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第9章〜スマホファースト

2012年5月には、待望のiOSアプリが完成した。当時のアプリはAppStoreのランキング上位にいかに食い込むかで毎日のダウンロード数が全然違う世界。初動を作るために当時オフィスでお世話になっていたVOYAGEグループや出資いただいていたサイバーエージェントグループにマーケティングの協力をしていただいた。今考えると50-100万/月くらいの予算感にもかかわらず、激安でサポートしてくれて感謝しか無い。無事にランキング1位を取ることができ、会員数も伸び始めた。

しかしここで大問題が発生。想像以上に会員が急増し投稿が止まらないレベルになった。当時無料アプリランキング1位を取ると、だいたい1日あたり3万〜7万インストールは獲得することができた。これまではITリテラシーが高めの大学生や、ネット業界のアーリーアダプターのクチコミのみでジワジワ広がってきたサービスだったため、丁寧にサービス利用者の質を保ちながらユーザーを増やせてきたが、スマホアプリは誰でもダウンロードできるので、ネット業界とはほど遠いカジュアルなユーザーが日本中から登録してきた。

これまでは毎日数十件だった投稿が、10Xで伸びた。しかし中には投稿の質が悪く、ユーザーに不快感を抱かせるようなものも多数あったため、スマホアプリを公開してから3日間、家に帰れず投稿の精査、消込、CS対応、抜本的な投稿制御機能の開発に追われた。ごく一般的な人が「お願い」を投稿すると、カテゴリーや投稿フォーマットは無視され、ドラゴンボールの神龍にウーロンがお願いするような、欲望深く雑多な投稿が溢れてしまった。

Facebookログインのみという認証で一定の質の担保を行っているつもりでいたが、世間一般の人からしたらfacebookなんてtwitterや2ちゃんねると変わらない世界で、真面目に使っているのは極一部のビジネスマンだけなのだなと気づいた。世界はこんなにも欲望にまみれていたのだった。いわゆる(運営から見た)不正投稿の嵐だ。

投稿制御の機能をまだ作っておらず、投稿後にCSメンバーが目視確認しているレベルだった。不正な投稿を見逃していたら、コミュニティが腐るのは一瞬。そこからほぼ2日徹夜状態で投稿制御機能、NGワードチェッカー、監視機能を作り上げた。新卒時代は1日14時間のハードワークもこなしてきたが(永久痔主の勲章は得た)が、さすがにこの3日は、死ぬかと思った。

3日目の朝に各種制御が効いてきたこと、ランキングが下がってきたことから、投稿が落ち着いてきた。帰路につく際にみんなで渋谷の道玄坂下にある立ち食い寿司をランチとして食べたが、立ち食いできず食べながら寝落ちし膝から崩れ落ちるくらいめちゃくちゃ眠くて辛かった。しかし謎の高揚感があった。

やはりスマホアプリはスマホWEBとは全く異なる勢いがあり、サクサク動くUXはネイティブアプリの賜物。しばらく開発はスマホアプリに集中していくことにした。

そろそろエンジェルから預かっていた1500万円の資金も尽きる頃合いになっており、資金調達が必要になった。残り3ヶ月くらいしかランウェイ(会社の運転資金)がなかった。リードVCだったCAVの担当者と資金調達シナリオを作っていく中、VC業界の最大手から出資の話があった。今となっては信じられないかもしれないが、当時は第三者割当増資で1億円を調達するだけで、「スゲー!!!」と業界が驚くような時代で、スタートアップに十分な資金が回っていなかった。

そんな中で2億円出資可能とのことで一瞬テンションが上がったが、契約の詳細を詰めていくと、かなりこちら側に不利な条件であることが分かった。エンジェル投資家に相談すると、「この段階でこの条件提示は色々とありえない」という話だったので丁重にお断りした。たしか1億円使ったあとの追加の1億円はコールオプションとなっており、気がつくとその時点で半数ほど株式を取られる仕組みだった。今ではそんな提案をシリーズAのスタートアップにするだけで、業界では黒い噂が立ってしまうかもしれないが、当時は別に普通のことだった。僕たちは何にも分かっていなかったが、エンジェル陣が契約書を読み解いてくれて、今あえて選択すべきではないということが分かった。

振り出しに戻って資金調達を進めたが、最初に最大手から2億と大きい金額で提示されたため、会社の時価総額の提案もやや強気になっていた。スタートアップの株価というのは不思議なもので、時価=会社が価格を決める。僕たちの会社は今、5億円の価値はあります。今回、事業の調子が良く加速するために追加の資金1億円が必要で、3社限定で合計10%だけ株を発行して増資します。となると1株が今の10倍の●円になります。将来IPOするから安いです。今のうちに買っておきますか?そんな話を、飲むか飲まないかの世界だ。ある意味、錬金術と言われるのはそのためだ。そして、プロダクトが出てからの初期のCEOの仕事はしばらくこんなお金の話を投資家と毎日続けてお金を引っ張ってくることが主業務となりがち。

いわゆるシリーズAの調達(PreシリーズA?)となったが、まだサービスが出たばかりで売上もなく、KPIも小さい中での資金調達は地獄だった。10社に話をして1,2社がしっかり検討を進めてくれるのであれば、まだ良い方ではないか。VCもスタートアップみたいなもので、ビジョンがある。投資のテーマ(EC・AI・環境など)が合っているか、投資家から集めたファンドの資金を運用しているのでいつかは投資家にお金を返す約束をしている。そのファンドの満期の期限と、Exitと呼ばれる彼らの持ち株の売却時期(IPO,M&A)とのタイミングの兼ね合いがあったりして、なかなか出資がバッチリ決まるというのは難しい。少し前まで勢いよく出資をしていたVCが、しばらくすると窓口を閉めていたりもする。それでもずば抜けて伸びている会社には出資してくれるのだが、僕たちは起業して1年ちょっと経っていたにも関わらず、まだKPIや売上ではそれを証明できていなかったが、スマホアプリの初動が良くグラフが垂直だったため、結局数千万円を銀行系VCを2社から調達できる結果となった。

銀行系VCの中の人と聞くと、正直雇われてるVCという印象が強い。独立系VCの代表は時には自分で銀行から数千万、数億円を借金して自らリスクを取り投資資金を作っている起業家に近い存在なのに対し、一般的なVCはリスクが無い会社員の立場の人が多い。そんな銀行系VCの中でも、バリバリ仕事してくれて本当に起業家の親身になってくれる人がいるとバイネームで先輩起業家に聞いていて、その方達なら、と出資を受けることにした。このときに出資決定してくださったのが当時みずほキャピタルの横田氏、SMBCベンチャーキャピタルの服部氏。お二人とも今はエンタメ系IMAGICAのCVC,OLMと、独立系VCの雄、W Venturesに移られて大活躍されていらっしゃる。最後まで並走してくださり感謝しかない(最後だいぶご迷惑をおかけしましたが...)。横田さん、服部さんの出資により、またしばらくはプロダクト開発に集中できる体制に戻った。

次回、第10章〜マネタイズとグロース
海賊王に、俺はなる!

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