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エルサレムは 「イスラエル最大の都市」 ではない 〜 テレ朝「こんなところに日本人」など 2番組の批判

タイトルの上に掲げた 4つの地図は、中東の パレスチナ PALESTINE において、1947年(左端)から、1947年11月29日にまだアメリカ合州国を筆頭に欧米諸国中心だった国連総会において採択された、当時の同地におけるアラブ人(以下、パレスチナ人)とユダヤ人の人口比並びに土地所有率を完全に無視した(パレスチナ人にとって)不当な内容の国連パレスチナ分割決議案(左から 2番目の地図、国連総会決議181号)、そして 1948年の「イスラエル」建国と第一次中東戦争、1967年の第三次中東戦争を経て(左から 3番目の地図)、現在(右端の地図)に至るまで、同地のパレスチナ人たちが「イスラエル」による土地の略奪とその国策に基づくイスラエル人(ユダヤ人、アメリカ合州国をはじめ欧米諸国等からの新たなユダヤ人移民を含む)たちによるパレスチナ占領地(複数の国連安保理決議に違反して「イスラエル」が 1967年以降 半世紀以上にわたり占領し続けている東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区)への国際法違反の入植などによって、領土を奪われ、土地を失ってきた、その変遷を表しています。

アメリカ合州国(以下、アメリカ)の If Americans Knew という名の非営利団体の Facebook から入手した地図ですが、この種の地図は様々な組織・団体の SNS 上の投稿から手に入れることができ、例えば同じくアメリカの非営利団体 Jewish Voice for Peace も、その Tweet 投稿において、同種の地図を掲載しています。

ただし、本投稿のタイトル上に使った地図は 2018年時点において作られたもので、したがって、右端は 2年前の状況を表したものであって、仮に細部を厳格に、正確に表わすのなら、イスラエルのこの間の新たな違法入植地建設によって、パレスチナ人は 2020年1月の現時点において、さらに土地を失っています。

なお、上の地図に関し、投稿タイトル上の画像スペースに入り切らなかった部分を入れた全体像は、以下の通りです。

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合わせて、1947年時点のパレスチナ(イギリス委任統治領パレスチナ, Mandatory PALESTINE)の地図を、以下に掲げておきます。

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因みに、1967年6月の第三次中東戦争によってイスラエルが新たに占領したパレスチナ人の土地、すなわちガザ地区、東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区に関しては、エジプトのシナイ半島、シリアのゴラン高原(同高原総面積のうちの約 7割)とともに、同年 1967年11月22日に採択された国連安保理決議242号が、イスラエルのそれら占領地からの撤退を要請しています。うち、その後イスラエルが同決議に従ったのは、1978年のキャンプ・デービッド合意以降に順次エジプトに返還していったシナイ半島に関してのみです。

ガザ地区に関しては、現在はイスラエルは同国軍隊やイスラエル人(ユダヤ人)入植地については撤退・撤去したものの、イスラエルが同地区を完全封鎖し、その結果、同地区は電気を使えるのも 1日 4時間程度、また断水も頻繁に起き、食糧や医薬品など日常生活に必要なものも十分には入って来ない、病院、学校などの公共施設の建物もイスラエルによる度重なる重爆撃によって破壊されたものが多いにもかかわらず再建のための建設資材も十分に入って来ない、医薬品や医療設備が不十分でガザ地区外(ヨルダン川西岸地区など)での治療が必要な難病の患者やその家族も含めて人間の出入りも厳しく制限される、といった、非常に劣悪な環境に置かれており、ガザ地区は既に何年も前から「世界最大のゲットー」「世界最大の強制収容所」とまで形容されるような有様で、国連が今年 2020年までに「人間が住むことができない状態になる」恐れがあると警告しているほどです。

さて、前置きが長くなりましたが(書いてきたことは今後のパレスチナ問題に関する投稿の中でもあらためて詳述していきたいと思います)、本投稿のタイトルに書いた「本題」の中身に移ります。

本題とは、テレビ朝日の 2つの番組における、「パレスチナ」に関する誤った説明についてのものです。

番組の一つ目は、『世界の村で発見!こんなところに日本人』というタイトルのもので、元々は昨年、2019年 2月12日に放映されたもののようですが、私自身は、本年、2020年 1月 4日の朝、たまたまテレビをつけた時にやっていた再放送のものを観ました。既に番組は始まっていたので、番組冒頭から観たわけではありませんが、その『緊急事態勃発SP 危険 イスラエルにジュニア』とかいった副題の「イスラエルの村に住む日本人」に関わるエピソードの部分は、まだ始まったばかりだったものと思われます。

箇条書きにしておきます。

1.エルサレムを「イスラエル最大の都市」と形容。

番組では、まずは千原ジュニアという芸名のタレントがエルサレムを歩き、その日本人が住むというイスラエルの村が何処にあるのかを尋ねて回るのですが、そのエルサレムに関し、番組は「イスラエル最大の都市」と形容していました。

エルサレムについては、本投稿の冒頭で触れた、パレスチナ人にとっては甚だ不当な内容の 1947年採択の「国連パレスチナ分割決議案」においてさえ、同市全体を国際連合を施政権者とした信託統治とする、とされていました。

しかし、その後、1948年、「イスラエル」建国直後の第一次中東戦争の結果、新市街の西エルサレムがイスラエル支配下となり、その後は「パレスチナ」という名の新たな国家が建設されないまま、ヨルダンが東エルサレムを含むヨルダン川西岸地区を統治、同様にガザ地区をエジプトが統治していました。

それらがさらに、1967年 6月の第三次中東戦争によって、イスラエル占領下の土地となります。

上にも書きましたが、東エルサレム(エルサレムの旧市街を指し、歴史的建造物や各宗教上の重要な施設は殆どがこちらにあります)、ヨルダン川西岸地区、およびガザ地区に関しては、1967年11月22日に採択された国連安保理決議242号をはじめとする複数の国連安保理決議が、イスラエルのそれら占領地からの撤退を要請しています。

したがって、少なくとも東エルサレムは、イスラエルが半世紀以上にわたって国連安保理決議に違反して違法に占領し続けている土地なのです。

日本を含む国際社会は、イスラエルの首都についても、イスラエルが 1980年になって一方的に首都であると宣言した「イスラエルの首都エルサレム」を認めておらず、各国の大使館はテルアビヴに置かれたままです。

トランプ政権になって従来からの「イスラエル寄り」の外交姿勢をますます鮮明にしたアメリカは、2018年 5月に在イスラエル大使館をテルアビヴからエルサレムに移転しましたが、この件に関しては、大国アメリカに追従する国は非常に限られており、世界の殆どの国は、東西を統合した「エルサレム」新旧両市街全体を「イスラエル」領だなどと認定してはいないのです。

番組のエピソードの中で千原ジュニア氏が歩いていたのは明らかに東エルサレムなのですが(因みに私自身、東エルサレム、西エルサレム、さらにベツレヘム、ナブルス、ヘブロン、ビルゼイト等のその他のヨルダン川西岸地区の街、ガザ地区、そしてテルアビヴやハイファ、ナザレといった、1948年の「イスラエル」建国以降 1967年以前から「イスラエル」統治下にある街々も訪ねたことがあります)、番組は上に大略書いたような歴史的背景、歴史的事実に関して欠片も触れず、ただ、エルサレムを、「イスラエル最大の都市」と形容していました。

あまりにお粗末です。

2.地図上に「パレスチナ」の名の記載が皆無。

番組放映中、TV画面に映る地図には、「ヨルダン川西岸地区」との記載がある一方で、「パレスチナ自治区」といった記載は全く無く、その地図は、イスラエルという名の国の国土(正式な領土)の中に、東エルサレムもヨルダン川西岸地区もガザ地区も存在しているとしか読めないようなシロモノでした。

3.ガザ地区に住む人々を凌辱、侮辱するようなレベルのくだらないギャグ

途中、千原ジュニア氏が下腹の調子を悪くするくだりがあるのですが、そこで使われたギャグ・フレーズが、「お腹がガザ地区」。

ガザ地区は、上で触れた通り、「世界最大のゲットー」「世界最大の強制収容所」と形容され、国連が今年 2020年までに人間が住むことが出来なくなるような環境になると警告している地域です。

「お腹がガザ地区」とは、まさに下劣極まりない「お笑い」フレーズだという他ありません。

4.その他

千原ジュニア氏がエルサレムで乗ったタクシーのイスラエル人運転士(ユダヤ人、イスラエル「国内」には 1948年のイスラエル建国や戦争後もイスラエル領に残ったアラブ人、すなわちパレスチナ人やその子孫も住んでいますが、彼はユダヤ人のイスラエル人でした)から、「パレスチナ人の青年からナイフで心臓を刺されるイスラエル人(ユダヤ人)」と説明される、彼のスマートフォンに保存された映像を見せられるシーンがありました。もちろん、その「映像」そのものは番組内で流されていません。

イスラエルが今も違法占領を続けている東エルサレムや、その他のヨルダン川西岸地区の街では、イスラエル兵によってパレスチナ人が射殺されたり投獄されたりする事例が頻繁にありますが、多くの場合、イスラエル側は、例えば16歳、17歳といったパレスチナ人女子高生も含めて、イスラエルの統治(占領)に不満を持つ彼ら彼女らがナイフを持っていて、イスラエル兵を刺そうとしていた、という説明をしたり、声明を出したりしています。

一部「自爆」的な覚悟で決行する人間がいるかもしれないとしても、重武装した占領軍であるイスラエル軍の兵士をナイフで刺そうなどとしたら、十中八九、射殺されるであろうことが容易に想像できる条件下で、ナイフ片手にイスラエル兵に襲いかかるパレスチナ人が多数いるとは、俄かには信じ難いものがあります。

ネット上には、イスラエル兵が放った実弾で路上に倒れるパレスチナ人の脇に、ナイフを「仕込む」イスラエル兵、だとする映像すら出回っており、何が真実なのか確かめるのは困難です。

いずれにしても、番組のしたことは、いわゆる「パレスチナ問題」の中身には一切触れないで、あたかも「パレスチナ」、「パレスチナ人」、「パレスチナ自治区」といったものがほとんど存在していないかのように印象づけられる程度のもので、イスラエル側の主張だけを一方的に垂れ流したようなレベルのものです。

その他、挙げればキリがありませんが、千原ジュニア氏が、東エルサレムの街において、パレスチナやイスラエルの問題に少しでも通じている人間からすれば明らかにパレスチナ人と分かる、やや高齢の人に、ヘブライ語で「ありがとう」と言い、そのパレスチナ人から「シュクランだ。アラビア語ではシュクランだ」と言い返され、千原ジュニア氏が、「ヘブライ語ではダメなんや〜」と呟くシーンなどもありました。

「パレスチナ問題」の存在は、いまや国際社会の常識です。バラエティ番組であろうとも、番組制作に当たるスタッフは、最低限の節度、最低限の予備知識を持つべきです。

あまりにお粗末な番組でした。

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さて、テレビ朝日のもう一つの番組。これについては、簡単に書いておきます。

今年 1月 7日に放送された、「羽鳥慎一モーニングショー」の番組内でのこと。

その日は、アメリカによる「イラン革命防衛隊」司令官ソレイマニ氏の暗殺を切っ掛けに、アメリカとイランの間の軍事的緊張が高まっていたことを背景とした特集をしていました。

中東の各国がアメリカ、イランのどちらにつくかということを解説していた時に(「同じ国の中にも様々な主張がある場合があり単純な色分けはできませんが」と口頭で補いつつ)、説明用のパネル上に、イラン側につく国(イラクなど)を青く塗り、アメリカ側につく国(サウジアラビアなど湾岸諸国等)を赤く塗った地図が掲載されていました。

その地図上では、東エルサレム、ヨルダン川西岸地区、ガザ地区といった、イスラエルが半世紀以上にわたって違法占領を続けているパレスチナ人の土地、すなわち日本を含む国際社会の殆どの国が正式な「イスラエル」領とは認めていないところも全て赤く塗りつぶし、アメリカ側につく「イスラエル」として説明していました。

主題はあくまでアメリカ・イランの二国間の軍事的緊張関係にあったとはいえ、やはり、あまりにお粗末な地図であった、としか言いようがありません。

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ところで、今日はたまたま今月観た日本のテレビ番組の中における「パレスチナ」「イスラエル」の扱いを紹介してきましたが、今から 2週間ほど前、アメリカの有名なクイズ番組が、キリスト生誕の地とされる場所に建立されている世界的に有名な「聖誕教会」(The Church of the Nativity, 日本語では降誕教会とも呼ばれ、ヨルダン川西岸地区のベツレヘムにあります)は何処にあるかという問題に、回答者の一人が「パレスチナ」と答えたにも関わらず不正解とされ、続いて別の回答者が答えた「イスラエル」が正解とされる事件がありました。

この件はアメリカ国内で大きな話題となり、Jewish Voice for Peace などパレスチナ人の人権や民族自決権、帰還の権利を支持する人々を中心に多くの人から批判されるという、ちょっとした「騒ぎ」になりました(後に番組が不十分ながらも「釈明」と一定の「謝罪」に追い込まれています)。

その件については、明日以降、またあらためて投稿したいと思います。

昨年 9月11日に note に登録して以来、度々、パレスチナとイスラエルに関わる問題を取り上げてきました。

過去の投稿もご覧になっていただければ幸いです。

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