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【64枚目】宇多田ヒカル『BADモード』

宇多田ヒカルの8枚目のアルバム『BADモード』(2022)

1月19日にデジタル先行配信された本作。だらだらと書いてたら遅くなりました。めちゃくちゃ話題になってますね。宇多田ヒカルの作品の中でもベストでは?宇多田ヒカルはTwitterで「今までで一番好きなアルバムかも」とつぶやいてますね。

本作ではこれまでにも度々双方の作品に関わってきた小袋成彬のほか、A・G・クック(A.G. Cook)、フローティング・ポインツ(Floating Points)らが共同プロデューサーとして参加している。また本作の収録曲でもっとも古い「Face My Fears」は、スクリレックス(Skrillex)とプー・ベア(Poo Bear)との共作となっている。

宇多田が本作の制作期間に聴いていた音楽は「クラブ、ダンス的なもの」が多かったといい、特に「Find Love」を作ってる時期はMoodymannGlenn Undergroundなどのハウス・ミュージックをよく聴いていたという

宇多田ヒカルの音楽ジャンルはR&B寄りのJ-POPって感じですかね。本作はエレクトロニカ、ハウス色が強めな内容。制作期間中によく聴いていたハウス・ミュージックの影響もあるとか。外部のアーティストも参加していて小袋成彬、フローティング・ポインツとの共作では上品、大人な印象、スクリレックスとの共作では豪華で弾けた印象を受けます。どの曲も個性が出てて良いですね。そこに宇多田ヒカルの最強の歌声が入って強度のある作品に仕上がってます。単純に歌が上手いって武器が強い。芯があってどこか孤独な歌声も素敵です。特に小袋成彬との共作は宇多田ヒカルっぽさが出てるような、歌主体な感じがします。

※個人的にフローティング・ポインツとの共作が好きです。昨年リリースされたFloating Points『Promises』も聴いてみました。極上の心地良さ。落ち着く。ジャンルはアンビエントになるんですかね。新しくも普遍的な良さを感じます。まだ良さを理解するのに時間がかかりそうですが、何回も聞き返していきたい。寝る前に聴きます。

本作は主として成長、自己愛、セルフ・パートナー、アクセプタンスをコンセプトとしている。

作品から陰鬱なムードを包むような温かさ、柔らかさを感じます。どっぷりノれる陶酔感もありますね。高尚な音楽にもクラブで踊れる音楽にも聞こえる不思議な感覚。スッと自分の耳に入ってきます。ほとんどの曲はパンデミックが始まってから書かれたもので、日々の生活感が楽曲に反映されているそう。歌詞に出てくる身近なワードも聴きやすさに関わってくるのかな。

あとジャケットが好きですね。めちゃくちゃ着心地のよさそうなスウェット。丁寧な暮らし感。ジャケットの大喜利をTwitterでよく見ます。ゾルディック家の写真に似てるってツイートが好きです。

特に好きなのは「BADモード」「気分じゃないの(Not In The Mood)」「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」です。

1.BADモード

フーっとため息から爽やかな曲。キャッチーなサビ。ベースと管楽器が軽快で良い。心地よいポップに満ちた曲。この曲は歌詞が好きですね。BADな状況でも幸せを祈る詩。”ネトフリ”とか”ウーバーイーツ”とか身近なワードが好きです。”diazepam”(精神安定剤)なんてワードがポップソングに入るのも良い。あとイントロがSteely Danの「Deacon Blues」に似てる。

”メール無視してネトフリでも観て パジャマのままで
ウーバーイーツでなんか頼んで お風呂一緒に入ろうか”
”今よりも良い状況を 想像できない日も私がいるよ”
”Here’s a diazepam We can each take half of”
”エンドロールの最後の最後まで 観たがる君の横顔が
正直言うと 僕の一番楽しみなとこ 楽しみなとこ”

2.君に夢中

ピアノの音色が綺麗で怪しい。そこに低音の効いたシンセやサイレンみたいな音が混ざる。ドキッとする闇のある詩にマッチしてます。宇多田ヒカル節が出てる。コーラスが綺麗で悲しい。1:20~、泡がぶくぶく鳴ってる音が沈んでく、もがいてるようで良いと思います。

”嘘じゃないことなど 一つでも有ればそれで充分
どの私が本当のオリジナル? 思い出させてよ Oh baby, baby”
”君に夢中 Oh 人生狂わすタイプ
Ah 来世でもきっと出会う 科学的にいつか証明される”

3.One Last Kiss

『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』のテーマソングで有名ですね。「喪失」がテーマの曲。聴くと前向きな気持ちになれます。少ない音数で切なさ全開のイントロ。前半が好きです。音の厚みが絶妙。クラブミュージックのようなノリも特徴ですね。”私だけのモナリザ”って詩が好きです。

※ビデオは、『シン・エヴァンゲリオン劇場版𝄇』総監督の庵野秀明が監督を務めた。

4.PINK BLOOD

機械的で不思議なリズム、グルーヴが気持ちいい。”PINK BLOOD”のコーラスに詩を乗せる感じがHIPHOPっぽい。2:15~、メロディアス。詩がかっこいい。後半の畳みかけが熱い。ファイトソング。

”他人の表情も場の空気も上等な小説も もう充分読んだわ”
”私の価値がわからないような 人に大事にされても無駄
自分のためにならないような 努力はやめた方がいいわ”
”心の穴を埋める何か 失うことを恐れないわ
自分のことを癒せるのは 自分だけだと気づいたから”
”サイコロ振って出た数進め 終わりの見えない道だって
後悔なんて着こなすだけ 思い出に変わるその日まで”
”サイコロ振って一回休め 周りは気にしないで OK
王座になんて座ってらんねえ 自分で選んだ椅子じゃなきゃダメ”

5.Time

感情的で壮大な曲。力強いソウルな歌声。00年代の「宇多田ヒカル」っぽさが強い感じ。不満や悲しみが溢れ出てる。リズムもちょい歪。3:35~、流れがガラッと変わって面白い。4:10~、怒涛のコーラスが気持ちいいです。

6.気分じゃないの(Not In The Mood)

ジャズを感じさせる上質なドラム。残響が心地いい。ダウナーで神秘的なムード。詩から淡々と景色が映し出される。”差し出されたコーヒーカ「ッ」プ”の音が途切れるところが印象的でした。これもコーラスの"ohoh~"がどちゃくそ気持ちいいです。

「気分じゃないの (Not In The Mood)」では、締め切り当日の朝になってもなかなか歌詞が書けずにいたなかで、街を歩き目にしたものをそのまま綴っていくという宇多田にとって初の試みがなされた。また本楽曲でも宇多田の長男がボーカルで参加している。

7.誰にも言わない

6曲目に近いテンションで聴ける。神秘的。浮遊感。ドープ。ちょこちょこ入るサックスがムーディーですね。3:00~、民族的な音が入ってきてかっこいい。綺麗な曲ですけど歌詞がまたエグい。「誰にも言わない」って曲名が好きです。

”一人で生きるより 永久に傷つきたい そう思えなきゃ楽しくないじゃん
過去から学ぶより 君に近づきたい 今夜のことは誰にも言わない”
”明日から逃げるより 今に囚われたい まわり道には色気が無いじゃん”

8.Find Love

流れが変わって軽い曲。電子音がポンポン鳴ってる奥で上品な音が聴こえて面白い。3:20~、クラブミュージックぽさある。重低音が良いですね。

9.Face My Fears (Japanese Version)

ピアノのメロディが綺麗で力強いですね。1:00~、スクリレックス感強い。ド派手で弾けてます。派手なのにどこか切ないのが良い。宇多田ヒカルの歌声とダブステップの組み合わせで化学反応が起きてる。

10.Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー

ずっとフラフラしながら聴いていたいディープハウス。12分と長尺な曲ですが永遠に聴ける。陶酔感。浮遊感。くるりの「ワールズエンド・スーパーノヴァ」っぽいような。大作感があります。

”ぼくはロンドン、君はパリ この夏合流したいね
行きやすいとこがいいね マルセイユあたり Somewhere near Marseilles”

※今回ボーナストラックはカットしました。「Somewhere Near Marseilles ーマルセイユ辺りー」で終わるのが好きなんで。ボーナストラックの「Beautiful World」は熱くてかっこいいですね。いつ聴いても良い。「Beautiful World」をリリースした時に宇多田ヒカルは24歳。「First love」が16歳で「One Last Kiss」が38歳。天才だ。

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