あめですね
ある週末。天気予報通り夜から降り出した雨は止む気配がない。
そんな日の朝は静かで、子どもたちもなかなか起きてこない。
まだまだ、朝のホットコーヒーが美味しい季節だ。
このままもう少し、たまった新聞でも読みましょう。
と思ったら寝室から呼ぶ声がした。
次男だ。
彼は朝が早い。隣で寝ている長男に遠慮してか、できるだけ小さい声で呼んでいる。
「ままー」
「はーい」
「まま、こっちで、もう一回いっしょに、ねて」
‥やっぱり。
今朝は一応わずかでも一人時間がとれたので、(カップに珈琲はまだ残っているけど)いいよーと返事をして布団を見に行く。
もう一回一緒に寝て、と言っているものの、もう寝る気がないことはその目で分かる。まだお布団でごろごろはしていたいけど、自分から起きたから機嫌はよくて、ただこの時間にママを独り占めしたいんだろうなぁと思う。
「ママ、オレ思いついたことがあるわ」
ん?何を思いついたん?
「雨の歌を思いついた‥」
へー、そうなん。聞きたい。
「あのな‥
『あめあめ だいすき。とんとんとん』って始まって‥」
ほぅ、
「『あめあめだいすき とんとんとん
あめあめきらい ぶーぶーぶー』
っていう歌を思いついたんやけど」
へー、そうなんや。
すごいねぇ。
と相槌を打ちながら、あることに気づいた。
このうた、聞いたことがある‥
次男は何も気がつかずに続ける。
「あのな、続きも考えた。
赤いかさ、んー、『赤いかさ、赤い長ぐつ。らんらんらん』。らんらんらん。すごい?」
うん、すごい。いい歌だね。
次男はまだ、あのなー、そこには、かばさんとかもいてなー、みんないっぱいいててなーと楽しそうに続けている。
思い出した。
それは、1年生の最初の頃に習う、国語の教科書に載っている詩。
あの時、まだ連絡帳も自分の字では全部はちゃんと書けなかった頃。
ツルツルの新しい教科書のページを開けて、ギューッと手で押して型をつけ、今日の本読みはここ!と言って一生懸命読んでいたなぁ。
一年経って、もうどこで読んだのか、いや読んだことさえ忘れて、それでもしっかり彼の頭の中に残っていたんだろう。
そして雨の降る朝に、その言葉のリズムとイメージとが思い返されて、まるで自分が作り出したように、嬉しくなったんだろうな。
子どもの時のことを、何にも覚えていないからと言って、だから無駄だとかどうでもいいとは思わない。
だからと言って、特別習い事にお金をかけたり、あちこちお出かけしてあげなくちゃということでもなく、
絵本も、お歌も、遊びも、そんな一つ一つのちっちゃいこと全部が、彼らの頭の栄養になっているのだと思う。
私は、本は邪魔になるから、オモチャはすぐに遊ばなくなるから、だから全部タブレットでいいのだとも思っていない。
もちろん、読み上げ機能や、拡大機能はアナログの本では敵わないから、そんな利点はどんどん活用したら良いと思うが、
手触り、重さ、ページの厚み。めくった時の匂い。そんなのも全部含めて本が好きだなぁと思うし、
子どもたちの頭に無意識のうちに残るものも、そういうところからじゃないのかなぁと思っている。
雨の降る音って、なんかきれいやでなぁ‥といつになくロマンチックに語る次男は、夢を見ているみたいにフワフワと嬉しそうだった。
ヘッダーのイラストは、国語の教科書に載っている、とよたかずひこさんのものです。
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