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ラベンダーのパンツ

朝4時半にサイレンみたいなアラームが鳴ったので、ベッドから脱皮する虫のようにするりと抜け出し、パンツ(下着)だけが入った洗濯機を回す。その間、私はシャワーを浴びながら、小田和正の「キラキラ」を熱唱する。朝4時45分。

濡れてパーマのようにウェーブする前髪が鬱陶しいと思いながら、パンツを洗濯カゴに入れる。レノアハピネスアロマジュエルのおかげでラベンダーの香りが狭い六畳を覆う。一つ、パンツからラベンダーを香らせることに何の意味があるのか。こいつらは今後、冷たい風と熱くない陽光に打たれ水分を失う。そして、暗い引き出しにしまわれた後、残念ながら私の下半身へ直に触れる。朝5時。

ラベンダー。細やかで繊細な紫が斜面に広がる。その斜面が単なる平面でないことを紫の創る陰影が証明する。初夏の軽い風がその陰影を右に左に、上に下にゆっくりと動かす。また、風はその香りを遠くに運ぶ。それによって、ここは意地らしい壁のない、誰かの、何かの延長線で働く場所なのだと知る。たまたま本棚にあった北海道の観光誌を見ながらそんな富良野のラベンダー畑を想起する。朝5時15分。

パンツだけが瑞々しい紫とともにラベンダーの香りを放つ。一方の私は相変わらず陳腐で滑稽で味がない。パンツに負けた。私はラベンダーのパンツに負けた。悔しい。パンツなんかに負けてたまるか。朝5時半。


琵琶湖に車を走らせ、朝日を見た。神社を探索した。茂みの中に紫式部の歌碑があった。1200年の時を超えて、彼女を残すナニカが暗闇にある。朝7時半。

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