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磐梯熱海温泉~その後~

2019年5月、父方の祖父の米寿を祝うために地元郡山に帰省した私と妻は、宿で一泊し実家に向かった。

父方の祖父の米寿のお祝いは盛大に行われた。

私と東京から来た叔父さんでタラの芽の天ぷらを作り、魚屋に嫁いだ大叔母さんは刺身を、その他にも皆がごちそうを持ち寄り、最後は親戚一同で記念撮影をした。

すごかったのは別の大叔母さん(祖父は長男で弟妹は6人いる)で、なんと庭で抹茶をたてて皆に配っていた。

ちなみに、実家は農家なのでトラクターなどの農機具に囲まれた状態で抹茶をたてていた。

その際、叔父さんの一人がふざけて「春の海」をBGMとして流したことで正月みたいな雰囲気になり異様な空間が出来上がったりした。

皆が帰った後、祖父と話しながら日本酒を飲んだ。

私の兄弟や父は酒が飲めない。

唯一、実家で一緒に酒を飲んでくれるのは祖父だけだった。

そんな祖父も数年前に癌で胃を切っているので酒は飲めない。
その為、終始お茶だった。

祖父は50歳を過ぎてから酒が飲めるようになったらしい。
それからは農作業が終わった夕方辺りに、時代劇の再放送を見ながら酒を飲むのが好きだった。
時代劇が終わり酔いが進むと、決まっておもむろに取り出したアコースティックギターで”禁じられた遊び”を弾くのだ。

夏はビール、冬は熱燗。

子供のころの私は、よく祖父に美味しいの?と聞いていた。

「ビールはのど越しがいいし、肉でも魚でもあう」

「日本酒は温めると甘くなって、匂いが良くなる」

私は、そんな祖父と過ごす時間が好きだった。

胃の手術をしてから、祖父は痩せた。
酒を飲む前までは痩せていたらしいので、それがもともとの姿だったのかもしれない。

しかし、私にとって祖父は太っていて、そのわりに足が細いイメージが強かった。

地元の帰ると、人も物もどんどん変わっていくんだと感じさせられる。
もちろん、自分もだ。

熱海温泉に浸かっている時も考えたが、それが歳をとるということかもしれない。

なんて、感傷的になっていると、祖父がどこで知ったのかYoTubeで見たい動画があるから調べてくれと言ってきた。それは”禁じられた遊び”の練習動画だった。

祖父は昔のようにギターを取り出すと動画を見終わった後に「こうか?」と言いながら弾き始めた。

そういえば、祖父がこの曲を最後まで弾いているのを見たことがない。何回も何回も見た光景だが、祖父はまだ練習の最中なのだ。

もしかしたら、本当に少しずつ、ほんの少しずつ祖父は成長しているのかもしれない。

変わるというのは悪いことだけじゃない。

いい方向に向かうこともある。

米寿になった祖父を見て、そう思った。

歳をとることに、勇気を持てた気がする。

そういえば、祖父はよく

「人間死ぬまで競争だ、死ぬまで勉強なんだよ。毎日同じなんてないんだ」

と言っていた。

時間が経つたびに、その言葉は私の心に食い込んでくる。

祖父の生き方は、まさにそうだと思った。

この2019年5月の旅行は、私にそれを思い出させてくれたかけがえのない思い出となった。

2020年7月現在、コロナウィルス関連で日々新しい対応を求められている。仕事も、家庭も。
そんな中、祖父の言っていた言葉は私に力を与えてくれる。それは、「去年までは」や「コロナがなければ」という現実逃避した後に、すぐに気持ちを切り替えさせてくれる。

毎日、同じなんてないんだ。日々勉強なんだと。


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