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# 第19章〜メルカリによるM&Aと土壇場の大失敗

海外のお客さまであれば光明があることは立証されたが広告チャンネルを潰されてしまったので、広告を使わず、垂直立ち上げができそうな仕組みを考える必要があった。そこで「スマオク セカイカート」というto B機能をステルスで急ぎ立ち上げた。簡単に言うと、他人のマワシで相撲を取る作戦だ。

日本のECサイトは越境EC対応を行うコストが高すぎて、これまで海外ユーザーの対応はスルーしてきているところがほとんどだった。海外から日本にしかない商品の型番や商品名を検索すると、海外のユーザーは日本のECサイトに着地するが、門前払いを食らっている状態だった。海外爆買ツアー客が訪問しているのに一切モノを売ることができないリアルのお店を創造してみてほしい。実際、人気カテゴリではPVの4割が海外から、なんてECサイトもあり、その損失は大きいのではないかと考えた。

僕たちは、JavaScriptのコード1行をWEBサイトにコピペして貼るだけで越境EC化が完了する「スマオク セカイカート」をECサイト向けに提供した。海外IPからのアクセス時のみ特殊ショッピングカートUIが表示され、翻訳、海外決済、海外配送など越境ECに必要な機能がスマオク上で無料で提供される仕組みだった。ECサイトでカートに入れた瞬間にスマオク側に商品ページを一瞬で生成し、必要なインフラを提供する仕組みだった。法人営業して導入していただけさえすれば、スマオクに海外ユーザーを無料で送客して決済することができる。海外からのPV比率が高いECサイトを片っ端からBizdevした。特にニーズの強かったブランド品系、アニメグッズ系などの大手ECサイトが導入してくれて、高いARPUの海外ユーザーを無料で獲得することができるような導線が敷けた。広告チャンネルがBANされ続けていた中の苦肉の策だったが、今考えても割と良い仕組みだったと思う。

そのtoB向けステルス秘策「セカイカート」を大手ファッションECに提案しに行った際に、先方の代表が僕たちとスマオクを大変気に入ってくださり、なんなら会社ごと買収したい、一緒に越境ECやろう、という話になった。普通に営業しに行っただけだったし、光明が見えてきたタイミングだったのですぐにYESとは言えないものの、可能性は検討してください、とお願いした。すぐに、CEO同士で2人で話がしたい、と社長室に呼び出され具体的な条件等の提示があった。これまで積み上げてきたバリュエーションを評価してくれる形だった。検討します、と伝え会合は終わった。その後、代表だけではコンプラ的に即断できない(そりゃそーだ。改めて最近コンプラ大事だと思うよ)ということで、CFOなど役員陣とも話を進めることになった。しかしそこはさすがに思いだけではなく算定ロジックも入ってくる。打って変わってコンサバ目な話し合いになった。

どちらにしろ資金調達は必要なタイミングだった。速攻で投資家陣に相談した。アドバイスとしては、絶対にこの条件であれば飲めて、事業を伸ばせるという譲れないスキームをこちらから提案しよう、という話になった。また、資金調達もM&Aも両方の可能性を検討しながら、その後の事業やザワットのやりたいことが実現できるかを考えていこうとなった。

M&Aの裏で資金調達に動くものの、前回よりもバリュエーションを上げた調達は足元の数字が追いつかず、素直には決まらない。事業提携も踏まえて提案するものの「シナジー」というのはなかなか作れないことも内心理解していた。

最初に声がかかった会社もCEOは乗り気なものの、役員にバトンが移ってから進捗が遅くなった。どうすべきか悩んだ。たまたま、起業家の先輩として、また同世代の友達として折を見て相談してきた、現カンカク社CEO(元メルカリVP/ソウゾウCEO/メルペイCPO)の松本さんとサシで年末に飲む機会があった。たわいもない話がメインだったが、友人として真剣に事業壁打ちに付き合ってくれたし、たしかクラシファイド事業の僕たちの失敗の話もした。お会計を済ませて帰り際に「他社っていうか、メルカリで一緒にやる、っていう選択肢もあるんじゃない?」という話が出た。この段階で「メルカリ」から資金調達またはM&Aということは一切考えておらず、アタックリストに名前すらなかった。まさに青天の霹靂だったが、一応具体的な検討をしてもらえると助かる、という話をして別れた

その翌日には、メルカリ役員で軽く協議してみたところ、前向きに進めたい意向です、と具体的な提案があった。早かった(MOVE FAST)。技術デューデリというものがありビビったが、技術力はたしかだったのでなんとかなると考えていた(エンジニア達は徹夜で準備していたけど)。年末には、問題がなければ会社として基本的にご一緒する方向で、と回答があった。ここまで会食から1週間くらいだった気がする。早かった(MOVE FAST)。年が明けてすぐにデューデリジェンスがはじまった。これもチームワークが良く、無駄な作業をなるべくこちらにさせない配慮のようなものが感じられるスマートな仕事だった。前回の海外VCからの資金調達時に有名弁護士事務所のハードなデューデリジェンスをしていたため信用の下地があったのかもしれないが、やりとりの節々や契約書に性善説を感じたのを覚えている。

実はこのデューデリジェンスと平行して、資金調達は別途、進めていた。しかし集められても「つなぎ資金」で数千万円をここから3ヶ月位かけたら調達できるかもしれない、という温度感で苦戦を強いられていた。株式の希釈化も気になっていた。セカイカートを生み出せたものの、to Bは時間がかかる。急成長チャネルだった広告アカウントが止まっているのが辛い。ここまででギリギリ創業者と信頼できるエンジェル投資家陣を合計して51%をギリギリキープできる状態だった。これ以上割り込むと、外部株主の意向が強まり経営の決議ハードルが上がってくるタイミングだった。

社内や投資家と議論したが、どの投資家もザワット経営陣が選択する方向性を支持する、と言っていただけたことがありがたかった。実は一部だけ、高値で普通株投資いただいていた投資家の方に、投資リターンが100%を割ってしまう形となってしまうことが分かった。経営陣に発生するリターンでお支払いしようと思い弁護士、税理士と相談したが、税務上の問題があったり、そんなに簡単ではないことが分かった。この件は、実は投資家陣の中でも意見が割れた。契約という紙を信じて投資をするビジネスで真剣勝負してきたのに、そのような特別対応をしてしまうと、これまでの意思決定が意味をなさなくなってしまうという意見と、方法はなんであれ起業家として預かったお金をちゃんと返したということが大事であると考える意見だ。最終的に創業初期からいざという時に頼っていたエンジェルの意見を踏まえて意思決定した。全体として出せたリターンは、決して華々しいレベルではなかったが、事業が継続でき、何より最後までついてきてくれた社員が一番喜ぶ形になるだろう、という見立ても合った。

投資家の皆さんとはここでお別れとなり、僕たちは引き続き小さな海賊船から大きな豪華客船に乗り換える、というか、船を横付けして同じ新大陸を目指す形となった。メルカリはまだ未上場で、しかもトラブル続きな状態だったため、上場は目指しているものの何度も挫折してきていると聞いていた。メルカリも僕たちと同じくスタートアップで、この先うまくいく保証はまだなかったし、全然何も整ってないし楽じゃないないよ、同じように綱渡りだよ、成果出さないと評価もされないよ、と釘を刺されてもいた

メルカリの監査法人によるデューデリジェンスが会社の一角で行われ、毎日その対応に追われるようになった。買収の日付が2017年2月17日に決まった。この日に株式譲渡の契約書にサインを入れにメルカリ本社に赴き、その直後、全社会でメルカリはじめてのM&Aを発表、僕が挨拶する段取りまで組まれていた。

だがしかし、その当日段取りまで完成しているなか、最後の最後の会計監査で、一部、会計/税務で計上差があり(あるある)、取締役会承認ではなく株主総会承認議案とフローが重めになってしまう状態であることが発覚し、買収の前提条件が満たせないことが発覚したのだった。2月17日の直前だった。先方の担当者に連絡したところ、「それはさすがにフォローできない、仕切り直しになるうと思う」との回答。これは修正対応で善処できたとしても、承認は最短で来月にずれ込む話だった。会議室の全員が凍りつき、僕は文字通りヒザから崩れ去り、床に倒れた。まじか、、、

千葉道場でお世話になっていたエンジェル投資家でコロプラ等で見事な経営経験やM&Aした経験もある千葉功太郎さんにすぐチャット相談。アドバイスは「その程度で案件がひっくり返ることはきっとない、今すぐCEOに直接会って、誠意を以て経緯を話して株主総会の対応を依頼すべし」だった。すぐメルカリCEOの進太郎さんに連絡するが、なかなか捕まらない。こうなったら、と思い本社の六本木ヒルズで進太郎さんが通るのを待ち伏せし、出てきたところを捕まえて話をした。「ああ、そうなんだ。でももうやるって決めたから、なにはともあれ、進められるよう急ぎ調整するよ」ということで、こちらが思っていたよりもスッと解決してくれて事なきを得た。細かい話なのでオンラインではニュアンスが正しく伝わらなかったかもしれないとを考えると、千葉さんのアドバイスどおり、誠意を以て直接、面と向かって話しをしにいってよかった。

その結果、予定どおり2月17日にはザワットはメルカリに合流することとなった。

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オフィスは六本木ヒルズ。2005年に新卒で入社したサイバードが六本木ヒルズが建ってすぐヤフー・楽天・ライブドア・Googleと一緒に入居したビルで、当時は不夜城・ヒルズ族、みたいな呼び名もあった。それから12年後、小舟とはいえ自分で創業した会社が六本木ヒルズに入居するとは、新卒の僕は予想すらしてなかったことを考えると、なんだかマンガみたいで感慨深いものがあった

次回、ついに最終章〜メルカリとソウゾウ
科学と魔術が交差する時、物語は始まる。

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