まりきらない段階で法人が入ってくるとCtoCサービスはユーザーが冷めてしまう。サービスのグロースに伴って売上や顧客体験もあがる設計ならよいが、そのようなビジネスモデルではなかった。サービスがスケールしない段階で売上を立てても、会社の寿命が少し伸びるだけで本質的な成長ではないという考えがあった。爆発的にサービスが伸びているわけではない。このままだと中小企業になってしまう。それはスタートアップとして最悪のシナリオだったので途中で売上を伸ばすのは辞め、本質的なサービスのグロースに時間を使うことにした。

次回、第11章〜最大の意思決定ミス
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