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第11章〜最大の意思決定ミス

振り返るとここで、大きな間違いを犯していた。シリコンバレーに憧れてスタートアップした僕たちは、気づかない間にシリコンバレー信者になっていたのだ。広告に1円もかけずプロダクトの力だけでアクティブユーザーが毎月120%増えていないと、プロダクトとして何かが間違っているという米国の偉いVCが言った発言をそのまま信じ込んでいて、まだ規模が小さいにも関わらずプロダクト改善のみに集中しすぎてしまっていた。

CTOから追加コメントいただいたので追記

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当時、Facebook広告が日本で開始したばかりであり手探りながら出稿テストしてみたところ、1アプリインストールあたりの単価が20円くらいだったのを記憶している。今考えると破格過ぎる!!(今は安くてもその10倍、大手アプリだと50-100倍は費用がかかるケースもある)。

スマホアプリ起業の勝ち筋は、この時代にこの格安チャンネルでジャンプできることにあったのだ

適格なタイミングで一気にマーケットシェアを取れるチャンス。まだ誰も目をつけていない割に優良な顧客が獲得できる最高のマーケティングチャンネルがそこに存在していたわけだが、オンライン広告でユーザーを獲得するのはイケてない、オーガニックで自然に増え続けるまでプロダクト改善を行う、という固定概念からその大きなチャンスを逃していた。踏めるときには踏まないと、そもそも勝負のステージにも上がれない。勝負するには、規模が必要だ。この大きな波を正しく理解し、全力で投資し、売上なんて無視して規模を10倍、100倍にした世界を見なかったことが初期の最大の意思決定ミスだった。C2Cサービスでネットワーク効果が効く事業、アプリのリテンションレートも悪くない、バイラルも期待できる、facebook広告に目をつけているプレイヤーも極少数というタイミングだった。今考えると、借金してでもフルBETするべき潮目だが、当時の僕たちや投資家含めて、そのチャンスを捉えきれておらず、逃してしまった。資金調達後でありプロダクト改善の日々が「楽しい」という感覚があったため、どこかで大きなリスクを取り、一か八かの勝負をすることに対する恐れがあったのかもしれない。

この潮目にフルBETして急成長を実現したのが、フリルとメルカリだ。このタイミングで大事だったのは、マネタイズでもなく、プロダクトグロースでもなく、顧客の将来価値から逆算して、ネットワーク効果が効き顧客は1つしかアプリを選ばないという1 winner take ALLという戦略の見極め、そして今踏むべきという大局観を持ち、獲得コストと将来価値を逆算して赤字でも大きく一気に投資する勇気。だった。広告が得意なチームだったフリルは、手堅く広告で伸ばしていっていたし、メルカリはそこをさらに大規模に前例もなく当たるかどうかもわからなかった(by 小泉さん)一か八かのTVCMマーケティングが功を成し、後発にも関わらず、速攻でトップに躍り出た。これはシリアルアントレプレナー軍団だから最悪、死なないという強み・経営陣の度量や、Go Boldというメルカリのバリュー、カルチャーがスタートアップの本質を掴んでいたことが大きい。メルカリはスタートアップとしての戦い方を熟知していた。

香港で知り合ったエンジェル投資家のEさんから事あるごとに「リスクなきところにチャンスなし」とアドバイスいただいていたが、プロダクトが一定の質で仕上がっていて拡大できるチャンネルがあるなら、思い切ってリスク取ってx10してみればよかった。こういうチャンスは、10年に1度しかない。

そんなこんなで、プロダクト改善にばかり時間を使ってしまいユーザー数が頭打ちとなり、ついにはMAUが下がり始めてしまった。今でこそメルカリ等C2Cアプリでお客様同士のトラブルが発生すると、CSがいい感じに介在してトラブルを解決してくれることがあるが、WishScopeはクラシファイド広告という事業の属性上、フリマアプリ=マーケットプレイスではなく、広告メディアという法的な整理だった。そのため、お客様同士のトラブルが発生しても、介在してトラブルを解決することは難しい立て付けだった。ユーザー数の増加と共にカフェで怪しい壺や秒速で1億円稼げる情報を売るような悪質なユーザーが増え、慣れていない初心者の方が騙されるケースが出てきた。カスタマーサポートをつけて片っ端から悪質な投稿を削除しているものの、サービスが一般に知られるほど、削除率は上がる。取引マッチング後のトラブル率があがってきたが、運営としては助け舟が出せないという状況になった。これは、とても苦しかった。何度も何度も電話で謝罪した。時にはご自宅に伺って謝ることもあった。特に、ブランド品やMacbook、iPhoneなど高額商品の取引で、そのような取引が目立ってきた。単純にユーザーを増やすにはFacebookだけではなくtwitterなど他のアカウントでのログインを増やせばよいが、サービスの特徴だったインタレストグラフの解析による自動マッチングが効かない、しかも匿名性により安全性も下がってしまうということから、登録アカウント拡大に踏み切れなかった。

資金も枯渇してきて、チャンスのあるfacebook広告も踏むに踏めなくなった。MAU横ばいのよくわからないサービスに高い金額を投資してくれる新しいVCはいなかった。政策金融公庫でなんとか2000万円を借金してきて、つなぐのが精一杯、という状況だった。世間では次々に新進気鋭のスタートアップが生まれている。創業2年も経つと急成長を続けていない限り世間からは忘れられる。オーガニック流入の頼みの綱だった、メディア露出もスッとなくなる。ここまでに事業が急成長していなければ、いくら資金調達したり、メディアに注目されていても、スタートアップとしては、相当厳しい。それでも受託開発などで食いつなぎ、なんとか再起するスタートアップも極稀にいるが、僕たちはそれはやらない約束だった。

そうか、これが「死の谷」ってやつか。

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画像引用: 情報通信白書

プロダクトが成長しないと社内のモチベーションもドンドン下がっていくのがわかる。創業メンバーの報酬・給料を創業期レベルに戻した。インターンも気を悪くして空気を読んで学業に戻ったり。仲良くやっていた業務委託の方との契約も止めて毎月の支出を最低限に絞る必要がある。元から悪い僕の性格は一層悪くなり、また社内の空気も悪くなる。病んでしまう社員も出た。気づくとプラベートでは起業前に結婚した人が家を去ってしまい、僕の人生も契約終了となった。

社長失格というか、人間失格な33歳だった。

次回、第12章〜フリマアプリへのピボット
君は、生き残ることができるか?

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