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裂け目

「どうなってるんだ!この仕事ぶりは。何度言ったらわかるんだ!」

私はいつもの日常に耐え難い苦痛を感じていた。
そもそも、あまり仕事には興味がないのである。
しかしこの世界では、
全てが数字で管理されている。
なにをするにも数字、数字、数字。

人生ポイントを稼がなければ、暮らしていけないのである。
だから、ちゃんと仕事に従っている者は、比較的裕福な暮らしをしている。
私はどうやら裕福ではないようだ。

「私は一体、なにをしたいのだろうか」
ある日、思い立った。
「そうだ、宇宙飛行士になろう」
思い出すと、私は、子供の頃から宇宙が好きだった。
あまりに唐突だが、それでも、過去を振り返れば、納得を感じる決断である。

その日から私は努力を積み重ねた。
ハードなトレーニングや、猛烈な勉強を日々行った。
そしてついに、宇宙飛行士への合格を勝ち取った。
念願の宇宙飛行士になることができたのである。

その日は最終出勤日だった。
早々に仕事を切り上げて退勤し、
浮ついた気持ちで空を見上げながら歩いていると、空に薄らと裂け目が見えた。
なんだろうと思い、不安に駆られたので、急いで自宅に帰った。

「あれは、一体何だったのだろう」
好奇心のまま、再び自宅の窓から空を見上げてみた。
すると裂け目から、みるみるうちに、大きな、とても大きな、灰色の腕が伸びてきていた。
その腕はあっという間に大地に到達しそうな勢いだった。

私は驚きのあまり気が付かなかったが、
自宅の上に腕が伸びてきていたのだ。
大きな腕はそのまま、私の家ごと握りしめた。

そして、裂け目の中に消えていった。

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