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実践!地頭トレーニング#10 トマト (解答編続き)

こんにちは、はりぼーです。本連載では2019年に会社の若手3人と一緒に行った地頭トレーニングの内容を公開していきます。初めての方は本連載の趣旨をご参照いただけると幸いです。

登場人物
はりぼー(私):地頭トレーニングの指導者、元外資系戦略コンサルタント
まひる (ま):若手同期3人組のリーダー的存在の女性、思考は少し苦手
良太  (良):入社3年目の営業マン、考えながら走るタイプの切れ者
修   (修):控えめな性格の開発者、時々独創的なアイディアを出す

トマト解答例2 (市場規模推定)

(私)「それでは続いてまひるちゃんの番だね。まずはホワイトボードを使ってロジックを書き出してみてください」
(ま)「はい、私は以下のロジックをベースに、トマトの年間の消費市場規模を2800億円と推定しました」

トマト03

(ま)「まず、トマトにはそのまま生で食べる素材用のトマトと加工食品で使用されるトマトに分けて考えました。素材用のトマトについては、家庭用として消費される分とレストラン(特にイタリアン)で消費される分に分けました。一方加工用は主にケチャップとトマトジュースに多く使われると考え、それぞれについて個別に市場規模を推定しました」
(私)「ふむ、使用用途の切り口からセグメンテーションしたんだね。基本的なロジックは(消費人口)x(一ヶ月の消費数)x(単価)だけど、4つのセグメント毎でパラメータ設定の条件が異なるね」
(ま)「はい、まず素材用トマトについて、家庭用の消費人口は全国の家庭55百万世帯をベースに考え、月の消費量は平均で3個/月・世帯と考えました」
(修)「僕の仮定が旬の時期が一人あたり2個消費でそれ以外が1個だから、世帯人数にもよるけど大体同じかちょっと少ないくらいだね」
(ま)「そうね。私も周りに聞いて大体月に3個ぐらいと仮定したけど、10日で1個食べるペースだから、やっぱり日本人はそれほどトマトを食べてないと感じたわ」
(ま)「次にレストラン消費について、イタリアンで主にトマトが使われると想定しました。全国で67万店舗ある飲食店のうち以下の総務省統計局のウェブサイトを参考にしてイタリアン・レストランの数を西洋料理店の約半分である3%と考えて2万店舗としました」

総務省統計局 - 一般飲食店の特色

(ま)「イタリア料理店舗の規模によってトマトの使用量は異なるけど、平均で毎日100組の来客数があり、その内トマトを使う料理を食べる人の割合を3割として考え、一組当たり1個のトマトを消費すると仮定して考えたの」
(良)「まぁサイゼリヤのように沢山トマトを使うチェーン店もあれば、個人経営のイタリア店もあるから平均するとそのくらいの使用量かもね。ただ規模からすると家庭に比べてレストラン消費は一桁少ないね」
(ま)「そうなの、トマトの購入単価も家庭用途の比べて低いと思うから、それも考慮すると家庭消費用のトマトの市場規模の方が圧倒的に多いとわかったの。計算するだけ無駄作業になっちゃった」
(私)「いえ、そのように検討している事のおおよその規模感を把握することをビジネスの議論ではオーダー・オブ・マグニチュードを確かめると言って、非常に大事な考え方です」

オーダー・オブ・マグニチュード

オーダー・オブ・マグニチュードは通常エネルギーの大きさを表す言葉で、地震が起きた時にマグニチュード 5とか言ったように使いますね。

ビジネスのディスカッションにおけるオーダー・オブ・マグニチュードとは、検討している事柄の規模感やインパクトを意味する非常に重要な考え方です。

よく新規事業のディスカッションなどをすると、奇抜性や技術的に面白いビジネスアイディアに議論が集中し、あれやこれやと長時間かけて全員がのめり込んで話しが盛り上がる場合があります。ただその後、売上予測を試算してみると、実はとても小さい事業アイディアの話をしていたことに気がつき「それまで行った長時間の議論はなんだったんだ」みたいなケースをよく目にします。

早い段階で簡易的にインパクトの規模感を出して、これから時間をかけて議論するに値するかどうか?を検討しなかったことが原因で、現実では本当によく見かけます。

上のまひるちゃんのロジックにおいても、最初はレストランで使用されるトマトの量を増やすことを意識してセグメンテーションしたかもしれません。もしかしたらレストランでのトマト使用量を増やす施策を先に閃き、それを検証するためレストラン・セグメントを切り出して考えたのかもしれません。

ただ実際に市場規模を試算したところ、家庭用セグメントに比べて10分の1だと判明し、いくら素晴らしいアイディアだとしても全体に与えるインパクトが小さいため、これ以上深入りするのはやめたのだと思います。これは素晴らしい決断です。インパクトの小さい話しはいくらしても時間の無駄だと見切り、スパッと他の考えに切り替える勇気がビジネスにおいては必要だからです。

新しい施策を考える時はなるべく早い段階でオーダー・オブ・マグニチュードを検討する習慣を身につけると思考のスピードがアップします。

トマト解答例2 (市場規模推定の続き)

(ま)「では続いて加工用食品のケチャップについて、まず消費人口は家庭55百万世帯を対象としました。以下のウェブサイトからケチャップ一本あたりトマトが14個使われているようなので、それを前提に2か月に一本の頻度で購入すると仮定しました。またトマトジュースは周りを見ると10人に1人くらいが飲んでいるから、家庭世帯の10%を消費対象としました。3日に一度200mlのジュースを1本飲むとして、下記のウェブサイトから200mLのジュースにトマトが4.5個使用されているとあったので、それをベースにトマトの消費量を推定しました」

トマトの使用量
ケチャップ: https://bit.ly/35Hyi4G
ジュース : https://bit.ly/2RzguAo

(良)「ロジックとして筋は通ってそうだけど、加工用のトマトの販売単価が7~10円なのは何故?低すぎない?」
(ま)「私も最初はおかしいと思ったの。でもケチャップの値段が170円、200mLのトマトジュースの値段が110円くらいだから、そこから原材料のトマトのコスト比率が50~60%ぐらいと仮定するととどうしてもそのくらいの値段になるの…」
(私)「ふむ。おそらく、流通チャネルの違いだね」
(ま)「流通チャネルですか?」
(私)「そう、素材用のトマトは通常スーパーや八百屋で販売されているよね。そこに行き渡る前に流通の仲介を行う卸業者を経由しているから、そのコストやマージンが上乗せされ高くなるんだ。農協(JA)が有名だよね。一方で加工用のトマトはケチャップやジュースを製造する企業が農家と直接契約し、買い取りするから流通マージンを省くことができるんだ」
(良)「それでは農家で生産された原価10円のトマトが流通マージンによって100円になるのでしょうか?」
(私)「おそらく流通マージンは50%ぐらいだろうね。なので、素材用のトマトの生産原価は40~50円くらいじゃないかな」
(ま)「確かに田舎の青空市場で買うトマトは50~60円くらいだわ。ではなぜ加工用のトマトの原価は更に5分の1になるのかしら?」
(私)「それは加工用のトマトは企業が全量買い取るからだと思うね。一般的には農家は毎年の作物の出来具合やその年の天候あるいは消費者ブームによる需要の変動によって、販売量が読めないリスクを抱えています。しかし全量買い取るとなるとそのリスクが回避できるので、その分値引きしているのでしょう」
(ま)「なるほど…トマトの販売一つとっても、そのような背景があるのですね。なんか今までそんなことも知らないまま、私生きてきてたわ」
(私)「ふふふ、世の中の仕組みを深く知れば知るほど、新しい気づきを得られ、より思慮深く考えられる人材になります。社会に出ても勉強し続ける意義はそういうところにありますので、先ずは地頭トレーニングを頑張ってくださいね」
(ま)「はい!」

トマト市場規模2倍の施策2 (トマトサプリ)

(私)「さて、トマトの市場規模が推定できたところで、まひるちゃんはここからどうやって市場規模2倍の施策を考えましたか?」
(ま)「最初はレストラン・セグメントを増やす施策とか考えたのですが、規模が家庭の10分の1でインパクトに欠けるし、加工食品セグメントは量は出るけど取引単価が低いので今よりも更に量が増える施策が必要だと考えました」
(修)「そうだよね。これを見るとやはり家庭用セグメントの攻略かな?そうすると僕の案と似通って来るね」
(ま)「そうね。素材としてのトマトの消費量を増やす観点から修の案は素晴らしいわ」
(修)「有難う。みんなのおかげだけどね。だとしたら加工品セグメントで何かアイディアはないか?ということだね」
(ま)「そうなの。単価を上げることは難しいと思うから、もっとトマトを消費する加工品はないか?考えたの」
(ま)「そしたら一つあったわ、トマトから抽出したリコピン・サプリよ。前回話した通りリコピンは抗酸化効果で健康やアンチエージング効果で人気なの。それに以下のウェブサイトで調べたらなんと1日(3粒)のサプリになんとトマト10-20個使用して使っているの」

キッコーマン トマトのちから

(修)「おお、すごい!たった3粒でケチャップよりトマト消費するんだね、一月換算すると90粒で300-600個になるからインパクト大きいかも」
(良)「ただ問題は消費人口だな。月に3500円もするサプリを買うか?確かにトマトのリコピンの効果はわかるけど他にもサプリあるし」
(ま)「そうね、でもこう考えたらどう?先ずは今トマトジュースを飲んでいる5百万世帯セグメントをターゲットにするの。少なくともトマトやリコピンの効果を意識しているからこそ今トマトジュースを飲んでいると思うの。その場合ジュースからサプリへスイッチする可能性があるわ」
(良)「確かにそのセグメントはアプローチし易いな。仮に5百万世帯がジュースの代わりに一袋(90粒)のサプリを毎月購入したとすると、月のトマト使用量は300-600個/世帯になるから、単価が10円だとしても月に150-300億円、年間1800-3600億円の市場規模アップになるから2倍近くなるな。でもやっぱり価格が障壁となってスイッチは難しいのでは…ジュースだと月10本買っても1000円ちょっとだし」
(ま)「そこよね…いくらリコピン10倍でも余程のことがない限り3倍以上値上がりするサプリには手を出さないよね」


(修)「……例えば政府から補助金出すとかどうかな?だって主語は農林水産大臣だから、トマトサプリ販売増のために補助金出して購入を促せることぐらいできるんじゃないかな?」
(ま/良)(!!!そうだ主語は農林水産大臣だ)
(良)「確かにそうだよ。仮にジュースとの差額2500円/月を政府が補助するとしたら、5百万世帯に対して一年間補助する金額は1200億円になるね。農林水産省は毎年非公共事業の予算1.8兆円つけているから不可能では無さそうだ」

農林水産省の年間予算

(ま)「修すごいわ、ありがとう。その施策なら市場規模2倍にできそうだわ」
(修)「いえいえ〜今回の主語が農林水産大臣だからその視点をずっと意識してたら閃いたんだ」
(私)「修君良いですね!相手の立場になりきって考えると言うのはとても有効です。また、まひるちゃんも加工品セグメントの使用量を増やすことに着目し、リコピン・サプリを思いついた発想は素晴らしいですよ。そのおかげで3人での良い議論を引き出せました」
(ま)「実を言うとサプリ案は実現が難しいかと思っていたので、上手くまとまってホッとしました」

(私)「ふむ、修君、まひるちゃんと良い施策が出ましたね。では大トリとして良太君の回答に行きましょう」
(良)「はい、自分のロジックは…」

さて今回は以上とします。今回の最大のポイントは修君が農林水産大臣になりきって考えたことですね。ビジネスにおいても自分の観点からは思いもよらない考えを、立場を変えるとすんなり閃くことが多々あります。普段から顧客、サプライヤー、上司、社長、他部署等々の様々なステークホルダーの立場に立って発想する習慣をつけると、考え方の引き出しがグッと広がると思いますので、是非トライしてみてくださいね。

次回も引き続きトマトの解答編3をお話しします。それでは、また次回!

(表紙写真: ドイツ ノイシュヴァンシュタイン城)

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