ちっちゃな画面の内と外 day56
5/8 (Wed.)
#66日ライラン day56
実家の母から「元に戻りました」とLINEが来た。
なんのはなしですか、ではなく、今回は極めて普通の話で、二日前に母のスマホが壊れて画面表示がうんともすんとも動かなくなり、母は凹んでいたのである。
この世代の人には特に珍しくはないが、母もスマホなどのデジタル関係の扱いは苦手だ。
ゴールデンウィーク最終日、私たち家族が帰省していたので、待ち受けの写真変えて欲しいんだけど何かいい写真ない?と聞かれ、ちょっとまってー今送るから、と探していたら、突然「わ、真っ暗になって動かなくなった!」と慌て出した。
理由は分からない。ただ、もしかしたら濡れた手で触っていたのが原因ではないか、という結論になった。
普段、携帯を携帯してなかったりするような母なのに、「写真も変えて欲しかったし、◯◯さんにメール(LINEのこと)も送らないといけないのに‥」と、結構しょんぼりしていた。
私もつい最近スマホを替えたところなので、普段頼りにしているツールがうまく使えなくなるという不安はとてもよく分かる。
ただ、正直母は「そんなん、使えなくたって1日や2日くらい困らんわ」というタイプの人だと思っていたので、意外だったし、少し戸惑った。
「明日、お店に持ってって見てもらったらいいって。時間経ったら動くこともあるし」と、私も父も、同じく帰省中だった弟も同じことを言って、電源入れ直したり、あちこち長押ししたりしてみたが、結局その晩、母のスマホはかたまったまんまだった。
母も、スマホのことを時々思い出しては、ため息をついたりしていた。
そのスマホが直ったらしかった。
とりあえず、良かったね⭐︎とスタンプを返す。
昨日の午後。仕事を終えて、最寄りのバス停から家まで歩いていた時、ちょうど子どもたちの通っている小学校の下校時間と重なり、ランドセルの小学生がぞろぞろと歩いている中を私も歩いていた。
前方で、高学年らしき子たちが数名でかたまって道をふさいでいる。
追い抜かそうと、ひょいと隣から様子を伺うと、三人が三人ともスマホを触っていた。
我が子の通う小学校では原則スマホは持たせないことになっている。持たせる時は保護者の同意書が必要なはずだ。
彼らがそんな書類を提出した上で持っているのか、どんな理由でスマホを登下校に触っているのか、私には知る由もない。
でも、見る限り、緊急の用事があるようでも、保護者と下校についての連絡を取り合っているようでもない。あったところで、高学年になって帰り道を塞いで下向いてスマホ触っていていい理由にはならない。
「すいません」とあえて声をかけて追い抜かした。
もちろん返事はない。
数メートル歩いた。
また別の女の子が小さな画面を見つめながら歩いている。
曲がり道まで来た。その角には最近できた格安スーパーがあり、2階が店舗、下は駐車場になっている。
駐輪場の端に、二、三人が並んでランドセルを置いて座っている。
全員が、一様に下向いて、小さなデバイスを操作していた。
学校から家までの道って、
友だちとお喋りしたり、何か拾ったり、
石ころ蹴ったり、葉っぱちぎったり、
その日の授業のことや、教室のお友だちのことや、宿題のことや、今日家へ帰ってからのことやなんか を、ぽやーっと頭に浮かべながら帰るものだと思ってた。
彼らは一体、何を見ているんだろう?
彼らに、それを与えたのは大人だ。
彼らを追い越して、家までの道を歩いた。
少し行くと、背中よりランドセルの方が大きい子が、男の子と女の子、2人並んで歩いていた。
前方で一人の女性が手を振った。男の子の方のお母さんらしかった。
「なぁー、だんごむしって、なに食べるん?」
「はっぱちゃう?」
「だんごむし、はっぱ食べるかな」
「何のはっぱ食べるんかな」
「あのさー、これ、虫かう、箱みたいなんに入れてお家でかってもいい?」
「そうやなぁ‥」
「ダンボールみたいな箱でも、いけるかなぁ‥」
男の子が、優しくグーにしている手の中には、どうやらダンゴムシがいるらしかった。
何にもないような帰り道でも、足元にはありさんやだんごむしさんがいるよ。
だんごむしさんが食べたり、ありさんが隠れたりするような、葉っぱや素敵な石ころもあるよ。
スマホの中には、何でもあるように見えるけど、
真っ暗になったら何にもないよ。
その親子も追い抜いて歩いていくと、もっと先の方に我が家の息子たちが歩いているのが見えた。
近所の顔なじみの友だちもいる。名前の知らない女の子もいる。多分同級生だろう。
敢えて声をかけずに、近づいていった。彼らは何だか分からないがケラケラと笑いながら、追いかけっこをしたりお互いのランドセルをパシパシ叩き合ったりしていた。
もう少しそのままでいて欲しい。
あ、でも傘振り回しながら帰るのはやめて。危ないからね。
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